第41話 【断章】2人を数百年見守り続けてきた、とある一人の女の子のお話 後編
今回、引き続き全編スノウ視点です。
それから260年間。何世代もの『わたし』は色々な時代でケインさんとレインが結ばれるように陰から二人を見守ってきた。でも、その目論見はこれまでことごとく失敗に終わった。相手に出会う前に一方が結婚してしまったり、そもそも二人の身分の隔たりが二人が出会うことそのものを妨げていたり。だとしてもわたしはそれぞれの時代を数十回・数百回と繰り返した。ケインさんとレインが戦争なんかに邪魔されずに結ばれて幸せになるトゥルーエンドが見たいという一心で。
そして辿り着いた260年後の世代。この時代に最初に転生してきた時。あの『レイン』がわたしの姉だと知って、わたしは驚くと同時にこれはもう二度とないチャンスだと思った。これまではレインとケインを探すところから始まる世代も多かったから、その点だけでも今回の私は一歩リードしてる。そして何より、お姉ちゃんとなったレインはなぜだか異常にわたしのことを溺愛し、わたしの言うことならなんだって聞いてくれた。
この時代を逃すともう二度とこんなチャンスは巡ってこない。この時代で、わたしは260年間果たせなかったケインとレイン改めお姉ちゃんが幸せになれるトゥルーエンドを見届けるんだ。そう決意するのは、ある種の必然だった。
しかし。こんなもう二度とないかもしれない好条件からのスタートなのに、お姉ちゃんとケインをくっつける作戦はらそもそもお姉ちゃんがケインさんと出会わなかったり、人魔大戦に駆り出されてケインさんと出会う前に殺されてしまったりでなかなかうまくいかず、この時代でさえわたしは何度もやり直した。
そんな状況で自暴自棄になっていた8937回目の世界で。これまでは起きなかった変化が起こった。なんと【時空】の力が覚醒前にお姉ちゃんに奪われるという事態が発生したのだ。
それに対してわたしは正直焦った。【時空】の力がなければわたしはやり直せない。その焦りが態度に出ちゃったのか、その周回はこれまで何千回と『レイン』との時を過ごしていたはずなのに、わたし達の関係はギスギスして最悪だった。まあその原因は99%わたしがお姉ちゃんに対して理不尽な怒りを抱いていたからなんだけど。そうして8937回目のやり直した世界はお姉ちゃんとの関係が最悪なまま、そしてケインさんに出会うことすらなく、あっけなく終わってしまった。
――【時空】の力を喪った私はもうこの260年後の世界でやり直すことができない。もう、終わったな。
死の間際、薄れゆく意識の中で最後に抱いたのは、そんな後悔だった。けれど。
目を覚ました時。わたしはなぜか5年前の世界でお姉ちゃんの妹として確かに心臓を鼓動させ、息をしていた。
――つまり、お姉ちゃんが【時空】の力で時間を巻き戻したってこと? だとしたら、わたしにもまだチャンスはある!
そう思い直したわたしは、今度こそお姉ちゃんとケインさんをくっ付けるために奔走した。この前の世界では魔法を奪われてからずっとお姉ちゃんにつっけんどんな態度をとっていたけれど、それを改めつつも、『お姉ちゃんの彼氏が見て見たい』なんて無理難題を、無邪気さを装って出してみた。お姉ちゃんに彼氏を作らないといけないというプレッシャーを与えることでケインさんのことを、たとえ最初は偽りの彼氏だとしても連れてきてくれるといいな。そんなことを想って。
そしてお姉ちゃんがほんとに『彼氏』としてケインさんを連れてきた時。わたしは本当に運命だと思った。260年ぶりに、戦争によって引き裂かれた『レイン』と『ケイン』が再会できたんだ。そう思うと目頭が熱くなっちゃったけれど、それは必死にこらえた。そこで泣き出しちゃうと、わたしが転生を何度も繰り返してくれるということがバレちゃうから。
そして始まったお姉ちゃん・わたし・そしてケインさんの3人での生活はまさに夢のようだった。これまではわたしの下半身の自由を奪ってしまったこととかで、微笑みつつもどこか陰のあったお姉ちゃんが影のない、心からの笑みを浮かべるようになって言った。そして同じ時間を重ねるうちにケインさんもお姉ちゃんのことを『女の子』として意識するようになっていった。そんな、本物の恋人のように仲睦まじくする二人のことを見ていると、こちらまでほっこりとさせられた。
だから、2人がどちらも煮え切らないのは見ていてもどかしかった。ここまで近づけたのにあと一歩が踏み出せない二人がもどかしくてわたしは、かなりの荒療治なことは分かりつつも自分が悪役になって、2人が自分の気持ちに素直になれるように促した。
そして今日。まだ完全にはゴールテープは切れていないものの、2人はお互いの本心を伝えあい、ようやく両想い通しになれた。実に260年ぶりに。
何度も何度もやり直して、見たいと思っていた光景にようやくたどり着いた。本当は嬉しさと達成感で胸がいっぱいになるはず。なのに。
なぜかわたしの頬には一筋の温かいものが伝わる。それを小指で拭いながらわたしは呟く。
「あはは、なんでわたし、涙なんて流しちゃってるんだろう。数百年、数千年、もっと長い時間2人のことを見守り、推しているうちに、ケインさんの隣でいるのはわたしでいたかった、なんて思っちゃったのかな。わたし、ガチ恋勢じゃないつもりだったんだけどなぁ。それに、260年前から付き合っている2人の絆に、わたしなんかが勝てるはずがないって最初からわかってたはずなのに」
自嘲気味にそう言葉にしてみる。けれど、それは自分が余計に惨めになるだけだった。
仲睦まじそうに指と指を絡め合う二人から目を逸らすように、わたしは扉の隙間をそっと閉じた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
遂に次回のエピローグが最終回になります。引き続きこの物語の着地点まで見届けていただけますと幸いです。




