最終話 そして、2人は巡り合う
今回は全編ケイン視点です。
それから。俺とレインは2年後に控えた第三次人魔大戦を開戦前に回避するために奔走した。
まずは泡沫の禁書庫に籠り三度目の人魔大戦が起きてしまった理由を調べた。どうやら三度目の人魔大戦は長年にわたって【大聖女】を独占する人類側が魔族が過大な恐怖心を抱いてしまい、防衛本能から開戦に踏み切ってしまったらしい。
「まあ幾ら恨まれても文句が言えないようなことを人類側はしてるからね」
レインの呟きに俺はぐっと拳を握りしめる。
「だとしたら俺達人類に戦う意思はなくて話し合いで不安を解消できないかまずは模索しよう。魔族が決定的な間違いをしてしまう前に。それから、教会の腐り切った体制は場合によっては魔族と協力して、正していけばいい」
そして俺は単身で魔族領に乗り込んで魔族の上層部との交渉を開始した。どうやら羊飼いは対応する七大魔法以外にも魔族の攻撃だったら、完全無効化とまでは言わないまでもある程度のダメージは軽減できるらしい。だから俺はいきなり魔族領に現れた俺に対する攻撃をじっと耐え凌ぎながらも、こちらからは手を出さなかった。攻撃が効きづらく、場合によっては魔族に対抗し得る『羊飼い』の力を持つ俺が無抵抗で話し合いに来た。そのことが、魔族達の信頼を得るために必要だと考えたから。
そんな俺のことを魔族達は最初は警戒していた。でも何度ぼろぼろにされても根気よく魔族領に通い詰めた俺に、だんだんと魔族は心を開いてくれるようになっていった。そして人類の大半は魔族との戦闘意思などなく魔族を必要以上に敵視しているのは教会の上層部や王国貴族の一部でしかないこと、戦わなくていいならば無駄な血は流したくないことを何度も、何度も、訴え続けた。
「だからもしあなた達が人類に対する復讐心などで戦争を考えてるのでなければ……不毛な争いは辞めよう? そして、魔族と人類で手を取れる道を探そう。戦争をしたら魔族が勝つかもしれないけれど、魔族の中でもおびただしい人数が命を落とすことになるだろうから」
俺の言葉についに面会を許してくれた魔王代理――【七大魔法】の使い手はこの260年間ずっと人類側が攫い続けているので七大貴族の男性から選ばれた魔族が魔王の代理として、魔族領の実質的なトップを担っている――は顎を撫でる。そして。
「うむ、貴様の話、乗ろう。こちらとしても無駄な流血を起こすことは本意ではない。それが人の血であっても、だ。ただ――最後に一つだけ聞かせてもらっていいか。スノウ――私の娘は、元気にしているか?」
そこで気づいた。今、目の前にいるのが【時空】の力をもって生まれてきたスノウの、本当の父親だってことに。
魔王代理の言葉に俺は大きくうなずく。
「足を怪我してしまっているけれど、毎日楽しそうにしてるよ。そんなスノウの笑顔を護るためにも、絶対に戦争なんてしちゃいけない。もっと他の方法で魔族も、そして人間も幸せになれる方法を探そう」
「ああ!」
こうして。魔王代理と羊飼いという宿敵同士の絶対にありえないはずだった、男同士の盟約が結ばれたのだった。
しかし、俺たちのこんな努力は結論から言うと失敗した。異世界歴2121年秋。史実と異なり、魔族は終戦協定を守って人間領を脅かしてくることなんてなかった。しかし今度はあろうことが、愚かにも教会が終戦協定を破り、魔族領に侵攻したのだった。巻き戻される前に滅ぼされかけた、その恐怖心に突き動かされて。
その戦争の最中、俺は少しでも早く戦争を終わらせるためにこれまでに作ってきた魔族とのパイプを使って魔族に人類側、もっと言うと教会側の情報を流した。今回だって人類側の戦力は大して変わらず、人類敗北は目に見えている。だとしたら、少しでも犠牲が少ないうちに終わらせなくては。そう誓った俺は断腸の思いで教会を裏切り、時に手を鮮血に染めた。
しかし俺がそんなことをしているのは暫くするとバレてしまった。バレて、俺を守ろうと戦ってくれるアンナの奮闘も空しく、俺は人類側の劣勢でパニックに陥っていた武装神官に大剣で胸を貫かれ、絶命した。
――結局、俺には世界を変えることなんてできないのか。大切な人とちゃんとした恋人になることすら、許されないのか……。
薄れゆく意識の中で、そう自分の情けなさに打ちひしがれた時だった。久々に空間全体が震える感覚が俺のことを襲う。そして。
目を開くとそこには、懐かしい教室の黒板があった。ここは、俺の生まれ育った村の学校。そして、隣にはキョトンとした表情のナナミがいる。
「ってことはまた、俺は戻ってきたのか。5年前の時間に」
「えっ、何わけわかんないこと言ってるの?」
俺の呟きに幼馴染のナナミがツッコミを入れた、その時だった。勢いよく教室の扉が開かれたかと思うと、メイド服に身を包んだピンク髪の少女がなだれ込むように飛び込んでくる。彼女の姿を認識した瞬間。俺の胸は大きく高鳴る。
「ケイン、ここにいるわよね?」
既に懐かしさを感じる声でレインにそう言われて俺が立ち上がると、レインは嬉しそうに俺のことを見てくる。
「状況はどれくらい把握してる?」
「さしずめ俺の死に気づいたレインがまた時間を巻き戻してくれた、ってとこだろ」
「うん。だから今度こそ人魔大戦を止めよう。私と、ケインの二人で。そして、スノウに胸を張れる私になって、平和になった世界で正式にお付き合いしてくれる、んでしょう?」
最後の方だけ少し頬を赤らめて言うレインに俺は大きく頷いて答える。
「もちろんだ!」
(『大聖女の魔法はなぜか『俺にだけ』効かないようです!? ~シスコン大聖女と巻き込まれ主人公が廻る、5つの恋愛譚~』 了)
ここまでお読みいただいて本当にありがとうございます。
第1話を2022年の3月10日に書いて以来。2年ちょっとの時間をかけて、ようやくこの物語を終わらせてあげることができました。いわゆる「俺たちの戦いはこれからだ!」endで人によっては好みが分かれることは重々承知していますが、タイムリープを前面に押し出したこの物語のラストシーンはこれしかない、と言うことはかなり早い段階から考えていました。
それから2年間。アンナ編まで書いて一度筆を折り、それから2023年の3月末にフウカ編だけ更新し、なかなか最終章を書けずにいたところを、「一度10万字の別作品を書き上げたことでこちらの作品もちゃんと終わらせてあげよう」、ということでようやく最終章の執筆に着手するのと並行して旧版を引き払って改めて1話から更新し、そして今度こそ書き終えることができました。2022年の第1話からここまで読んでくださった方はもういないかもしれませんが、これもひとえにこの作品を応援してくださった読者の皆様のおかげです。本っ当にありがとうございました。
完結まで読んでいただいて。この作品はどうだったでしょうか。何かしら「読んでよかった」と思えるものを皆様の心に残せていたでしょうか。もしそうでしたらいいねや感想、そして広告下の☆評価で教えてくださると嬉しいです。今後の参考にさせていただければと思います。
それでは。本作はこれで完結ですが、他の作品でまたお会いできることを祈って筆をおくことにしたいと思います。重ね重ねになりますがこれまでの応援、本当にありがとうございました!




