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第11話 二年目9月のこと

評価、ブックマーク、いいね等ありがとうございます。

誤字報告もありがとうございます<(__)>


 迎えた8月の夏祭りの日は、今年こそ一人でゆっくり酒を飲んで過ごしてやると計画していたのに、気が付いたらたくさんのおつまみを用意してあの中庭の東屋に来ていた。

 そしてにこやかにワインとグラスを持参していたダイヤモンド卿と、去年と同じ位置に座ってワインを飲んでいたのだ。


 もおおおお!! 本当に何なのあの人チートがエグすぎる! わけが分からなさすぎる! 誰か何とかしろ!!

 何のパラをどう上げたら、あの人に対抗できるようになるのだろうか。


 そしてふと気づいた。最近ちょっと緩んでいる気がする。私の高嶺の花計画が。

 女性神官さん達や神官見習いの子達に気安く接してもらえるのは大歓迎なのだけど、ちょっと聖騎士達に近づきすぎているのではないだろうか。

 もっと毅然として気高く、触れればドスッと刺されそうな薔薇のような女を目指すのだ。



「ディア様これ~」

「まあ大きいのを見つけましたわね」

「ディア様みて~!」

「すごいたくさん採れたのね!」


 きゃっきゃとはしゃぎながら土を掘り、出てきた芋を見せに来る子ども達に返事をしながら、私も手元のシャベルのような道具で土を掘り、欠けないように気を付けながら芋を抜いていく。

 大きいのが綺麗に採れると子ども達が褒めてくれ、この芋がどんな料理になるのか考えるとわくわくとする。はー楽しい。癒される。


 周りにいるのは子ども達と孤児院に勤めている女性神官さん達。離れたところでは男の人達も芋ほりや採れたものの運搬をしているけど、私の周りは華やかで賑やかで天国だ。


 パラ上げが順調でこのままいけばカンストも可能なのではないかということで、ひたすらパラ上げのために大神殿内に篭っていたのを心配されたのか、孤児院の女性神官さんに知り合いの農家さんにお借りしている畑に芋掘りに誘われた。


 気が付けば9月である。


 王都の城壁の門から外に出て二十分ほどのんびりと歩く。まだ日差しの強さはあるけれどカラッとした風が涼しく、空も青く澄んでいてとても気持ちがいい。

 緩く縦列になって歩きながら両手を孤児院の子ども達と繋ぎ、前と後ろの方を女性神官さん達が囲み、さらに後ろには採れた芋を運ぶための籠を背負った男数人が続く。


 そして、先頭に聖位3位のサティヤ・トパーズ卿、私達の両横を少し離れて付いて来ているのが聖位5位ナクヴィル・フェルスパー卿と聖位6位ハイム・アパタイト卿だ。

 こんなイベントでもない急な外出にも対応しなければならないとは……本当にお疲れ様です。


 たどり着いた畑は結構な広さで、何でも畑の持ち主が高齢になり手が回らなくなった範囲をお借りしているのだとか。

 春先に芋を植え、水撒きや手入れなどは孤児院の職員さん達が持ち回りで行っていたらしい。


 大体の範囲を決めてそれぞれが芋掘りに散っていく。子ども達は自由枠だ。

 ほとんど大神殿からは出ないけれど、鍛練を欠かしてはいないのでそれなりに力はあると信じている。ばりばり掘りますよ。



 そんなこんなで楽しく芋掘りを行っていると、妙な振動を感じ手を止めた。


 顔を上げ周囲を見回すと、子ども達は変わらず一生懸命芋掘りをしているけれど、大人の皆さんは同じように何かを感じ取ったのか顔を上げ辺りを見回している。

 何事かと思っているとまた揺れが。


「――クラウディア様」


 すっと近づいて来たのはアパタイト卿だ。トパーズ卿とフェルスパー卿は腰の剣に手をかけて一定の方向を見ている。


 どうやらこうして地面を揺らすほどの大きな魔物が近づいてきているらしい。こんな王都のすぐ傍で!?


 急いで皆を集めすぐに逃げようと声を掛けていると、フェルスパー卿が近づいて来た。


「すでにこちらを感知しているようだ。慌てて逃げればかえって興奮させて追われることになる」


 大人数で逃げればそれだけ目立ち、真っ先に狙われるのは足の遅い子ども達だ。パニックを起こしバラバラに逃げれば、さらに大変な事態になりかねない。


「ディア様……」


 女の子が不安そうに私のスカートにしがみ付く。気が付けば皆私を見ていた。


 え!? 私がどうするか決めるんですか!!? こんな魔物を倒した経験もない小娘が!?

