表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/42

第32話 第2章エピローグ

今回、◇◆◇の前後でケイン視点→3人称視点、に切り替わります。


 フウカが去ってから一ヶ月後。


「ケイン様、お手紙が届いているのですぅ」


 そう言って屋敷にやってきたアンナが渡してくれた手紙の差出人はフウカだった。封を切ると中からは1枚の便箋が出てきた。



『前略 ケインくん、元気にしていますか。あたしはあの後村に戻り、これまでずっと断り続けてきたお見合いをして隣村の地主の長男と結婚することにしました。本当はもっと運命の相手を探そうかとも思ったんだけれど、どうにも君のことが忘れられなくてね。本当の運命の相手が見つかってしまったら君に対して抱いた気持ちが偽物のようになってしまう気がして怖かったから、本当の運命の相手はわからずじまいのまま結婚してしまうことを決めました。


 ……今、重い女だと思ったでしょ。でも、忘れられないと言いながらも本当に君に対する未練とかは残ってないよ。ケインくんはあたしが一時期、本当に好きになった相手だからこそ、誰よりも幸せになって欲しい。そしてケインくんのことを本当に幸せにしてあげられるのは、ケインくんの隣に立つべきなのはきっとレインさん。それは負け組のあたしが太鼓判を押します。では、お互いに幸せなパートナーと一緒の人生を送れることを祈って。 草々』



 最後まで読み終えると、俺はつい嘆息を漏らしてしまう。


「これが巻き戻しの功罪、か」


 俺の言葉にアンナは頷く。


「ですぅ。時間を巻き戻すことで救われる人もいれば、反対に傷つく人もいる。巻き戻した方が絶対にいいとも言えないし、巻き戻さない方が絶対にいいとも言えないのですぅ。そして少数の『真実を知る者』はその功罪を受け止めなくてはいけないのだと思うのですぅ、残酷なことですけども」



◇◆◇



 時系列は少し戻ってフウカがケインの屋敷にやってきたばかりの頃の話。


 午前二時のケインとの会話を終えてからレインが自分の屋敷に帰ってくると。


「スノウ、なんでまだ寝てないの?」


自分のことを出迎えてくるスノウに気付き、レインは驚きつつもそう妹をたしなめる。


 スノウはそれに答えずに


「お姉ちゃん、さっきまでお兄ちゃんと会ってたんだよね。――お姉ちゃんはこのままでいいの? このまま放っておくと、お兄ちゃんが他の人にとられちゃうかもしれないんだよ。様子を見た感じ、お兄ちゃんにとって何か特別な人っぽいし」


 スノウの口から出るなんて想像もしていなかった内容が飛び込んできてレインは困惑の色を強めつつも


「取られちゃうって……あのケインに限ってそんなことはないよ」


と平静を装って答える。


 ――うん、お姉ちゃんとして完璧。そう思った直後だった。


「嘘。本当は"偽物"でしかない今の関係がいつ壊れるかどうか怖くて内心いつも怯えているくせに。それで、最近はたまに大胆なアプローチをしては自爆して自己反省会を開いているくせに」


 スノウの発言にレインのうなじにうっすらと冷や汗が浮かぶ。でもまだ大丈夫、取り返せる。そう自分を思いこませてレインは会話を続ける。


「偽物でしかないって、なにが?」


「わたし、知ってるんだよ。レインお姉ちゃんとケインお兄ちゃんが、本当は好き同士で付き合ったわけじゃないって。恋人の振りをしているだけだって。そして、そのように恋人の振りをしているだけだったはずなのにその中でお姉ちゃんが、本当にケインお兄ちゃんのことを好きになっちゃったことも」


「!」


 これは流石に動揺を隠せずにほんの数秒の間顔に出してしまうレイン。でも、すぐに切り替えて


「お姉ちゃん達が恋人の振りをしていたってこと、気づいてたんだ。でもね、別に今だってケインに本当に恋愛感情を持っているわけじゃないんだよ」


とうそぶく。いや、レインとしては本当にうそぶいているつもりはなかった。自身がケインに対して抱いている感情が何と呼ばれるものか、この段階ではレイン自身が気づいていなかった。これから暫くの間ケインと会えないと聞いた時に感じた虚無感・自分は一緒にいられないのにフウカと言う女の子と男女が2人きりで同じ屋根の下にいるということに対する胸苦しさ。それがなんなのか、レインには分からなかった。


 頑ななレインを前にしてスノウは呆れたようにため息を吐く。


「まあお姉ちゃんが認められないならそれでいいや。でも、もしお姉ちゃんがぐずぐずしているなら、お兄ちゃんのことはわたしが頂いちゃうからね」


 そう言うスノウの瞳を、レインは自分の妹であるのになぜか怖いと感じてしまった。その感覚はこれまで20年以上生きてきた中で、一度も抱いたことのなかった種類の恐怖だった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。予定よりも更新が遅くなってしまいましたがこれにて2章・フウカ編は完結です。次回からはいよいよ最終章となります。この物語の行く末を最後まで見守っていただけますと幸いです。


章の終わりということで。このお話が少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら↓の☆評価やいいね、ブックマークや感想で教えてくださると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