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余命幾ばくかの傭兵  作者: いろじすた
第1章 孤高な井波さんとラッキーホルダー

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「新たな居場所 ②」

 魔翔機から光柱エレベーターにより地上へと降る。その際にパーソナルスキャンによる入国審査も行われる。

 ヤマトアイランドの地を踏みしめた俺は、そのまま、有料自動魔動車乗り場で自動魔動車に乗り込み、団長から預かった住所を口にする。


「第三区画一丁目千二百番一号まで」

『ダイサンクカク、イッチョウメ、センニヒャクバン、イチゴウデスネ?』

「うん、そうだよ」

「カシコマリマシタ、オキャクサマノ、ゴアンゼンノタメニ、シートベルトノ、ソウチャクヲ、オネガイイタシマス」

「うん、しめたよ」

「ゴキョウリョク、アリガトウゴザイマス、モクテキチマデハキョリ、ニジュウゴキロメートル、ショヨウジカンハサンジュップン二ナリマス。デハ、シュッパツイタシマス」

「うん、お願いします」


 ウィーンという機械音を出しながら車体が宙に浮く。

 昔の車は、ゴムのタイヤというものを履いていたと聞いた事があるが、資源の無駄、環境に良くないなどの理由で今となっては、ほぼない。

 残っているのは、金持ちが趣味でもっているクラシックカーくらいだ。

 もちろん、公道は走れず会員制の専用サーキットで走らせているらしい。

 まぁ、車体の金額だけでサラリーマンの生涯賃金を優に超すのだから、まさに、上流階級の娯楽といえるだろう。


「それにしても、綺麗なところだな」


 人生の三分の二を研究所で過ごし、それからは殆ど戦場に身を落として生きてきた俺にとって、瓦礫、ゴミ一つ落ちておらず、建造物もすべて健在しているこの街並みに目を捕らわれている現状は、致し方ないことだろう。

 目に映る全てが、新鮮で、真新しい。

 そんな俺の時間は、あっという間に過ぎ、気が付けば目的地に到着していた。


「イチマンエン二ナリマス」

「カードで、いい?」

「デハ、コチラニカードヲ、カザシテクダサイ」


 備え付けのディスプレイにタッチという文字が点滅している。

 その個所に向けて、右腕のバンドを近づけると、ピピッという音がする。決済完了を報せる音だ。

 

「アリガトウゴザイマシタ」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 誰もいない空間に一礼し、自動魔動車からおりると、トランクの荷物が独りでに俺の前に置かれる。


「よいっしょっと、ここだよな?」


 赤レンガ造りの二階建ての一軒家を緑いっぱいの庭園が囲っている。庭園というよりは、菜園と言った方がいいのか……なぜなら、そこら中に野菜が成っているからだ。


「凄いなぁ、いったい何種類あるんだこれ。てか、本当にここで間違いないよね?」


 表札を確認すると、そこには、【TAKABA】と書いてある。


「間違いないようだね」


 ここが、目的地であることを再確認した俺は、チャイムを鳴らす。


 一拍おいて、ドタバタと足音がしたと思ったら、ガチャっと玄関の扉が開かれる。


「スミねぇ、本当に来たよ! おにぃちゃん、ママが送ってくれた写真の通りチョーイケメンだよ!」

「おちつけよ、ルミ。てか、あたしゃ、まだ、アニキだって認めてないし」

「もぉ、またそんな事言って! おとーさん、おにぃちゃんきたよおお! みんなでお出迎えするって言ってたでしょおおお、てか、チョーイケメンだよー!」


 同じ顔の女の子が二人出てきた。

 団長を思い出させる輝く様な銀髪。

 ボブスタイルなのだが、スミと呼ばれ少し勝ち気そうな少女は右半分の髪が長く、ルミと呼ばれた人懐っこそうな少女は左半分の髪が長い。

 二人とも団長の面影があり、見た目はかなり良い。

 よく傭兵系の専門誌の表紙を飾るくらい美人でファンも多い団長の血を引いているという事なんだろう。


 そして、少し間を置いて、白衣姿でボサボサ頭の壮年の男が姿を現す。

 この人が、俺の義父となる、鷹刃司なのだろうと自然と理解する。

 義父というのは、日本で生活することに置いて身を寄せる場所が必要だという団長の意見により、俺は鷹刃家の養子となった。


「えっと……、はじめまして、海人です。こんな俺ですが、団長、いや、冴子さんのご厚意で、鷹刃家の一員とさせていただきました。今日からよろしくお願いします」

 

 俺は出迎えてくれた新しい家族に深々く頭を下げる。


「うん、サッちゃんから聞いていた以上に良い子そうだ。僕は、鷹刃司。サッちゃん、君の言うところの団長の夫であり、この双子の天使、スミとルミの父親だ。そして、今日からは、君の父親でもある。ようこそ、君の事を歓迎するよ。海人」


 司さんは、両手を広げ俺を歓迎してくれる。

 だが、俺には根本的な部分で普通の人とは違う部分がある。

 そんな俺の様子に気付いたのだろうか、「どうしたんだい?」と司さんが心配そうな表情を向ける。


「その、俺、色々と特殊な環境で育ったので、家族というものが良くわかってなくって……」

「はぁ? そんなに一つ屋根の下で同じお釜のご飯を食べてれば家族でしょ?」


 勝ち気なスミが、何をバカな事を言ってるんだ? と言わんばかりに、反応する。


「はは、そんなもんなのかなぁ」


 もちろん、俺にはそんな事はわからない。

 ただ、一つ屋根の下で同じ釜の飯かぁ……。


「ふふふ、それで良いと思うよ」

「えっと、何がですか?」

「君、スミちゃんの一言で団の事を思い出しでしょ?」

「なんで……それを?」

「ふふふ、表情を見たらわかるさ。なにせ、今日から僕は君の父親だからね」

「はぁ、そんなものなんですかね」

「君の頭によぎった通りに僕達とも付き合っていけばいいよ。団は君にとって掛け替えのない家族だった、僕達に対しても同じく思って欲しいからね」


 司さんの、言葉にハッとする。


 団のみんなは、俺の家族だったのか……。

 四六時中、一緒にいる事が当たり前で気づかなかった。いや、気づかなかったのは俺だけであって、団の皆は、俺を家族として付き合ってくれていたのかもしれない。


 それほど、団のみんなと長い時間を過ごした。


 そうか……みんなと一緒に過ごしていた時みたいに過ごせばいいのか。

 そう思うと、今まで俺を支えてくれた団のみんなの顔が次々とフラッシュバックする。

 

 みんな、ありがとう。


「司さん、いえ、義父さんの仰る事については理解しました。お陰様で離れて初めて彼らが掛替えのない存在だと再認識する事ができました」

「うん、うん」

「義父さん、そして、義妹達。改めて、これからよろしくお願いします」

「うん、よろしくね!」

「よろしく、おにぃちゃん!」

「別に、アニキって認めたわけじゃないけど、よろしくしてやってもいいよ」


 再び深々と頭を下げた俺に向けられる三つの温かいぬくもり。

 こうして、俺は、第二の家族を手に入れた。 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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