表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

第13話 二年目12月のこと

評価、ブックマーク、いいね等ありがとうございます。

誤字報告もありがとうございます<(__)>


 朝起きてみたら砦内がとても慌ただしかった。


 話を聞いて来てくれた女性神官さんによると、夜のうちに敵陣営に何か異変があったらしく、敵の国境沿いに敷かれていた前線は壊滅し敵兵もすべて逃げ出したらしい。


 それでこちらにも何らかの攻撃があるのではと警戒していたのだけれど、今までに何らかの異常は起きていないということだった。

 そんな異常事態の中でぐっすり朝まで寝ていてすみませんでした。


 数日は警戒が続いていたけど特に何事も起きず、また敵軍が立て直しに来るということもなく、当分戦いは起きないだろうということで落ち着いた。

 一応見張は立てているものの陣営内にも安堵とのんびりとした空気が戻って来て、一通り怪我人を治し終わった私達も大神殿へと戻ることになった。


 帰る前に遠目に見た敵陣は、何かに踏み荒らされたようにぐちゃぐちゃになった地面に、テント跡や装備品など破片が所々埋まっていて、底知れぬ恐ろしさと言いようのない虚無感を覚えた。



 そうして戻って来てみれば12月である。


 年が明けて三か月もすればもうエンディングで、大神殿(ここ)からも出て行くことになる。


 ゲーム内でもほぼルートが決まっているこの時期は、どこか寂しい気持ちになったものだ。

 パラが足りなくてパラ上げのラストスパートに追われることもあるけど。


 そんな中、いきなり呼び出された大神殿の最高責任者である神殿長の部屋。

 いきなり追放フラグかと怯えながら訪れたその部屋で聞かされた話に、驚きのあまり普段の無表情を保てなかった。


「帝国の後宮に!? 私が!!?」


 どっしりとした執務机に肘をつき、難しい顔をした神殿長から告げられた言葉に声を荒げて聞き返す。

 いやだって、何でも帝国から(クラウディア)に、側妃になって後宮に入るようにと使者が皇帝の書状を持ってきたらしい。


 何で突然!? 意味が分からない!


 うちの国王陛下は使者に本人の意思を確認してから、と答えてくれたそうなのだけど、断った場合は国軍をもってこの国に総攻撃を仕掛けると脅されたとか。


 ギリギリと奥歯を噛み締め蟀谷に青筋をたてた神殿長は大変キレていらっしゃった。


 まあそれはそうだろう。たとえ聖女になれなくても聖魔法持ちは大変に貴重だ。

 それを他国の、しかも基本皇帝しか入れない後宮に本人の意に反し閉じ込めるなど、聖魔法持ちを地上に遣わせて下さった女神への冒涜だと考えているのかもしれない。


 それでも帝国からの申し入れは無視できないのか、「……考えておいてほしい」と言われ、部屋から退出を許された。



 どうして私が……とそればかりが頭を回る。

 正直絶対に行きたくない。けどこの国と帝国との国力の差も戦力差も圧倒的だ。本気で攻撃されたらひとたまりもないだろう。この国を戦場にしたくはない。


 こうなったら………………殺るしかない……!


 そうだだって仕方がないよね男が私に触れるというのならもう殺すしかない男が私にわわわ私に触れると殺す嫌だ気持ち悪いおとこが殺すゆるさないおとこ殺すころすころすころすこここここ……はっ! うっかり発狂している場合ではなかった。


 皇帝の寝室で二人きり(うげ)になった時に暗殺して逃げる……といっても、この国に報復されたら困るので、私も自殺を装うのがいいのかもしれない。

 寝室の傍に川でもあれば飛び込んだふりができるだろうか。何かそういうトリックがあったような……。


「……クラウディア様……」


 頭の中で具体的な皇帝暗殺計画をシミュレーションしていると、声を掛けられ足を止めた。


 振り返ると涙ぐんだり青い顔色をしたバーベナ様やエニシダ様をはじめとした女性神官さん達、とその後ろに聖騎士達が。

 私の後宮入りの話を聞いて心配してきてくれたのかもしれない。


「クラウディア様……」


 もう一度声をかけてきたのはトパーズ卿だった。


「……殺りますか」


 そう言ってカチャリと腰の剣を鳴らす。わー頼もしい! ぜひお願いします!!