 全力で首を振って拒否したいところだけど、緊迫した空気がそれを許してくれそうもない。


 何の覚悟も出来ていないまま、一度ふうと息を吐いた。


「まずは誰かに助けを呼びに行ってもらおうと思うのですが、二人くらいなら大丈夫でしょうか」


 アパタイト卿とフェルスパー卿と話して、足の速い男性二人に王都まで戻ってもらうことにした。

 突然の重大な任務に顔を強張らせた男二人が、出来るだけ静かに場を離れ走っていく。


「トパーズ卿、アパタイト卿、フェルスパー卿」


 声を掛ければ三人がその場で私の方を向き、すっと膝を付き頭を下げた。

 いや何で跪くの!!?


「近づいてきている魔物を倒せますか?」

「はい。この命を懸けても」


 一応聞いてみたらトパーズ卿がそう返す。いつもの無表情で怖いことを言わないで。


 実は聖騎士達はこの国屈指の強者ぞろいである。聖位を得るために常に訓練は欠かさないし、強い信念や高い信仰心を持って大神殿に所属しているので、自分の能力を高めるのに余念がない。

 もともとのポテンシャルが高い人も多いし、とんでもないチートもいる。


 そんな聖騎士達が倒せないならば、この国内で倒せる人はほぼいないといえるだろう。


「命は懸けないでください。倒せないならばせめて助けが来るまで引き付けておくことは可能でしょうか」


 追い払って他で被害が出ても大変だし、戦力が集められるならここで倒してしまいたい。


「死んでさえいなければ必ず私が治してみせます。ですから決して命を捨てるようなまねはしないでください」


 まだ欠損を治すことまでは出来ないけれど、念を押して伝えておく。誰とは言わないけれどなんか危うそうなので。


「はい」

「承知した」

「分かりました」


 それぞれが答えて立ち上がる。

 そんな彼らに背を向けて、やり取りを見守っていた子ども達に、膝を付いて目を合わせた。


「私のことを信じてくれる?」


 出来るだけ柔らかく微笑んでみせる。

 そんな私に子ども達は「……うん」「……しんじる」と答えながら頷いてくれる。

 そのまま子ども達の周りを囲んでいる女性神官さん達に顔を向けると。


「はい」

「もちろんです。クラウディア様」


 と硬い表情のまま答えてくれた。


「ありがとう」


 にこりと微笑む。信頼は嬉しいけれど、重責に吐きそうだ。


「このままここに魔物除けの結界を張ります。そして魔物の様子を見ながらゆっくりと後退しましょう」


 野生の熊に出会ったときはそう行動したほうがいいって、前世で聞いたことがある気がするし。魔物も同じでいいのかは分からないけれど。


「絶対に皆を傷つけさせはしませんわ」


 改めて聖騎士達の方へ振り返る。それぞれが頷いてくれたので対処として間違ってはいなさそうだ。

 間違いとか不備とかあったらちゃんと指摘してほしい。


 ズシンと体の芯に響くような振動を感じた。もうすぐ近くにいるのが分かり、慌てて皆を囲むように円形に結界を張る。聖騎士達もそれぞれが散開していった。


 バキッメキメキッと木が折れる音が近づいてきて、ガサガサと広範囲の草木が揺れる。

 

 ゆらりと顔を出した魔物に息を呑んだ。

 三階建てのビルほどの体高にびっしりと体を覆う鱗、車ほどの大きな頭に長い尻尾。ギョロリとこちらを見下ろす目は縦長で、黒い縞模様のある黄土色の体は見るからに堅そうだ。


 まるでコモドオオトカゲの足を長くしたような巨大な魔物。


 その魔物が木々の間から顔を出しこちらに顔を向けた途端、まんまコモドオオトカゲのような走り方でこちらに急接近してくる。もったりした動きの割に速い!

 背後で子ども達の泣き叫ぶ声がし、大人達が必死に子ども達を抱え込んだ。聖騎士達も慌てて飛び掛かるけれど、魔物の動きを阻むことが出来なかった。


 顏から結界にぶつかった魔物は、バチバチと盛大な雷に弾かれながらもグアと口を大きく開け、こちらを丸呑みにしてこようとする。


 それと真正面から対峙した私の恐怖ときたら! 人目が無かったら白目を剥いて卒倒してたわ!

