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第11話 ケインとレインと始まりの場所

 昼時になり、俺達はレインが選んでくれたレストランで昼食を摂っていた。


「はい、あ~ん」


 一口分のスパゲッティをフォークで絡めとってあざとらしく俺の口元まで運んでくるレイン。その手は明らかに震えていて、俺はもう見てられなくなってつい、


「……なあ、もうそんなに無理するのは辞めないか?」


と言ってしまった。言ってしまった直後、後悔が俺のことを襲う。今日一日、ちゃんと恋人を演じ切ろうと誓ったのに。


「無理って?」


 あくまで恋人の振りを続けるつもりなのか、レインは「何を言っているのかわからない」とでも言いたげな笑みを浮かべてくる。


「今日のレイン、俺の恋人の振りをするのにかなり無理してるだろ。見れば分かるよ。俺のこと、本当はまだ少し怖いんだろ」


 俺の図星を衝かれてレインの視線は暫く泳ぐ。それから。


「あははは、やっぱ気付かれちゃったか」


 独り言のようにレインは呟く。


「ごめんね。ケインが悪いわけじゃないの。でも、やっぱりケインが私の「羊飼い」だと思うとやっぱり怖くて。それだけ、これまでどうしようもない「羊飼い」ばかり見せられてきたから。ケインはきっと、そんなことしないって頭では分かってるのに。でも」


 そこで俺の方を真っすぐ見つめてくるレイン。その瞳には強い眼光が宿っていた。


「ここで辞める訳にはいかないよ。スノウに余計な心配をかけないこと、スノウに楽しんでもらうこと、そのためだったら私の心がいくらすり減ってもいい。これだけは譲れない」


「だ・か・ら! もうちょっとお前は自分のことを大切にだなぁ!」


「お2人とも、もう演技の必要は無いですぅ」


 いきなり会話に割り込んできたアンナのことを俺とレインはほぼ同時に見つめる。そういうアンナはスノウの座った車椅子を押していて、車椅子の上ではスノウが気持ちよさそうに寝息を立てていた。


「よっぽどレイン様達のデートを見るのを楽しみにしていたんですぅ? 午前中だけではしゃぎ疲れちゃったみたいですぅ。アンナ達はもうお屋敷に戻るですぅ。だから、お2人の恋人の振りはもう終わり。あとは、適当に時間を潰してから帰ってきてほしいのですぅ。束の間のリフレッシュだと思って」


 必要なことを簡潔に伝えるとアンナはスノウを起こさないようにゆっくりと車椅子を押して出ていった。


 アンナが出ていくと。


「ふにゃぁ」


 明らかに気の抜けた声を出してのけぞるレイン。その弛緩のしようが何よりも、さっきまでのレインが無理をしていた証拠だった。そんな彼女からは先ほどの震えは消えていた。


「ご、ごめんね。スノウが見てないと思ったらちょっと気が抜けちゃって」


「別にいいよ。俺はレインの本物の恋人じゃないんだし、気を遣わなくて。で、これからどうす……って、普通に別行動とった方がいいよな。そうじゃないとリフレッシュにならなそうだし」


 そう言って席を立とうとすると、レインが俺の服の裾を引っ張ってくる。


「なんだ? 」


「いや、えっと、その……。いちゃつきたくはないけど、午後からもケインと一緒にいたいかな、って」


 思いも寄らないレインの言葉に、俺は目を丸くしてしまう。


「いいのか? だってレイン、俺のことが怖いはずじゃ……」


「自分でもわからないよ。 本能的にケインのことは怖い! と思っちゃう自分もいるんだけど、せっかくのお休みなら一緒に居たいって言う自分もいて。一定の距離をとればケインのこと怖いなんて思わないし。……あ、勘違いしないでね、これは本当に恋愛感情が芽生えちゃった、みたいなヤツじゃ、きっとないんだから! それに、私を教会の外に出してくれたのはケインかアンナが見ているところに限って、ってことだし」


 顔を赤らめながら言うレインを見ていると自然に笑ってしまう。


「な、なにかおかしい?」


「おかしい、っていうより嬉しいんだよ。今日デートがはじまった時、俺は自分で思ってるほどレインからの信頼を得られてなかったのか、って少し落ち込んじゃったんだ。でも、少しずつでもやっぱりレインとの距離は縮まってるんだ、って思うと少し嬉しくて。まあそれは”恋人”じゃないんだろうし、そうである必要もないけど」


 俺がそう答えると、レインは安堵したような表情を見せる。


「で、午後からは何処に行くんだ? デートの続きか? 」


 俺の問いにレインはゆっくりと首を横に振る。


「うんうん。予定変更、2人だけなら、ずっと行きたいと思ってた場所があるんだ」




 昼食を済ませた俺達が向かったのは、俺達が最初に出会った喫茶店の前だった。


「私達、最初はここで出会ったのよね。あの時はお互いのことなんて全然知らなくて」


「妙に馬が合うな、って感じですぐに意気投合したよな。今から思うと俺達が惹かれ合ったのは大聖女の力にまつわる不思議な因縁があったのかもしれないけれど」


「あれからもうだいぶ経つんだよね」


「月並な表現だけど、つい最近のような気もするし、ずっと昔のような気もする」


「そうそう、ここのお会計、ずっとケインに払わせたままだったでしょ。それがずっと気になってて。今入るならその分の埋め合わせで何か奢るよ」


 レインの言葉に俺は肩を竦める。さっきお昼を食べた直後ですぐに喫茶店で何かを飲食する気には流石になれない。


 中に入ることなく喫茶店を後にした俺達が次に向かったのは路地裏だった。


「ここで私、随分とかっこ悪いところ見せちゃったわよね」


「まあ今でも家事で失敗するレインのかっこ悪い所なんてしょっちゅう見てるけどな」


「もうっ!」


そう言ってむくれるレイン。と、その時。


 20代ぐらいだろうか、チンピラ3人組が話ながらやってきて、前を見てなかった端の男がレインにぶつかってきてレインはその場に倒れ込んでしまう。今のは明らかにぶつかってきた男が悪い。なのに‥‥‥。


「おい、何処見て歩いてるんだよこのクソが!」


 ぶつかってきた男は倒れたままのレインの腕を掴んで無理矢理立ち上がらせる。


「ぶつかったオトシマエ付けて貰わなくちゃなぁ。――って、よく見ると可愛い面にそこそこいい身体してんじゃないか。だったら、体でお詫びしてもらおうか」


 普通に考えたらチンピラごとき、大聖女の魔法の敵じゃない。真正面から戦わないとしても、時間停止なりなんなりでレインだったらいくらでも逃げることができるはず。


 なのに、レインは全く魔法を使う気配がなかった。ただ腕を掴まれて怯えるだけ。そんなレインを視認した瞬間、俺の体は勝手に動いていた。


「お前ら、なに俺の女に絡んでるんだよ! 」


チンピラ共全員の注意を惹きつけるためにチンピラの前に躍り出つつ、俺は声を張り上げる。すると全員の視線が予想通りに俺に集まる。


「あ゛?」 


「やんのかごらぁ!」


 そしてレインから注意を離したチンピラ3人と俺の格闘が始まった……!

 ここまでお読みいただきありがとうございます。このお話が少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら↓の☆評価やいいね、ブックマークで応援してくださるとうれしいです。

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