第16話 二年目3月末日のこと
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辺境領で無事に前回治療しきれなかった人達の怪我を治し、ついでに他の人の傷も治療してから大神殿に戻った。
治った体を見て涙を流して喜ぶ人や、跪いて祈るように感謝を伝えてくれる家族の方もいて、ようやく肩の荷が下りた気がした。
帰りの道中も、相変わらず私は何の役にも立たなかったので悔しいが、実に快適だったと言っておこう。
そうして帝国へ旅立つ準備をしながらも日課をこなし、私の自己計算だけど無事に全パラメーターをMAXにできたのはエンディングの三日前だった。
いや~やった! やり切りましたよ! 特に分かり易い変化などはないけれど、言いようのない達成感。爽やかな解放感。新たな旅立ちの予感がするね。
そんなこんなでついに3月の最後の日。
その日は冷たさの解けた柔らかい風が吹く暖かい陽気の晴天の日。
大神殿内のあちらこちらには桃色の花をつけた木が咲き誇り、大神殿の白い石造りの壁と相まって、どこか幻想的にも感じられた。
そんな中、大神殿内の聖堂は厳かな雰囲気に包まれていた。
神聖な静謐さを感じさせる女神像を背に神殿長が立ち、そこから三段ほど階段を下りたところ。聖堂の真ん中に敷かれた金のラインの入った紺色の絨毯に私とヒロインが並ぶ。
その絨毯の外側に五人ずつ聖騎士が並び、彼らの後ろの細やかな彫刻の施された白く巨大な柱が均等に並ぶ辺りに、他の神官さん達が控えていた。
これだけ人がいるにもかかわらず静まり返った聖堂内に、神殿長の言葉が響く。
何やら長々とありがたいお言葉やこれまでの日々の労い等を話していたけれど、校長の話と一緒で右から左へと流れて行ってしまった。
「これより称号の授与式を行う!」
隣に立つヒロインちゃんがぴきんと背を伸ばす。
彼女を見たのが大神殿に来た最初の方だけで、それ以来ほぼ接触が無かったけど、横から見ても相変わらず可愛らしい子だ。
いや最初の頃よりも磨きがかかり、自信やら癒しオーラやらが滲み出している。ヒロインちゃんもパラ上げ頑張ったんだなあ。
「リリーナ、あなたに聖女の称号を授ける。今後も多くの人々を救うためその力を使ってほしい」
神殿長の言葉にヒロインちゃんは一歩足を前に踏み出し、スカートを抓みカーテシーをする。
「お受けいたします」
そのまま神殿長のいる階段の上まで進み、もう一度腰を落とすと、ヒロインちゃんの頭の上に神殿長が植物で作られた冠を乗せた。銀の枝と緑の葉に赤い大ぶりの花と白や黄色の小花が飾られた華やかな冠だ。
すっと背筋を伸ばしたヒロインちゃんは元の位置まで戻って来て、聖騎士のワーズ・タルク卿の方を見て嬉しそうに微笑む。
そんな彼女を愛おしそうに見つめるタルク卿。なるほどラブラブハッピーエンディング☆(公式)①だったか。
この後パイプオルガンの演奏が鳴り響き、白や桃色の花弁が降り注いで式は終わりだ。
二年間色々なことがあったけど、最後は何だかあっけなくて気が抜ける――――。
「クラウディア、あなたに大聖女の称号を授ける」
続いた神殿長の言葉に目を瞠った。え、私?
あれ? 大聖女の称号は聖女となったのちにも鍛練を続け、功績を残した人に贈られるものであって、この段階で授かれるものではないのでは?
しかも、聖女候補二人ともが称号を貰うなんて、ゲームにもそんなエンディングはなかったのに。
あ、なるほど、これから帝国へ向かう私に、せめてもの箔付けをしてくれるということだろうか。
一応上位貴族の出ではあるけれどうちは小国だし、帝国で肩身が狭いだろうから、せめて大聖女という称号を餞別に付けてくれるということか。
大聖女という称号の重さに辞退しようと思っていたけれど、そう考えるともらうだけもらっておこうかな。どうせ自分から名乗ることもないだろうし。
そんなことを考えながら見上げた神殿長が厳かな顔で頷いたので、その心遣いをありがたく受けることにした。
「お受けいたします」
軽く頭を下げてカーテシーをする。
静々と階段を上がり神殿長の前に進むと、両手を組んで腰を落とす。頭に少し重みが乗りふわりと甘い香りがした。私のはどんな冠なのだろう。
そのまま元の位置まで戻り、たくさんお世話になった女性神官さん達の方を見ると、皆様ハンカチで涙を拭いながら何度も頷いていた。
そして、隣に目をやるとヒロインちゃんが心底嬉しそうに笑っていて、あ、いい子だなと思った。
もっと積極的に交流していればよかっただろうか。しかしそうなるとゲームのクラウディアと同じ展開になった可能性も……。
聖堂の高い天井まで突き抜けるようにパイプオルガンの音色が響き渡る。
そしてどこからともなくピンクと白の花弁が降り注いだ。
これで無事にゲームは終了だ。もし何らかの強制力などがあったとしても、これで解放されるだろう。
しかしこれからはある程度の先の予測も出来なくなる。
先の分からない不安に、足元にぽっかりとした穴が開いたような覚束なさを感じた。
ちなみに、私の冠は金の枝に白の葉、桃色の大ぶりの花に乳白色や青紫色の小花が飾られているものだった。
その夜には盛大な祝賀会が行なわれ、多くの人とたくさん話をした。
そういえば以前、一応この国の国王様に帝国の申し入れを受け入れる旨を伝えに行ったところ、国王様は言葉少なく申し訳なさそうに頷き少し頭を下げた。
臣下に詫びることを許されない国王様なりの、守れなかったことへの誠意だったのかもしれない。
気が弱く周りに流されやすくて頼りないけれど悪い方ではないのだ。たぶん。
いやフェルスパー卿の事情を考えると……むむむ。
国王様の隣に座っていた王妃様には憎々しげに睨まれたけど。何で??
そうして翌日。
王国側が用意した大きな馬車に乗るのは、私とバーベナ様とエニシダ様だ。帝国へ行く私を心配して付いて来てくれることになったのだ。
故郷を離れて苦難しかないかもしれない帝国まで来てくれることに、一応遠慮と国に残るよう説得はしてみたけれど、正直なところめっちゃ嬉しいし心強い。二人のことは私が全力で守ります!
それから護衛の神殿兵さん達が二十名ほどと、帝国側からの使者が一人。それぞれが馬車や馬に乗って移動する。
大神殿の大門の前には神殿長や聖女となったリリーナちゃんをはじめ、大神殿に勤めている多くの人が見送りに来てくれた。
私が帝国に行くことは王宮側と大神殿の人しか知らないので、派手な出立ではないけれど十分に嬉しかった。
特にお世話になった女性達にはたくさんお礼を言って、神官見習いの子達が心配で泣いてくれるのを慰めて、馬車へと乗り込む。
見上げた空の青さが眩しくて、手を翳して目を閉じた。鼻の奥がつんとしたのはきっと花粉のせいだ。
あと、ゲームが終わった途端聖騎士達を見なくなったんだけど。ゲーム期間中だけ現れる仕様だったの??
最終話はまとめて投稿したいので、更新が少し遅くなるかもしれません。すみません。