 ガクガクする足をスカートの下に隠して、子ども達や女性神官さん達を背に必死で魔物を睨みつける。


 結界はきっちり仕事をしてくれているので、どれほど魔物がぶつかろうと壊れる様子はない。でも大きな口と長い紫色の舌で結界をべろんべろんするのは止めてください!


 横に回り込んだトパーズ卿が伸ばされた魔物の舌を切り落とす。大気を震わせるような叫び声を上げて、魔物がトパーズ卿の方へ顔を向けた。

 その隙にフェルスパー卿が魔物の顔へと飛び上がり、片目を突き刺した。人間離れしたその動きに目を瞠る。そういえば聖騎士(彼ら)が本気で戦っているところを今まで見たことが無かったのだ。


 剣を構えながら距離を取ったトパーズ卿とフェルスパー卿の方へ魔物が食いつく。そのまま後退して私達のいる場所から離れた、開けた空間の方へ移動するようだ。

 彼らを追いかけて向きを変えた魔物の尻尾がバッチーンと結界に打ち付けられて、大きな悲鳴が上がる。びびびびびっくりしたあああ!


 うまく誘導された先の離れた場所ではアパタイト卿が魔法で魔物の動きを封じ、フェルスパー卿とトパーズ卿が足を斬りつけている。


 魔物がズシンと体を地に付けたところで、王都の方から馬が数頭駆けてくるのが見えた。その向こうには武装した人達の姿も見え、救援が間に合ったのだと肩の力が抜ける。


 また魔物の咆哮が響きそちらに顔を戻せば、魔物の頭の上に立ったトパーズ卿の振り上げた剣が光を纏って一筋の線を作った。



 その後、安堵に泣きじゃくる子ども達を抱き締めて宥め、王都から来た冒険者達の力も借りて無事大神殿まで戻ることができた。

 聖騎士達は魔物が出た時の状況の説明や、魔物の解体などのためにあの場所に残ることになったようだ。


 誰一人欠けることなく皆を孤児院に送り届けて、私も奥殿内の離れの部屋に戻る。


 扉を閉めて部屋に一人きりになった途端、全身が震えて立てなくなる。うわああああ! ほんっとうに怖かったあああ!!

 何だったのあれ!? どこから来たの!!? 動きも速くて気持ち悪かったよおおお!!


 誰も見ていないことをいいことに、床をごろんごろん転げ回る。毎日きっちりと掃除しているから埃まみれにはならなかった。


 しかし思ったよりも聖騎士達が強くて驚いた。あんな大きな魔物を救援を待たずに倒してしまったのだ。


 ああ、とにかく無事に帰ってこれて本当に良かったなあ。




 聖騎士に与えられた大神殿内の一室、所々本が積まれている以外は綺麗に整えられた部屋の中で、窓際に置かれた椅子に腰かけ窓枠に肘をつけてハイム・アパタイトは祈りを捧げていた。


 その頭に浮かぶのは、危機的状況にありながらも凛と立ち、毅然と周りに指示を出す少女の姿だ。

 自らを丸呑みにできるほどの巨大な魔物に対峙しても、決して揺るがず真っ直ぐ睨みつける横顔に見惚れた。


「――いつかあなたが大神殿(この狭い世界)を出て、その身に相応しい場所へと向かわれることは分かっています」


 明りの無い静まり返った室内に、聖句を唱えるかのように静謐な声が漂う。

 魔物が倒れるまで目を逸らすことなく佇む姿は、まるで勝利を約束する戦女神のようにどこまでも気高く神聖で。


「私のような未熟なものは、きっとあなたの傍にはいられないのでしょう」


 組んだ手に額を付け、目を閉じたまま祈るように言葉を続けた。


「けれど叶うことならば、せめてあなたの記憶の中にずっと。あなたの命が終わるそのときまで私の面影があなたの中にあったのなら」



「それはまるであなたの中で永遠となれたように思うのです」



【交流用掲示板〈ネタバレあり〉】



521.名無しのきしめん

 裏エンドどうにかたどりつけたけど…ハイム君のトラウマなんですけど


   522.名無しのきしめん

   >>521

   わかる

   夕陽のスチルが綺麗なだけに怖かった


   523.名無しのきしめん

   >>521

   呼び出されて行ってみたらあれって…SAN値直葬ですわ


   525.名無しのきしめん

   >>523

   残されてた手紙がまた何とも…


   526.名無しのきしめん

   >>521

   ハイム君推しの妹がもうゲームできなくなってた



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