第15話 二年目3月のこと
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今月末にエンディングを迎える3月のこと。
一先ず“魔力の質”がカンストしたぞやったー!!
ゲームでは3月の最後の日に聖女の称号の授与式が行われ、その後エンディングになる。
ヒロインが聖女となり聖騎士と結ばれるラブラブハッピーエンディング☆(公式)①。
聖女に選ばれなくても、聖騎士と結ばれ二人で旅に出たり領地に行ったりするラブラブハッピーエンディング☆(公式)②。
誰とも結ばれずに聖女として今後も大神殿で働く聖女エンド。聖女になれなくても大神殿で働くことになり、聖騎士達とも友人となる友情エンド。
そして、聖騎士達とくっ付かず聖女にもなれずに実家に帰るバッドエンドがある。
ちなみにエンディングを迎えた翌日に私は帝国に向かうことになっている。
そこでその前に心残りを片付けるべく、先に“魔力の質”だけを上げた。おかげで欠損を治す治癒術を覚えることができたのだ。
だから以前魔物の大氾濫が起きた辺境へ向かうことを申し入れ、どうにか許可を取ることができた。
私の計画では、皇帝を暗殺した後に冒険者になるつもりなので、後々密かに訪れてもいいのだけど、まあできるだけ早めの方がいいかなと。
そんな私の我がままに付き合ってくれることになったのが、聖位4位タクシス・クォーツ卿、聖位8位ヤエル・カルサイト卿、そして聖位9位ラシュディ・ジプサム卿だ。
前回辺境にたどり着くまでに馬車で七日もかかったので、往復でけっこうぎりぎりの日程になる。そこで今回は私と彼ら三人の最低限の人数で向かうことになった。
男三人と馬車旅……大変に苦痛だけど原因は私なだけに無理は言えない。
仕度など自分のことは自分でできるので、道中の安全以外は彼らに頼ることもほぼないだろう。
と思ってたんだけど、野宿舐めてたわー。
急ぎの道中だったので、前回と違い町や村の宿屋に泊るのはタイミングが合った時だけにして、野宿をすることもあった。
食事は携帯食にして、水場もないから次の宿までは体も拭けず、寝るのは譲ってもらった馬車内で毛布に包まって寝る、のを覚悟してたんだけど。
「はい、クラウディア様どうぞ」
差し出された熱々のスープの入った器を、クォーツ卿に礼を言いながら受け取る。
一緒に渡されたのは、どうやったのかふかふかに温め直されたパンに、ジプサム卿が先ほど狩っていた鳥の肉を焼いて味付けして挟んだもの。
デザートに、カルサイト卿が見つけてきた瑞々しい果物も付いている。
ここを野宿地とする! と決めてから彼らの行動は早かった。
周囲を確認ついでに薪になる枝を探しに行く者、食材になりそうなものを探しに行く者、馬車から下ろした桶や鍋に魔法で水を出したり火を起こす者。
私も何か手伝おうとしたけど、「クラウディア様はお疲れでしょうから、荷物の番をしていて下さい」と言われ、馬車の傍から離れることを許されなかった。気遣いを装った屈辱の戦力外通告。
私にできたのは、せめて魔物が入ってこないように一晩持つような結界を張ることだけである。
そして気が付けば石でできたテーブルに椅子まで用意されており、私の目の前には美味しそうな匂いをたてるホカホカご飯が。
変に遠慮するのもあれなので、ありがたく頂きせめて片付けはしようと思ったのに、ごちそうさまを言った途端食器類は持って行かれ、魔法で洗われていた。
しかもいつの間にか馬車の中に香油の垂らされたお湯が張られた桶と手拭いが用意されており、気遣いなのかそれぞれが馬車から離れたところで各々の用事をこなしていた。
人の気遣いを無下にするのもあれなので、ありがたく体を拭かせてもらう。
服も着替え桶の水を流そうと外に出れば、一瞬の間に手から桶は消えており、「体は冷えてませんか?」とクォーツ卿にハーブティーを差し出される。
反射的に受け取ってしまったが、いや桶どこにいったの?
