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余命幾ばくかの傭兵  作者: いろじすた
第1章 孤高な井波さんとラッキーホルダー

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「一本筋の通った」

 イチコ―の生徒達に囲まれ連れていかれた先は畳が敷き詰められている道場の様な所だった。


 この場所には俺を囲っていた生徒の倍は優に超すイチコ―の生徒達がいて俺を睨んでいた。こいつらが佐伯一般なのだろう。


 二十畳ほどある道場内には、書道の掛け軸やいかにも年季を感じさせる甲冑や数本の刀が飾られており、道場の中心部辺りに群青色の道着を纏った長身長髪の青年がピンと伸びた姿勢で正座をしている。青年の両眼は閉ざされており精神を集中させていた。東洋の武道で精神統一に使われている瞑想と呼ばれる行為なのだろう。惚れ惚れするほどに美しいものだった。


「さえっうぐっぐぐぐ!」

 

 絆創膏の青年が瞑想をしている青年に向けて声を掛けようとしていたので、俺は絆創膏の青年の口をふさぐ。恐らくあの瞑想をしている青年が佐伯一派のリーダーである佐伯一輝なのだろう。

 折角精神を集中しているんだ、ここで邪魔するのも無粋な物だろう。


「てめぇ! なにしやがるッ!」

「少し黙っていてくれない?」

「……ひぃ……ッ」


 少し殺気を含んだだけで、絆創膏の青年は顔面を真っ青にして後ずさりする。


 なかなか興味深い。

 

 そう思った俺は、佐伯だと思われる青年の前に座りジッと瞑想中の佐伯を見据える。

 そんな俺の様子に佐伯一派のメンバー共は何かしら言いたげそうではあるが、誰ひとり俺を止める者はいなかった。


 ――それからおおよそ30分経過したところで佐伯と思われる青年がゆっくりと瞼を開く。


「よぉ」

「どうも、はじめまして」

「わりぃな、こっちが呼んだくせに待たせちまって」

「いや、君の集中力とその一本筋が通った姿勢があまりにも見事だったものだから時間(とき)が経つのも忘れて見蕩れてしまっていたんだ」

「……ぷっ、はっははははは! おい、聞いたかおめぇら! 何を言うかと思っていたら見蕩れたってよ!」

「そんなに笑う事なの?」

「あぁ、笑う所だろうよ。この佐伯一輝を前にして、そんな上等な事が言えるやつなんて初めてみたぜ」


 やっぱり、この青年は佐伯一輝のようだ。


「名前は?」

「カイト、鷹刃海人」

「鷹刃……銀の乙女(シルバーメイデン)


 佐伯の口から団長の二つ名が飛び出す。

 やっぱり、団長は有名だな。


「一応俺の母に当たるね。義理のだけど」

「ほぅ」

「それで、君が俺をここに呼んだ理由を聞いてもいいかな」


 最初は、自分の手下達の意趣返しかと思っていたが若干違う感じがする。

 だから俺をここに呼んだ理由を問うた。


「てめぇ、サンコーの落ちこぼれの癖になに佐伯さんにため口聞いてんだおらぁ!」

「なめてんのか、ゴラァッ!」

「佐伯さん! こんな生意気なやろぉ、俺達に任せてくださいよッ!」


 とまぁ、外野がギャーギャーと騒々しい。


「黙れ」


 佐伯の唸るような一喝で騒々しかった佐伯の手下どもがシーンと静まり返る。


「わりぃなぁ。騒々しくてよ」

「静かになったから別にいいよ。話を続けていいかな?」

「俺がてめぇをここに呼んだわけだよな?」

「うん。言っておくけど先に始めたのはそこの絆創膏君達だし、俺は手を出していない」


 まぁ、手を出す前にイチコ―の学校代表である大河内さんに止められただけで大河内さんの介入がなかったら絆創膏君達は今頃死に体となっていただろう。


「話は聞いてんよ。勘違いするなよ? 俺が渇望しているのは強者との闘いだ」

「ん? 話が繋がらないんだけど」

「はは。わりぃな、俺は話下手でよ。俺は、別にこいつらの尻ぬぐいなんてしてぇわけじゃねぇ。そんでもって俺がこの世で大っ嫌いなモノは弱い者いじめだ」

「ごめん、やっぱり何が言いたいのかわからないや」

「簡単に言ったらてめぇがつえぇかどうかって話よ。てめぇがつえぇんなら俺が直接相手するし、雑魚だったらここにいる奴らに勝手にヤらせる」


 なるほど、佐伯自身のお眼鏡に叶うのならば直接自分が相手して、そうでなければ相手しないという事か。


「それで、俺は君のお眼鏡に叶ったのかな?」


 俺の問いかけに佐伯は、言葉は返さないが二ィっと獰猛な笑みを浮かべる。


「おい、てめぇら! 俺は今からこの鷹刃とタイマン張るからよ、ぜってぇ手出すんじゃねぇぞ!?」


 どうやら、俺は佐伯のお眼鏡に叶った様だ。


 佐伯の宣言により先程まで俺に殺気を向けていた佐伯の手下どもが、俺と佐伯を囲う様に円を作る。


 そして、佐伯は一歩前に出る。


「さぁ、楽しませくれよ?」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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