「殺ろう」


 ただならぬ雰囲気を漂わせてフェルスパー卿が呟く。いいのか王族。


「この国の総力を挙げて挑めば、帝国軍を倒すこともできよう」


 いつも以上に険しい顔をしたコランダム卿が頷いた。総力……集まってくれますかね??


「皆様……ありがとうございます」


 喜んで差し出されたら泣くとこだった。

 顔色を悪くしながら、でも言葉が出ずに震える女性神官さんをまとめて抱き締めたい。


「お気持ちは嬉しいですが、そんなことをすればこの国にどのような報復がなされるか分かりません」


 あんまり交流はなかったけど、そこまで言って慰めてくれる聖騎士達に少し嬉しくなる。


「私は大丈夫ですわ」


 この手で殺りますんで。


 そう言って微かに笑ってみせれば、女性神官さん達が泣き出した。バーベナ様は顔を覆い床に座り込み、エニシダ様も泣き崩れる。

 二人の傍に寄り膝を付いて、その細い肩を抱き締めた。


「……何故貴女はいつもそんな……」


 絞り出すような苦しげな声は、誰のものだったのだろう。




 一人きりの自室でカーライル・コランダムは机の上に広げた書類を見ていた。


 その中の一枚、帝国側からの申し入れの書状の写しをグシャリと握り締める。腹立たしくて仕方がなかった。


 あの好色の皇帝が我が国の神聖な存在である大聖女シルディア様の血筋を欲するなど、何と不敬なことか。シルディア様の子孫がこの国を出るなど……!


 いや、そうではない。分かっている。側室にと望まれたのがシルディア様の子孫だから腹立たしいのではない、あの方(クラウディア)だからだ。


 類稀なる聖魔法、触れ難き美しさ、高尚な志、均しく注がれる慈愛。常に己を研磨し続けるその姿勢に尊敬の念を抱いた。


 同時にあの清らかな存在が欲望に曝されるのが許しがたかった。

 どうかそのまま純真に神聖なままで。あの方を穢そうとする者がいればどのような手を使っても排除してみせよう。


 領土は小さいとはいえ、伊達に古くから在る国の、長く続いてきた公爵家の出なわけではない。

 長い時をかけてゆっくりと、木が大地に根を張り巡らせるように、水が地に染みわたるように、多方面に手のものを忍ばせてきた。


 それこそ大国である帝国皇帝のすぐ傍、暗殺できる立場にいる者もいる。

 この国の者を動かして、帝国との全面戦争に持って行くこともできるのだ。あの方がそれを望まなくても。


 どのように動くべきか、情報を精査し、下す指示を考える。


 あの方を帝国になど渡したりしない。

 必ずこの手であの方を護ってみせよう。たとえあの方を―――――――。



【交流用掲示板〈ネタバレあり〉】



538.名無しのきしめん

 誘惑に負けて推しの裏エンドの動画見てきてしまった

 カーライルのエンドめっちゃ綺麗だった!

 他のに比べたらかなりマイルドなヤンデレだよね


   539.名無しのきしめん

   >>538

   監禁とはいえ公爵家で部屋も広そうだし案外快適に過ごせるかも


   540.名無しのきしめん

   >>539

   気になってたんだけど監禁するのって部屋の中だよね?

   あの鳥籠の中じゃないよね??


   541.名無しのきしめん

   >>540

   え、いやいやさすがに狭すぎるでしょう

   風呂とかトイレとかどうするの!?


   542.名無しのきしめん

   >>541

   ヒロインはトイレに行かないから(定期

   風呂は知らんけど



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 毎回楽しみにしております。ありがとうございます。 お話が上手過ぎて気になってドキドキしています。 [一言] …ヤンデレしかいないのですか?(号泣) 幸せになってくれると良いですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