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余命幾ばくかの傭兵  作者: いろじすた
第1章 孤高な井波さんとラッキーホルダー

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「【仮想領域】」

「貴女達如きで俺をどうこう出来ると思っているの? 滑稽だね」

「きぃぃぃぃぃ! 背後に銀の乙女(ママ)がいるからって調子に乗り過ぎだわね坊やッ!」



 ミズ・リンダがホテルの床に手をつき「【仮想領域(ルーム)】」と唱える。

 目に見える範囲がブラックアウトしていく。

 オーロラに似た形状の光のカーテンが部屋中に広がり、次第にそれはドーム状に俺達を囲う。

 端っこが見えないだだっ広い仮想空間の出来上がりだ。



「【仮想領域】」を行使できるのは上級アークマスターの【空間調律師】。

 ただ単に結界を展開するだけであれば中級アークマスターである【結果師】にでも可能だが、【仮想領域】は結界とは少し違う。



 まず、一番の違いは物理的に存在している世界かどうかだ。

 結界は、物理的に存在している。

 つまり術者が立っている現実世界を中心に展開され、【仮想領域】は、その言葉の通り物理的に存在していない世界、仮想空間によって展開される。

 まぁ、両者ともに相手を相手の意志に関係なく閉じ込めるという線では同じだ。



【仮想領域】の内部は、外部からのありとあらゆる関与を遮断するだけではなく、マスターの権限で領域内に存在できる人員の選定が可能なので相手にとってはかなり厄介なアークである。

 味方が領域外に弾き出されてぽつんと一人取り残されるという事も十二分にありえるからね。



 現状、この領域内に存在しているのは俺の他にはホワイトタイガーと白虎会の面々だけである。

 俺一人を相手に結界ではなく【仮想領域】を行使したのは、かなりの広さがあってもここはホテルの一室である。

 部屋の中を壊されたくなかったというよりは、一般客に迷惑を掛ける事をよしとしなかったのだろう。

 それに付け加えて井波さんと夏菜さん、そして、アダムの姿はここにはない。お得意様を戦いに巻き込まないための処置なのだろうと勝手に想像する。

 

 【空間調律師】はかなり有用なマスターだ。

 ミズ・リンダがホワイトタイガーの日本支部長、所謂幹部であることか納得がいく程に。



「あら? 黙っちゃってどうしたのかしら? お友達の前だからって虚勢を張っていたと言うのなら非礼を詫びて二度と余計ななことをしないと誓いなさい。そうしたら、さっきまでの無礼は許してあ・げ・る」

「いや、ミズ・リンダがなかなか優秀だなと感心していただけだよ。ていうか、非礼? 何のこと? 俺は本当の事を言ったまでなんだけど」

「こんのぉガキがぁッ……野郎ども! 腕の一本や二本切り落としても構わないわ! 二度と舐めた口が利けない様に徹底的にやっておしまい!」



 ミズ・リンダの怒号が響くと一拍おいて、俺の頭部に火球が着弾する!

 それを合図にミズ・リンダの手下達は俺に襲い掛かかる!

 



 瞬時に魔法障壁を発動させたため火球はとりあえずノーダメージ。まぁ、普通にくらってもあれくらいの威力なら何ともないけどね。



 立て続けに自分よりも一回りも二回りも大きい男達が襲い掛かってくるのだが、バックステップで距離を取りながら攻撃を往なしながらさっと敵の戦力を確認する。

 ミズ・リンダを含めてざっと20人程度。

 トップランク傭兵団が高校生相手に……とは考えない。

 擬態系(赤)の黒田を簡単に倒した俺だ。

 念には念を入れての事だろう。地上に人員を割いた分逆に戦力が少ないと思っているかもしれない。



 さて、20人の内、ミズ・リンダと相川、そして怪我人の黒田はオーディエンスと化していた。

 

 まず、俺が倒すべきは17人。

 

 その内4人が魔法特化で遠隔より執拗に魔法を放ってくる。

 そして、残りの13人には近接型、というよりは全て擬態系のマスターだ。

 まぁ、ホワイトタイガーは、団長である白虎(べクホ)が擬態系のマスターだからか自ずと彼に憧れを抱く擬態系のマスターが集まっているため擬態系の団員が多い。

 猿、熊、キリン、象などなど……ここは動物園か!?というくらい人型動物のオンパレードとなっている。だが、そのどれもが良くて黒田と同じ【赤】止まり。

 


 ――俺の敵ではない。


 絶え間なく降り注ぐ攻撃魔法を躱しながら、擬態系マスター共を倒していく。


 使うアークは身体強化のみ。

 それで、十分だ!


