第10話 レインとケインの初デート
新章突入の初回はイチャイチャデート回です。
とある日の夜。スノウが寝静まり、全ての家事を終えた後のレインと俺のミーティングにて。
「これは由々しき事態よ」
腕組みをした状態のレインが神妙な面持ちで切り出す。これは話が長くなりそうだな。まあ、昼間の時点から予想はついていたけれど。
それほどまでに今日のレインの挙動はおかしかった。そして、その理由も大体検討がついている。
今日の昼過ぎ。昼食を終えて俺達が3人の時間を過ごしている時のこと。スノウがぽろっと「お姉ちゃん達って、あんまり恋人感ないよね」と漏らしてしまった。
スノウから事情を聴いている俺にとってはその言葉に他意がないことはすぐにわかった。でも、レインはスノウが本気で自分に恋人を作って欲しがってると思い込んでいて、スノウの前では完璧なラブラブカップルを演じることに命を燃やしている。そんなレインにとって、その言葉はかなりのダメージとなったことは予想ができた。
そして今夜の議題はスノウに俺達のラブラブ度合いを見せつけるにはどうしたらいいか、さしずめそんなところだろう。
「確かに最近は3人での生活が当たり前になりかけてきて恋人アピールをするのがおろそかになっていたと思う。こんな調子だと、スノウに私とケインが実は恋人じゃないのがバレちゃうわ。だから、ここで一発ドカンとアピールしなおしておくべきだと思うの」
「神経質すぎるとおもうんだけどな」
「ケインは考えが甘いのよ! 私達が恋人じゃないとバレたらその時は……家庭崩壊の危機よ」
一応諫言してみるが、やっぱり効果なし、か。だとしたら、もう適当に話を合わせるくらいしか俺にできることはない。
「恋人アピールって……一体どうするつもりだよ」
「デートをするの」
「あー、なるほど……って、デート!?」
驚きすぎて裏返った声で聞き返す俺に、レインは自信たっぷりな笑みでうなずく。
「そう。私達がイチャラブデートしているところをスノウに見せつけるの。それで、私達の間の愛が枯れてないことを見せつけて、スノウに安心してもらうの。いいアイディアだと思うでしょ」
「レインがそれでいいなら、まあいいけどさ」
かくして、俺とレインは初デートすることになったのだった。
そして姉が思い悩んでいる時は妹も思い悩んでいるのがこの姉妹で。
「あー、やっちゃいました……」
翌日の午前中。レインが洗濯を干しに行っていて2人きりになるタイミングを見計らい、スノウはそう零してきた。
「お姉ちゃんとケインさんを見てるとつい、『恋人を通り越して夫婦みたいだね』って思って『恋人感ないよね』なんて言っちゃったけど、そんなこと口にしたら最後、お姉ちゃんがなにか無茶をすることなんて分かりきっていたのに……」
「まさにその通りだな。レインは俺とイチャラブデートしているところをスノウに見せつける気らしいぞ」
「私、どうしたらいいんでしょう? 」
懇願するように俺を見つめてくるスノウに俺は肩を竦める。
「ある程度はレインに付き合って俺達のデートを尾行しながら見守ってもらうしか無いんじゃないかな、それで眠くなったとか理由を付けてなるべく早くスノウは俺達の尾行を中断してデートはその時点で終了する、それがレインの面目も精神安定も1番保てるだろ。まあ1人で尾行してもらう、って訳にも行かないからアンナに手伝ってもらおう」
この姉妹って面倒くさいなぁ、と時々思う。お互いがお互いのことを思っているのに相手のことを信じきれなくてすれ違っている。腹を割って話せば、案外もっと風通しのいい関係になりそうなのに、と思う。でも、人にはそれぞれ人間関係を進めるペースっていうものがあるから、2人のことをあまり知らない俺が無理に口を出すことは出来ないよな。今の俺がするべきなのは2人の関係をそれとなく取り持つことぐらいだ。
そう思うと呆れつつも、この姉妹の関係が少し愛おしく思えて、そんな2人の役に立てているのが無性に嬉しくなってきた。
そして迎えたデート当日。
「ごめん、待たせちゃった? 」
そう言って走り寄ってくるレインの姿に、俺は思わず息を呑む。
今日のレインのコーデは淡いパープルのブラウスに白のプリーツスカート。いつも着ているフリル満点のメイド服に比べると今日のレインの恰好は大分大人しめだ。でも、こっちの方がレインの(少なくとも俺が見ている限りでは)控えめなレインの性格に似合っている気がした。そんなレインの姿がいつもメイド服を見せられている俺からしたら新鮮で、俺は不覚にも見惚れてしまった。
何分ほど見つめてしまっていたのだろう。すっかり俺のすぐ隣まで来たレインが
「や、やっぱ変かな」
と恥ずかしげに視線を揺らしたところで、俺はようやく我に帰る。
「あ、いや。会った時からメイド服しか見慣れていないから今日のレインは新鮮で。――凄く、かわいいと思う」
「そっか、いつもスノウに注文された服しか着ないからおかしくないか、って少し心配で」
膝を少し曲げて下から深碧の瞳で見上げてくるレイン。あざと可愛いけど、レイン自身にそんな自覚はない。そんなことを気にできるほど、レインに余裕なんてないから。そうわかっていても美少女のお姉さんにそんなことをされて、まだ15歳の体でしかない俺はつい、ときめきかける。
「ってことは、今日のコーデは自分で考えてきたってことか?」
「まあ自分から提案したデートだし、彼氏のことを考えて自分で一生懸命コーデを考えるところも含めてデートかな、って思って。さ、行こ」
そう言って本物の彼女みたいに、何の躊躇いもなく俺と腕を組んでくるレイン。その積極さにまた俺の意識がとびかける。が……。
腕を組まれた瞬間、レインの体が震えているのが伝わってくる。
考えてみるとレインが俺にここまで過度なボディタッチをしてきたのは数えるくらいしかない。そして前にこのように腕を組んだ時は突然のこと過ぎてなにがなんだか分からないけれど、今思うとその時だって震えていたのかもしれない。
その理由は俺が「異性」と言う以上に「羊飼い」だから。最近は家事も分担するようになって心理的距離がかなり近くなったと思い込んでいた。でも今だって俺はレインから絶対的な信用を勝ち取れていないんだ。
それもそうか、と思う。最初に俺が羊飼いだと分かった時、レインはあれだけ震えていた。あの時は大分マシになったとはいえ、あそこまで俺のことを恐れていた少女がそう簡単に恐怖の対象に心を開ける訳がない。
今だって本当は俺と身体的に触れ合うのなんて怖くて仕方ないんだろう。でもそれを必死に我慢して、妹が見ているかもしれないから必死で恋人の振りを続けている。
そんな彼女に俺は何をしてやれるんだろう、と考えてみる。でも、今の俺に出来ることなんてない、と言う結論に辿り着く。こればっかりは、レインに変わってもらうしかない。そのことが、無性に悔しかった。
それから俺達はレインが立てたデートプラン通りに進んでいった。王立の水族館に植物園を見て回っていく。その間ずっとレインは俺の腕に密着したままで、場合によってはより近づいて「見てみて! あの魚かわいい! 」など黄色い声を上げてくる。でも一度レインの恐怖心に気付いてしまうと、俺はそんなレインを心から可愛いと思えなくて、どこか可愛そうだと映ってしまった。
それでも、俺はそんな感情をおくびにも出さずに、されるがままにレインの言うとおりに彼氏を演じていった。
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