飲み終わると「我々が寝ずの番をいたしますのでご安心を」と言われ、馬車の中に戻された。
「見張り番なら私もやります!」という私の訴えは聞こえないふりをされ、「ゆっくりお休みください」と扉を締められる。ぐぬぬ。
もう一回申し出ようと扉を開ければ、三人で何か話した後カルサイト卿を残して、クォーツ卿とジプサム卿が張られたテントに入って行くのを見て、しぶしぶ馬車の中に戻る。
いやここで意地でも見張りをさせろと言い張るのは、かえって彼らの仕事を邪魔しそうで……。
ふっ……しょせん私など、貴族の令嬢としてぬくぬくと育てられ、大神殿でも丁寧に扱われた、こんな時に何の役にも立たないクソ雑魚脆弱民ですよ。こんなざまで冒険者になろうなど片腹痛い……!
大人しく毛布に包まってふて寝した。
翌朝も目が覚めて馬車から出るとお湯の張られた桶と手拭いを渡され、顔を洗うとすでに用意が終わっている朝食の席に案内された。
今度こそ自分で洗うと食べ終わった皿を掴んでいると、実にスマートにすでに出発の準備の終わった馬車へと促される。
野営地の片づけは? とクォーツ卿に問おうとして、気が付くと両手で抱えていたお皿が無くなっていた。
そのまま馬車に乗せられ野営地を出発する。
あかん……駄目人間にされる……!
野宿でも宿に泊まっても至れり尽くせりで、言いようのない敗北感を味あわされた。
「あ、痛っ!」
「大丈夫ですか? カルサイト卿。よければ治療しましょう」
仕方がないのでささやかながら私にできることをすることにした。
魔力だまりからの大氾濫は収まったとはいえ、もともと辺境は魔物の多い地だ。
そこへ向かう道中に現れた魔物を、タクシス・クォーツ、ヤエル・カルサイト、ラシュディ・ジプサムの三人で手分けして倒していく。
この辺りの魔物など彼らにとっては大した相手ではなく、これらの魔物が近くの町や村を襲うことの無いよう見つければ出来る限り排除しているのだ。それはクラウディアも了承している。
「くっ!」
「カルサイト卿、前に出すぎだ!」
動きの速い魔物に飛び掛かられたヤエル・カルサイトが腕に怪我を負ったのを、ラシュディ・ジプサムが諌める。
「いいんだよ。クラウディア様に治してもらうから」
魔法で動きを止めた魔物に、剣を突き立てて止めを刺しながらヤエル・カルサイトは傷を負った手を振る。
「クラウディア様の治癒術、暖かくて気持ちがいいからね」
辺りを見回せば、襲いかかって来ていた魔物は全て片付いていた。
それを確認し、馬車に結界を張って待っているだろうクラウディアのもとへと足早に戻る。
「クラウディア様! 怪我しちゃったんだけど~」
そう言えばクラウディアは、夜が明ける直前の空のような紺青色の目をこちらに向け、白く細い指で治癒術を行使してくれる。
そして無事に傷が治れば微かに微笑み、その美しい瞳に自分を映して「大丈夫ですか?」と優しく問うてくれるのだ。
そのやり取りがヤエル・カルサイトは大好きだった。
だから大神殿にいるときも、怪我をしてはクラウディアのもとへ行き治療してもらっていた。
その瞬間だけ貴女の目に映るのは自分だけだと。
「あ~あ、他の奴らみーんな邪魔」
クラウディアに魔物を討伐し終わったことを告げ、これからのルートなどを話し合っているタクシス・クォーツとラシュディ・ジプサムを冷めた目で見やる。
護衛は自分一人で十分だったのに。
「ずっと貴女を独り占めするにはどうしたらいいのかなあ」
【交流用掲示板〈ネタバレあり〉】
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561.名無しのきしめん
ヤエル君の裏エンドようやく見れた~
やばいって聞いてたけどほんとにやばかった
あれはヒロインが傍でずっと見張ってなきゃだめなの?
562.名無しのきしめん
>>561
ちょっとでも目を離すと血まみれになってるのって怖すぎる
専門家を呼ぶべきでは
563.名無しのきしめん
>>561
自傷できないように両手両足拘束しとくとか?
564.名無しのきしめん
>>563
なるほどヒロインが15歳の美少年を拘束監禁…と
565.名無しのきしめん
>>564
乙女ゲームのヤンデレエンドとは…
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