第14話 二年目1月のこと
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どことなく重苦しい気配を漂わせたままの大神殿内で迎えた1月。
新年の食事会も皆が手放しで騒げる雰囲気ではなく、豪華な食事を前に静かな会話がそこここで交わされるのみで、新たな歳を迎えためでたさは一切なかった。
特に私と交流のあった女性神官さんや女性職員さん、女性神殿兵さんに神官見習いの子達など、どんよりと暗い空気を背負っていて、私が「気にしないで楽しみましょう」なんて言っても、余計空気が重くなるだけだった。
うむむ、あまり関わりの無かった方々には申し訳ない。
まあ来年は普通通りに戻ると思うので、今回くらいは我慢してもらおう。
皇帝の暗殺計画を練りながらも、パラ上げは欠かさず続けている。
このままいけばゲームの終わる3月までには全部カンストまではいきそうだ。
何かストーリーが変わるのか、特別な魔法が使えるようになったりするのか、楽しみである。
クラウディアの冒険者エンドとか生えないだろうか。
今年の聖女祭りもひっそり片隅で過ごそうと思っていたのに、聖女役を頼まれてしまった。去年はヒロインちゃんが演じたので、今年はクラウディアにやってほしいと。
当然ながら全力でお断りしましたとも。しかしすでにヒロインちゃんとも話がついているらしく、どうしてもと押し切られてしまった。
確かにゲームのイベントだと思ってヒロインに任せていたけど、もしかして彼女もこういった目立つことは嫌いだったのかもしれない。一方的に押し付けてしまって申し訳なかったかも。
幸いだったのが、演じる演目が大聖女シルディア様が聖騎士達を率いて、人々を苦しめていた暗黒竜を倒したという伝承なのだけど、これは聖騎士達が暗黒竜と戦うシーンがメインであり、シルディア様と聖騎士達との絡みが少ないということだ。
せいぜい暗黒竜を倒す作戦をたてる場面と、傷ついた聖騎士を治療する場面くらいで、後は一人で祈りながら聖騎士達を待っているだけ。
事前の練習も台本を渡されて個別練習が多く、聖騎士達と役合わせをしたのも二・三度で済んだ。その分セリフや立ち回りは完璧に憶えて挑みました。
真っ青な青空が眩しい聖女祭り当日。
劇の仕度をするために裏の控室に移動する途中で見た大神殿前の広場は、多くの人が詰めかけて賑やかで皆楽しそうだった。
屋台にも多くの人が集まっていて、去年はテント内にいたのでほとんど見れなかったけど、その騒がしくも華やかな様子は眺めているだけでも楽しい。
ちょっと食べ物の屋台も気になったが、あの人混みの中を移動する勇気はない。
大聖女シルディア様の衣装は、首元から足元までを真っ白でシンプルなドレスで覆い、宝石を使った細やかな装飾が施されている。
頭には柔らかいミントグリーン色のベールがかけられ、ちょっとウエディングドレスみたいだ。
控室から舞台裏に移動する途中、出会った女性神官さん達や神官見習いの子達にすっごく褒められてどうにも照れてしまう。聖騎士達? ああ、まあ、うん。
『聖女様! どうかこの村をお助け下さい!』
シルディア様に助けを求める村の人達と、それを了承するシルディア様と騎士達。
『皆の無事を祈っています』
不安げにしかし皆を信じて激励するシルディア様と、その周りに跪いて首を垂れる聖騎士達。こうやって十人に囲まれると圧巻なんだけど威圧感がすごい。逃げ場がない感じがすごく嫌だ。
あとは舞台袖で、激しい戦闘シーンを繰り広げている聖騎士と暗黒竜の人形を見守るだけだ。
暗黒竜の中の人は魔法を使って攻撃するし、聖騎士達も本格的な剣技や魔法で反撃している。
なので舞台上は臨場感たっぷりのド迫力で、観客席からも悲鳴や聖騎士達を応援する声が多く聞こえた。
派手な爆発が起こった後暗黒竜がドウと横たわると、観客から盛大な歓声が上がる。
そこからシルディア様が登場して聖騎士達の奮闘を労い、傷ついた人達の治療を行うのだ。
流れ通り私を残して全員がはけ、シルディア様が観客席側を向いて女神に祈りを捧げるシーンで。
「――――ディア様」
