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第23話 第1章エピローグ

 今回、◇◆◇の前後でケイン視点→第三者視点に切り替わります。

 それからというもの。アンナはこれまで以上に俺にまとわりついてくるようになった。


「アンナはゼロロス教会に残ってよかったのか? 教会のこと嫌いなんだろ」


 レインに頼まれた教会外へのお使いの道すがら。俺は隣を歩くアンナに尋ねる。その質問にアンナは手を顎に添えて


「うーん、確かに教会は嫌いですぅ。今すぐ隕石かなんかが落っこちてきて滅びればいいといつも思ってるですぅ」


とさらっと怖いことを言った後。


「でも、ここにはケイン様がいるですぅ。そして、アンナがケイン様の補佐官でいられるのもこの場所だけですぅ。だから、ケイン様がレイン様の羊飼いを続けるなら、アンナもずっとご一緒するのですぅ。アンナが羊飼いを辞めて、そのポストを他の女に取られるのもイヤですぅ。でも」


 そこで言葉を区切ったかと思うとアンナは急に前へと走り出して、俺の方を振り向いてくる。


「でもいつか。戦争を回避して平和になった後でもいいのですぅ。落ち着いたら、一緒にお店を開くのですぅ」


「商店、か。でも俺、農民の出身だし経営のこととかよくわからないぞ」


「いいのですぅ、ケイン様はお飾り店長で」


「それでいいのかよ」


 俺がそう苦笑した時だった。


「相変わらずケインの周りは楽しそうね」


 振り返るとそこにはナナミがいた。ナナミの姿を見ると俺は一瞬身構えてしまう。でも、今日のナナミは前に出会った時とは打って変わって、俺達を微笑ましいものでも見るような目で見つめている。前回みたいに嫉妬やらなんやらはしてなさそう。


 そこまで確かめると俺は心の中で安堵のため息をつく。


「そういえばまだこの前のお礼を行ってなかったわね。この間は付き合ってくれてありがとね。なのにあの日、感謝の言葉もそこそこに逃げ出しちゃって。でもあの日のデートで私のいろいろ吹っ切れてさ、今まで以上に聖女の訓練に身が入るようになったんだ。これもケインのお陰。ありがとね」


 そう爽やかに言うナナミから闇のようなものは読み取れない。


「幼馴染のケインが自慢したくなるような凄い聖女になって見せるから覚悟してなさい? ――で、今日ケインの隣にいるのは……?」


「申し遅れましたですぅ。アンナはケイン様の第2婦人? 側室? のアンナですぅ」


「どっちもちげぇよ!」


「第2婦人? 側室? ケイン、幼馴染として(・・・・・・)ちょっと話があるんだけどいいかしら」


「俺は無実だぁ!」


 急遽始まるナナミと俺の鬼ごっこ。でも、逃げてる俺も、追いかけているナナミも、それを眺めているアンナも、みんな笑っていた。


 ――こんな風景、時間が巻き戻らなかったら絶対になかっただろうな。


 ――守りたいな、この光景。


 ナナミから逃げながら、俺はそんなことを思った。



◇◆◇



 その日の夜。とっくにスノウが寝静まり、ケインも自分の部屋に帰した後。


 レインは消灯した自室で1人、風で揺らめく蝋燭の炎をじっと見つめていた。


 誰かが扉をノックする音が聞こえてくる。レインが「どうぞ」と言うと、入ってきたのはアンナだった。


「レイン様が私だけを呼び出すなんて珍しいですね。私のことを避けているような気がしていたので」


「そういうアンナも、私だけしかいない所ではいつもの甘ったるい口調じゃないのね」


「あれはケイン様のためだけのものです。大嫌いなものの1つであるあなたに対してそんなサービスするわけないじゃないですか。――で、話って何です?」


 アンナの言葉にレインは暫く何かを迷っているように視線を揺らす。でも結局、意を決するように深く息を吸い込んでから、口を開いた。


「――アンナは大聖女システムの真実についてどれくらい知っている? 」


 思わせぶりなレインの言葉にアンナは怪訝そうな表情になる。


「どういう意味ですか?」


「その反応を見る限り、やっぱり知らないわよね」


 アンナの問いに直接答えずにレインは独り言のように呟く。


「これ以上不毛な時間を使うくらいだったら帰りますよ。私、なるべくあなたと同じ空気を吸いたくな」


「大聖女って言うのが本当は何なのか、ゼロロス教会が本当は何をしているのか、人魔大戦とは何だったのか」


 いきなり重々しい雰囲気で話し出したレインの貫禄に、アンナは気圧され、思わず口を噤んでしまう。


「本来は知らない人に話すべきことじゃないことはわかってる。でも、あなただって私達と同じように”大聖女システム”に振り回された側の人間だもの、全てを知る権利があると思う。でも真実はきっと、あなたのことを不幸にする。だからあなたは選ぶ権利がある。真実を知るか、知らないままこの先も生き続けるか」


「――なんで私にそんな話をする気になったんですか?」


 レインからの質問に直接答えずにアンナは問う。するとレインは物憂げな表情になる。


「それは、あなたが私と重なって見えたから」


「替えのきかない大聖女と幾らでも替えが効く補佐官じゃ重なるわけ……」


「それが違うのよ。私も、アンナと同じ側だった。私とアンナの違いは2つだけ――私がたまたま大聖女システムやこの王国や教会が隠していることにアクセスしやすい立場にあったこと、そして、私には大聖女の力を肩代わりする手段を知ってたこと。それだけの違いなんだよ」


「肩代わりって……大聖女って、一体本当はなんなんですか」


「それは……」


 レインがそう切り出した瞬間。蝋燭の火は窓から入り込んできた風にかき消され、辺りは一面の漆黒に包まれた。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。これにてナナミとアンナの物語を描いた第1章、完結です。最後に思わせぶりなところで終わりましたがしっかり伏線回収はしますのでこれからもお付き合い頂けると嬉しいです。


 最後にいつものですが。この作品が少しでも面白い、続きが気になるなどありましたら感想や↓の⭐︎評価、いいねで教えてくださると励みになります。


 それでは。またお会いできることを祈って。

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