「ぐぉえ!」

「く、くるなああああ! ぎひゃっ」



 一番の巨体である、象人間を蹴りとばす。

 巨体は吹き飛び、攻撃魔法を放っていた男と衝突する。

 よしっ、狙いどおりッ!

 大したダメージにはならないけど、イチイチ避けるのも面倒だったので一石二鳥な方法を取らせてもらった。


 攻撃魔法を使うマスターはあと三人。

 猿を殴り飛ばし、熊を蹴り飛ばし、キリンを投げ飛ばす。

 俺は、ありとあらゆる攻撃を躱しながら的当ての様に(人型動物)(魔法使い)に当てていく。


 瞬く間に17人が9人に減る。


「どうなってるのよ!? そんな子供相手になにやってるのよッ!?」




 自分が思い描いていたのとは違う結果にミズ・リンダは、パニック状態になっていた。

 そのタイミングで、俺の眼前に鋭利な刃物の尖端が襲いかかる。

 相川だ。

 先程までオーディエンスに徹していた相川が煮えきれなかったのか、俺に攻撃を仕掛けてきたのた。

 だが、別に慌てる事はない。 

 これ位の剣筋避けるのは容易いが、俺はあえて何のアクションも起こさずにいた。



「ビビって動けなかった……ってことはねぇよな?」

「まさか、貴方からは俺を殺そうとする気概が見られなかった。だから、俺は動かなかっただけだよ」

「そうか……」



 相川は、口角が上がる様な気がした。

 相川は俺に向けていた刀を一度下ろし、ミズ・リンダに顔を向ける。



「姐さん、鷹刃は強い。このままだと下手に俺達の手駒を減らすだけだ。タダでさえ最近と面倒な事が増えてきて人手不足じゃねぇですか。ここは、俺に任せてくだせぇ」 

「勝てるわよね?」

「これ以上コイツに何かしらの手の内がないのであれば、今のところ負ける要素は見当たらないですぜ」

「それを聞いて安心したわ。格の違いを教えてあげなさい!」

「任せてくだせぇ。黒田!」

「はいっ!」


 黒田は、もう一振の刀を相川に手渡す。 

 二刀流……かぁ。


「【剣豪(ソードマスター)】というわけだね」

「よく知ってるじゃねぇか」


 【剣豪】は、刀剣を扱う上で最も適したアークマスターである。

 下級の剣士、中級の剣客を経て到達することのできる刀剣使いの最高峰であり、その一番の特徴は二刀流であるという事だ。


 ちなみに単体の戦闘系アークに特級は存在しない。 

 

 各種の武器や体術を極める事で辿りつける頂、【究極戦士(バトルマスター)】のみが戦闘系に与えられた唯一無二の特級なのだ。

 現状、この世界で存在が確認されている【究極戦士(バトルマスター)】はただ一人。銀の乙女団(うち)の団長鷹刃冴子がそれだ。

 まぁ、団長からコピーした俺もだけど……俺のはノーカンで。

 

 団内で【究極戦士】同士が戦ったらどうなるのかという話があり、団長と一度手合わせしてみたのだが、純粋な肉弾戦では団長には全然歯が立たなかった。俺のはただのコピーであり熟練度に関してはないに等しい。

 ハンドルすら触った事がない者が免許証だけを手に入れるのと同義と考えてくれればいい。


 まぁ、俺もそれからかなりの経験を積み重ねているし、今となってはいい勝負ができるのではないかと思う。


 刀を鞘から抜き俺の正面に立つ相川。


「こっちも色々と事情があってな、無駄に兵隊を減らすわけにはいかねぇんだ。だから俺が相手になってやる」

「俺もあんまり時間を掛けたくなかったから助かるよ。早く井波さん達を安心させたいからね」

「ほぅ……俺が【剣豪】と知っても勝つ気でいるのか?」

「今のところ負ける要素は見当たらないかな」

「ハン! 少しはできるとは思っていたが相手の力量も図れないとは……後学のためだ、お前はここで徹底的に潰してやるッ」


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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基本毎週水・土曜日更新です。

ノベルピア様にて先行公開しておりますのでよろしくお願いいたします。

(リンク先 https://novelpia.jp/novel/1353)



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― 新着の感想 ―
[気になる点]  はてさて、ついに始まってしまった海人vs相川ですが、相川が事を構えたくないと言っていた相手が目の前の敵だと知ったらそんな顔をするのでしょう(笑) [一言]  物語の筋からは離れますが…
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