いったん下がった舞台袖から再び舞台に上がってきたフェルスパー卿が、私の傍まで歩いてくるとすっと膝を付いた。
ん? 台本にこんなシーンは無かったし、劇の練習の際にも無かったけど、何があったのだろう。
内心で首を傾げたまま、黙ってフェルスパー卿の方を向く。
すると手に持っていた鞘に入ったままの剣を、こちらに向かって掲げられる。
神殿から聖騎士へと贈られる精緻な装飾の施された剣には、フェルスパー卿の目と同じような紫色の宝石がはめ込まれていた。
その剣を掲げながら顔を上げたフェルスパー卿は、今日は珍しく前髪を撫でつけて後ろに流しているため、その整った顔立ちが晒され真剣な目が向けられる。
「初めてお会いした時から心惹かれておりました。あなたの優しさあなたの献身を誰よりも近くで支えていきたい」
あ、このシーンはもしかして、シルディア様が伴侶となる方からプロポーズを受けた時では。
大聖女として様々な活躍をしたシルディア様は、聖騎士の一人と結婚し子どもを授かったのだ。その子の血筋が我がローゼリア侯爵家なのである。
このシルディア様が求愛を受けそれに応える話は人々の間で大人気だ。
どこか人間離れした神聖さを持つシルディア様が、慕っている聖騎士を前に一人の恋する女性に戻るのが、多くの人をキュンとさせるらしい。
私も幼い頃からシルディア様のお話を繰り返し読み聞かされているので、このシーンの流れも当然に知っている。
しかし何故急にこの演目を? 尺が余って急遽差し込むことになったのだろうか。
「どうかあなたの心を私に傾けてほしい」
そう求婚されたシルディア様は、鮮やかに頬を染められて聖騎士の差し出した剣を手に取る。そしてその時に言った言葉が――――。
パーン!!
急に辺りに色のついた光が降り注ぎ、大きな音が響き渡る。
驚いて空を見上げると、真っ青な空に次々と赤や黄色、緑色等の色とりどりの花火が打ち上がり、弾けていく。
最初の大きな音に驚いた観客席の人達も、空を埋め尽くさんばかりに重なりながら花開く花火に盛大な歓声を上げていた。
そうして皆が花火に気を取られているうちに、するすると幕が下りていく。よく分からないけど劇はこれで終わりのようだ。最後の方とか特によく分からなかったけど。
でもまあ幕の間から見えた観客の皆さんも楽しそうだったし、女性神官さん達も神官見習いの子達も褒めてくれたし、無事に終わったならよかったかな。
「邪魔をするな」
低く唸るような声に、マルティアリス・フローライトは感情を読ませない笑みを浮かべる。
「予定にないことをされると困るんだよね」
「クラウディア様をあんな奴に渡さないためだ」
今にも喰らい付かんばかりに睨みつけられても、マルティアリス・フローライトはどこか見下したように笑う。
「君に何ができるの。王位継承権を放棄した王子サマ」
「……すべてを取り戻す準備はできている」
強い決意を込めたナクヴィル・フェルスパーの言葉に、「へえ」と軽く驚きの声を上げたものの。
「でも君にクラウディア様を任せるのは不安かな。――君はどうにも危なそうだからね」
心の内にある願望を見透かすように目を細めたマルティアリス・フローライトに、ナクヴィル・フェルスパーはぎりと奥歯を噛み締めた。
【交流用掲示板〈ネタバレあり〉】
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550.名無しのきしめん
ナクヴィル裏エンドはまあ典型的なヤンデレというか
誰にも奪われたくなかったんだなって
552.名無しのきしめん
>>550
最後にヒロインを抱き締めるスチルは綺麗だったけど…
553.名無しのきしめん
>>552
それまでの流れがめちゃくちゃ怖かったわ!
逃げようとするヒロイン追い詰めてって…
555.名無しのきしめん
>>553
夜明け前の薄暗い中でとか想像したら泣きそうになった
ホラー映画か
556.名無しのきしめん
>>555
前髪の間から見える目も正気を失ってて怖かったよね…
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