81話 クレオンの来訪
昨日17時頃にも更新しておりますので、まだお読みになっていない方はそちらからどうぞ。
「クレオンが来た?」
まさか、と思ったけれど、考えてみればおかしくない。
クレオンの主導するネクロポリス攻略作戦の総指揮官は、フィリアということになっている。
それなら、顔合わせのために来たって変じゃない。
それに、クレオンの形式上の婚約者で旧騎士団の団長のソフィアも俺の屋敷にいる。
クレオンがソフィアのことをどう思っているかわからないし、聖ソフィア騎士団解体でソフィアの重要性は低下していると思うけれど、貴重な戦力としてソフィアを連れ戻しに説得に来たのかもしれない。
応接間には俺、フィリア、ルーシィ、そしてソフィアの四人が集まった。
対する向こう側は、クレオンとその側近の双剣士カレリアだ。
応接間の長椅子に腰掛け、テーブルを挟んで俺たちは対峙する。
クラリスがやってきて、クレオンたちの前に「どうぞ!」と乱暴に紅茶のカップを置く。
しかも湯気が立っていなくて、明らかに冷めたお茶を出していた。
クラリスはクレオンを睨み、立ち去ろうとした。
クラリスは明らかにクレオンを敵視している。
まあ、アルテの悪行をクレオンは容認しているともいうし、もともとソフィアを連れ戻そうとしていたのもクレオンだ。
それに、フローラの話ではフィリアを誘拐し、魔王復活の生贄にしようとしているらしい。
フィリアの姉代わりのクラリスからしてみれば、許せないだろう。
加えて、クレオンこそが俺を騎士団から追放した中心人物だった。
クラリスは騎士団で活躍していた俺の大ファンだったと言ってくれていたし、その意味でもクレオンにいい感情は持っていないはずだ。
しかし、クレオンはクラリスの冷たい態度などまったく気にしていないようだった。
悠然とした様子で俺たちを眺めている。
自分が歓迎されざる客だとわかっているだろうし、それにメイドの一人にどんな態度をとられようが何の問題もないと判断しているのかもしれない。
むしろクラリスの態度を咎めたのは、カレリアだった。
「そこのメイド。クレオン様に失礼ではないか」
「なにか失礼なことでもしましたか?」
「この方は帝国有数の大貴族にして、この国を救おうとしている方だ。皇帝と首相から救国騎士団の結成を拝命した英雄なのだぞ。もう少し敬意をもってもらいたい」
「あたしにとっての英雄はソロン様だけですから」
あっさりとクラリスは言い、それから俺に向かってちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。
俺も思わず顔が赤くなるのを感じた。
俺は英雄なんかじゃない。
いまや世間で英雄視されているのはクレオンのほうだ。
一方の俺は実力不足だと言われ、騎士団を追われた。
しだいに俺は人々の口に上がらなくなってきている。
だけど、少なくともクラリスは、クレオンではなく俺のことを英雄だと言ってくれる。
それが俺には嬉しかった。
カレリアはますます憮然とした様子で、俺を睨む。
「こんな男、クレオン様と違って何の特別な力も持たないではないか。クレオン様たちの古い知り合いだからといって、副団長として偉そうにしていただけの無能だ」
「ソロン様のことを悪く言わないでください!」
「そもそも貴様はただのメイド。なのに貴族の私に刃向かうのか?」
そう言うと、カレリアは素早く立ち上がると、茶色の細い鞭を服から取り出し、それをクラリスめがけて振りかざした。
一部の貴族は使用人に対して制裁として暴力を振るい、そのなかでもよく使われるのが鞭だった。
クラリスが怯えたように固まる。
次の瞬間、鞭は両断されていた。
俺が宝剣テトラコルドを抜き放ち、カレリアの鞭を斬ったからだ。
「俺の使用人を傷つけようとするなら、カレリアでも許さないよ」
「そもそも貴様が……!」
なおも言い募ろうとするカレリアを制したのは、クレオンだった。
クレオンは立ち上がり、カレリアを鋭く睨む。
「カレリア。僕たちはこんなくだらない言い合いをするためにここに来たわけじゃない」
クレオンの声は静かだったが、カレリアはさあっと顔を青ざめさせた。
「も、申し訳ありません……クレオン様!」
「とりあえずカレリアは黙っていてくれ」
クレオンはため息をつき、それからクラリスのほうを向いた。
「カレリアが無礼を働こうとして悪かったね。これはほんの心ばかりの詫びだ」
そう言うと、クレオンは金貨を何枚か手渡そうとした。
使用人にとってはかなりの大金だ。
しかし、クラリスはにべもなくそれを断った。
「あたしはソロン様から十分すぎるほどのお給金をいただいていますから」
「なるほど。忠義に厚いな」
クレオンは気を悪くしたふうでもなく、それきりクラリスから関心を失ったようだった。
そして、クレオンは俺をまっすぐに見つめた。
「久しぶりだな、ソロン、それにソフィア。どんな経緯があったにせよ、こうして会うと懐かしいよ」
俺とソフィアは顔を見合わせ、そしてうなずいた。
俺が騎士団を追放されたのはそんな昔じゃないけれど、もう何年も前のことのように思える。
「それにルーシィ先生もご無沙汰しています」
「そうね」
ルーシィはそっけなく答えた。クラリスだけでなく、この場にいる全員がクレオンに対して冷ややかだった。
「僕は別にソロンたちと争いに来たわけじゃない。ネクロポリス攻略作戦の指揮官になられる皇女殿下にお会いしに来たのだ」
クレオンは立ち上がったまま、丁重にフィリアに向かって一礼した。
「皇女フィリア殿下ですね。はじめてお目にかかります。公爵テイレシアスの次男にして、救国騎士団団長の団長のクレオンです」
「あなたがソロンを追放した人なんだよね?」
「追放したというと聞こえがよくありませんね。私はソロンのためを思って、騎士団をやめてもらっただけですよ」
クレオンはにっこりと優雅に微笑み、反対にフィリアはクレオンのことを強く睨みつけていた。
いよいよネクロポリス攻略作戦に突入です!
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