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余命幾ばくかの傭兵  作者: いろじすた
第2章 潜れ、アマテラスの根幹

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「迷宮の申し子」

「おいおい、いくら何でもおかしいだろ!?」

 

 信じられないと言った様子でそう口にする豪志。


 井波さんの初レベルアップから1時間が過ぎ、俺達は樹海の中心部分に来ていた。

 ここに至るまで【調教師(テイマー)】のアークを駆使して、フィアーを集めては狩るという作業を繰り返した。

 

 豪志が驚いているのは俺がまた別のアークを使っている事ではない。何故なら、調教師のアークはコッソリと使用しているからだ。


 じゃあ、豪志が何に驚いているかと言うと――。


「いくら何でも10回連続で上昇値MAXなんて、どうやればそんな神掛かった事ができるんだよ!?」


 と言う訳だ。

 井波さんのステータスは次の通り。


名 前:井波春風

ランク:Fランク

パーティ:カイト

レベル:11

H  P: 40(+27)

攻撃力:140(+100)(+27)

防御力:40(+27)

敏 捷:140(+100)(+27)

技巧性:40(+27)

運  :777

装備:フェザースピア(攻撃力+100、敏捷+100)

 

 見事にレベルアップ時のステータス上昇値MAX値の3が反映されている。


「それだけじゃねぇ、なんだよこの取得物の量は!?」


 フィアーを倒すと必ず角石は必ずドロップする事のだが、素材については必ずしもドロップするとは限らない。素材によってドロップ率があるとされるのだが、今日俺達が倒したフィアーは100%何かしらの素材をドロップしている。


 長年調達屋として迷宮に潜っている豪志にとってはあり得ない事なのだ。


「あ、あの、何かおかしいんでしょうか!?」

「おかしいってもんじゃねぇよ! あッ、カイト! お前、分かっていたな?」


 予想が的中した事が楽しくてついつい笑みを浮かべていたら、豪志にツッコまれる。


「分かってはいなかったかな。何となく予想はしていたけど」

「どういうことだよ? あぁ!? これがお前が言っていた春風のアークか!? 迷宮内で作用するか不透明って言ってたよな?」

「うん、その通りだよ。仮定が確信に変わったよ」

「なら、もう教えてくれてもいいよな?」

「井波さん、いいかな?」

「はい、豪志さんであれば構いません」

「ありがとう、春風」


  豪志であればという言葉に豪志は上機嫌だ。

 

「井波さんは、【愛され少女(バンビーナ)】というアークマスターなんだ」

「初めて聞くマスターだな。もしかして、ユニークなのか?」


 ユニークというのは、この世界に二つとないアークマスターの事を指す。

 例えば、銀の乙女団(うち)の副団長であるダニエル戸越がそれだ。

金属匠(メタルマイスター)】であるダニエルは、この世界にあるありとあらゆる金属を自由自在に扱える唯一無二のアークマスターだ。

 そんなユニークアークマスターの目撃例はかなり少ないため、希少な存在だと言えるだろう。

因みに、俺はユニークアークはコピーできない。

理由はわからないけど……。


「その可能性が高いと思う。そして、井波さんは【幸運吸収(フォーチュンドレイン)】というアークが井波さんの意志とは関係なしで常時発動していて、周辺のあらゆる生命体から微量の運気を分けてもらい自分の運気を上げるというアークなんだ」

「使い勝手が良くわからないアークだな」


 ここで、ラッキーホルダーの事には触れない。


「だけど、こと迷宮では――」

「あぁ、この上ない能力だ」


 どうやら豪志は井波さんがどれほど規格外か理解したらしい。


「あのぉ……よく分からないですけど、そんなに規格外なんですか? 私のアークって」

「春風の運は、俺達の約15倍で素材のドロップ率は10~25%だ。俺達の15倍の確率でドロップすると言う事はほぼ100%ドロップするという事になるわけだ。そんでもって、レベルアップ時のステータス上昇値は1~3まで各33.3%とされている。ここ10回とも春風の上昇値平均がMAX値の3ということなら、3にその運が作用しているという事になる」


 ポカーンと状況が飲み込めていなそうな井波さんに補足説明をする。


「単純計算で普通の人が1個の素材を手に入れている間に井波さんは10個手に入れられるという事だよ。それと、万が一、井波さんが俺と同じくレベル999になった場合、俺よりも井波さんの方がはるかに高いステータスになる。理解できるかな?」

「そんなことが……」


 どうやら理解してくれたらしい。


「迷宮の申し子かよ。いいのか? こんな俺と組んでもらって」

「井波さん単体の力ではこのアークは宝の持ち腐れってやつだからね。信用できる仲間を作って上げたかったんだ。そう考えるとやっぱり豪志は適任だと思っているよ」

「お、おう」


 いくら、ドロップ率が高くてもステータス上昇値が高くてもフィアーを倒さない限り、何の意味もない。

 だからこそのパーティだ。

 豪志は、斥候として優秀だし性格も悪くない。

 一緒に切磋琢磨していけばこの二人は近いうちにトップクラスの調達屋になれるだろう。

 欲を言えば、後2人ほどパワータイプと魔法タイプがパーティに加わってくれればいいのだが……まぁ、それは今すぐって訳でもないしゆっくり探すとするか。


「と言う訳で、一旦、今日は井波さんのレベルを20まで上げつつ迷宮の1階層到達を目標にしようと思う」

「いいんじゃねぇか? レベル20過ぎたらいくら配分率があるとしてもここでのレベル上げには限界があるからな」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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