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余命幾ばくかの傭兵  作者: いろじすた
第2章 潜れ、アマテラスの根幹

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「友と呼びあえる存在がまた一人」

 軽く打ち合わせを行いアマテラスの根幹の入口に続く樹海に向かう。

 調達屋協会日本支部の入口とは反対側に樹海へと続くゲートが設置されている。そして、ゲートの前にはシステムスキャンによる本人確認が行われる。

 これは、他の国の調達屋協会支部共通である。


「えっと、これってどうすればいいんですか?」


 初めてシステムスキャンによる本人確認を行う井波さんから戸惑いの言葉が漏れる。

 まぁ、初見では分からないよね。


「まず、手前にあるそこのカードリーダーに会員証を読み取らせた後にそこの黒い四角の中に入って全身をスキャンすれば終わりだよ」

「はぁ」

「まぁ、言っても分からないよね。豪志、お願いしてもいい?」


 ここは、先輩調達屋の見本を見せてもらおう。


「おう、言うても簡単だけどな」


 そう言って豪志は会員証を取り出しカードリーダーに当てる。

 カードリーダーからティロン♪という音がすると、豪志はそのまま黒い四角の真ん中に立つ。

 すると、頭部の方から地面に向かって緑色の光の線が通りすぎ、先程と同じ様にティロン♪という音がしたのを確認した豪志は、四角の中から出てゲートの前へと移動する。


「まぁ、こんなもんよ」

「ありがとう。さぁ、井波さんもやってみようか」

「は、はい!」


 豪志がやったように井波さんは、カードリーダーに会員証を当ててから四角の中に入る。

 緑色の光の線が通る際にピンと背筋が伸びる井波さんを見て心がくすぐったかった。


「鷹刃君、出来ました!」

「うん、俺もそっちにいくね」


 俺も豪志同様初めてではなかったので、流れ作業の感覚でシステムスキャンを終えた。


「よし、じゃあ行こう」


 ゲートをくぐり樹海へと足を踏み入れた。



「普通に森、ですね」


 樹海に入った井波さんの第一声だ。


「まぁ、樹海っていうくらいだからね。豪志には悪いけどここから付き合ってもらうよ?」


 どんな物理の法則で浮かんでいるか分からない球体の光を指さす。

 基本迷宮内では、各階層のスタート時点に到達ポイントが存在している。それがこの球体だ。

 到達ポイントに会員証を当てると個人の情報が登録され、自分が到達したポイントであれば一瞬で移動できるという仕組みだ。

 まぁ、毎回この樹海の様な楔への道筋(ザ・ロード)を通って一から迷宮に潜るのかなりの手間だしね。

 因みにこれもどうしてなのかは判明されていない。


 俺が豪志に悪いと行ったのは、豪志はアマテラスの根幹においては10階層到達者だ。つまり、10階層まではスキップできるのに俺達のせいで樹海スタートになってしまった事について煩わしく思っているかもしれないと思ったからだ。


「問題ないぜ? だって、俺達は……なんだ、パーティだろ?」


 少して照れならが豪志はそう言ってくれた。

 出逢い方はあんまりいいモノではなかったけど豪志はいい奴だなぁ。


「あの……私はどうすれば?」


 初めて迷宮に挑戦する井波さんは何をすればいいのか分からず戸惑っているようだ。


「一旦、今日のところはフィアーに気をつけて俺達についてきてくるだけでいいかな」


 俺の言葉にウンウンと頷く豪志とは正反対に井波さんは理解できていないようなそんな顔をしている。


「えっと……私は戦わなくていいんですか?」

「うん。でも、樹海には俺と豪志なら大した事ないフィアーでも井波さんにとっては危険なモノもいるから周辺の警戒は怠らずにね」

「でも、私、戦わなければ……レベルが……」

「ん? レベルがどうかしたの?」

「海人、春風はパーティシステムの事を知らないんじゃないか? だから、自分がフィアーを倒さないとレベルが上がらないって心配してるんじゃねぇか?」

「あぁ……なるほどね」

「パーティシステム? 何ですか? それ」

「あぁ、それはな」


 パーティシステムについて豪志が説明する。

 

「パーティを組む事によって迷宮内では色々な事ができるんだ。その中でも経験値はパーティメンバーが倒したフィアーの分がパーティ内で分配されるようになる。また、分配の割合も設定できる」

「つまり、分配の割合によっては私が倒さなくても鷹刃君や豪志さんがフィアーを倒せば私に経験値が入ると言うことですか?」

「うん、その通り」

「でも、それって良いことなのでしょうか? 何かズルしてるみたいで」

「経験値を稼ぐパーティメンバーの俺達が良いって言ってるんだ全然ズルくないぜ。春風が1日でも早く強くなってくれた方が俺はいいからな。それに俺も海人にパワーレベリングしてもらうつもりだし」

「そう言うこと。だから、気にしないでレベルを上げる事だけを考えて。豪志のためにも井波さんは豪志のレベルに早く近づかないとだから」

「分かりました」

「じゃあ、豪志、早速パーティの登録頼めるかな?」


 パーティの登録は、到達ポイントで行う事ができる。

「え? 俺がパーティリーダーやるの?」


 パーティの登録をすると登録者がパーティリーダーとして設定される。だから、豪志が登録すれば自ずと豪志がこのパーティのリーダーになるのだ。


「うん。俺は調達屋になるつもりが無いからね。それなら本職の豪志がやるのが道理だと思うんだ。井波さんはどう思う?」

「そうですね。今後鷹刃君が抜ける事を考えれば、このパーティが解散する可能性もそのまま残る可能性も両方あるので、残った事を考えて豪志さんがリーダーの方がいいと思います」

「というわけだ。豪志、頼めるかな?」

「分かった、俺がやるよ。でも、パーティ結成初日で抜ける時の話とかすんなよな」

「あぁ、そうだね。ごめん」


 折角パーティ組んだのにと少し寂しそうな顔で豪志は到達ポイントに手をあてると、半透明なパネルが現れる。


「井波さん、会員証少し貸してくれる?」

「はい、どうぞ」


 俺は、パネルを操作している豪志に俺と井波さん二人の会員証を手渡すと豪志は頷き球体に向けて3枚の会員証を順番に当てる。


「パーティ名どうする?」

「……カイト」

「ん?」

「いや、パーティ名はカイトが良いって事だよ」

「なんで? 俺の名前だよね」

「お前がこのパーティを抜けてもパーティ名にお前の名前があったら一緒にいる感じがするんじゃか」


 決してふざけている訳ではない。

 豪志は本気でそう思ってくれているんだ。


「素敵です! 私もパーティ名は【カイト】がいいです」


 井波さんもノリノリだ。


「一つの聞いていいかな?」

「あぁ」

「昨日会ったばかりの俺に対してどうしてそこまで考えてくれてるのかなぁって」


 豪志の俺に対する考え方はある程度の時間を共に過ごし信頼を築いた仲間そのもので、昨日今日出会った俺に向けるものではない。


「何言ってんだよ。お前に迷惑掛けた俺を受け入れてくれたじゃねぇな。それだけで十分だぜ」

「裏切るかもしれないよ?」

「そん時はそん時で、パーティを解散すればいいだけけの事だよ」


 屈託ない笑顔を向ける豪志を見て自然と口元が緩む。


「ははは、そうだね」


 俺は友と呼びあえる存在がまた一人増えた事に喜びを感じていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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