204話 俺のもの
ラフィエル侯爵家のマクシムと名乗った男は、アルテを奴隷として売れと言った。
彼は俺と同じぐらいの年頃だろうか。ひょろっとした長身で、顔にはにやにやとした笑みを浮かべている。
侯爵家の息子といえば、かなり身分が高い。
皇女であるフィリアや公爵令嬢のソフィアほどではないにしても、帝国内の最上層に位置する身分だ。
アルテは怯えたように俺の影に隠れている。
俺はアルテをかばうように、マクシムの前に立つ。
「お言葉ですが、どうしてアルテを売れと仰るのですか?」
「その女は、オレとの縁談を断ったんだよ」
忌々しそうに、マクシムは吐き捨てた。
ああ、と俺は理解する。帝都の魔法学校で、アルテはソフィアと並んで、天才美少女として有名だった。
縁談の話もやまほど来ただろう。ソフィアはそういう話を卒なく断っていた。
けれど、アルテは……気が強いから……恨みを買うような断り方をしたこともあったかもしれない。
アルテがパーティの招待状に含まれていたのも、このマクシムの差し金かもしれない。イヴァン皇子が苦々しゲに、マクシムを眺めていた。
マクシムはふたたびにやけ顔に戻る。
「この女は、俺のことを散々バカにしてくれたからな。あのときは同格の侯爵で、しかも天才魔術師だったから手が出せなかった。だが、奴隷として買い取れば……」
アルテがぎゅっと俺の服の裾を握る。そして、黒い宝石のような綺麗な瞳を潤ませて、俺を見上げる。
俺はアルテに微笑み「安心してよ」とささやいた。アルテの妹のフローラに、俺はアルテを守ると約束した。
こんな人間にアルテを渡すわけにはいかない。
そして、マクシムに向き直る。
「今も、マクシム様は、アルテに手を出せませんよ」
「なぜ? アルテは、今は貴族でない奴隷に堕ち、魔法も使えなくなったそうじゃないか」
「アルテは……私のものです。あなたに渡すつもりはありません」
「侯爵の息子の俺が売れと言っているんだ。平民風情が言うことを聞けないのか!?」
「恐れながら、私はこれでも侍従の身分をいただいています」
一応、俺も皇女フィリアの侍従ということで、上級貴族の待遇を受けている。相手が侯爵の息子だとしても、対等なはずだ。
第一、皇帝ならいざしらず、この国の貴族には、他人の財産を理不尽に奪うような権限は与えられていない。
マクシムはぎりりと歯ぎしりをした。
そして、強引にアルテの腕をつかもうとする。「ひっ」とアルテが悲鳴を上げた。
次の瞬間、マクシムは床に仰向けにひっくり返っていた。
「へ?」
何が起こったかわからない、という顔でマクシムはつぶやいた。
俺は彼の顔を上から覗き込み、微笑む。
「暴力はいけませんよ。俺のものに手を出すのであれば、許すわけにはいきません。恐れながら、自衛の手段を取らせていただきました」
マクシムはろくに武術の訓練も受けていないようだったし、素手でも簡単に倒せた。
心配なのは、正当防衛とはいえ、侯爵家の子息に恥をかかせたことだが――。
「気にするな、ソロン」
イヴァン皇子が問題ないと保証してくれた。フィリアもうんうんとうなずいている。
俺はアルテを振り返る。
アルテは上目遣いに、俺を黒い瞳で見つめた。
「あの……守ってくれてありがとうございました、ソロン様」
「いや、大したことをしたわけでは……」
「悔しいけれど、あたしは魔法が使えないと何もできないです。でも、ソロン様は……剣がなくても、強いんですね」
「アルテも何もできないなんてことはないさ」
俺の言葉に、アルテは微笑んだ。
そして、少し頬を赤くする。
「そ、それと……ソロン様、さっきあたしのことを『俺のもの』だって言いました……」
「あ、あれは言葉の綾で、アルテを奴隷扱いしているわけじゃないよ」
しまった。気位の高いアルテを傷つけたかもしれない。
形式上、今はアルテは俺の奴隷になっている。マクシムにも、それを理由にアルテを引きた渡さないでいられる。
でも、本当は、アルテを奴隷として扱いたくはない。奴隷のペルセが、実際には俺と対等な仲間であるように……アルテにも、そうであってほしかった。
だから、「俺のもの」と言ったのは、あくまで言葉の綾なのだけれど……
けれど、アルテは首を横に振り、くすっと笑った。そこには嫌がっているような表情はなくて、むしろ嬉しそうだった。
「ソロン様があたしのことを『俺のもの』だと仰ってくれて、嬉しかったんです」
そう言って、アルテは恥ずかしそうに、俺にささやいた。
<あとがき>
久々の更新ですみません……! アルテ編も話が動くはず……。
以下3点お知らせです。
・公爵令嬢と王子の甘々溺愛が領地を救う『王太子殿下が土下座して「婚約破棄しないでください」と懇願してきた ~可愛い婚約者は弟に王位を奪われてしまいましたが、わたしは絶対に見捨てません。辺境に追放されても二人で幸せな領主生活を送ります!~』を投稿しています(下記URL)! こんな美少女がいたらいいなと思って書いたラブコメなので、『追放された万能魔法剣士』の読者の方も楽しめるはずだと思います!
↓
https://book1.adouzi.eu.org/n4823hc/
・書籍化おねショタ作品『やり直し悪役令嬢は、幼い弟(天使)を溺愛します 2』が7/20から発売中です!
・追放された万能魔法剣士のコミックもニコニコ漫画で連載中なのでお読みいただければ嬉しいです!
最後に、本作品『追放された万能魔法剣士』についても
面白い、アルテが可愛い!、ソロンやフィリアたちがどうなるか気になると思っていただけた方は
・ブックマーク
・広告↓の☆☆☆☆☆評価
で応援いただければ幸いです!






