表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる漫画4巻が2025/1/15から発売中  作者: 軽井広@北欧美少女コミカライズ連載開始!
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

189/212

188話 急変

 俺は安心した。

 ともかく、ライレンレミリアとアルテは和解した。

 ライレンレミリアはアルテを許すと言った。けど、心のなかでは割り切れないものもあるかもしれない。

 ただ、完全ではないにせよ、ライレンレミリアはトラウマを克服できたみたいだ。

 この屋敷で一緒に暮らしていくことも不可能ではないだろう。


 ライレンレミリアにせよアルテにせよ、今はこの屋敷から出ていける状態ではない。


「良かったね、ソロン」


 フィリアが小さく俺に耳打ちする。

 俺は「そうですね」と笑ってうなずいた。

 

 異変はその直後に起こった。

 アルテは泣き止んで、ライレンレミリアに抱きしめられた状態だった。

 ところが、アルテの瞳が急に大きく見開かれた。


 黒い瞳におかしな光が灯る。 

 アルテはいきなりライレンレミリアを突き飛ばした。


「きゃあ!」


 ライレンレミリアは立って歩けるようになったばかりで、突き飛ばされたりしたらひとたまりもない。

 床に倒れ落ちる前に、慌てて俺はライレンレミリアを抱きとめた。


「あ、ありがと。ソロン」


 顔を赤くして、ライレンレミリアは紫色の瞳で俺を見つめた。

 俺はうなずき返すと、アルテを振り返った。

 ライレンレミリアはアルテを許すと言って、優しく抱きしめてくれたのに、なぜ突き飛ばしたりするのか。


 俺は問い詰めようと思ったが、アルテの様子を見て息を呑んだ。

 アルテは小さな手で、自分の胸を掻きむしっていた。

 その息遣いは荒く、頬は紅潮していた。

 体も痙攣している。

 

「あ、アルテ……!? 大丈夫?」


 俺が駆け寄ると、アルテはうつろな瞳を宙にさまよわせていた。


「く、苦しい……た……助けて、先輩!」


 アルテの手がすがるように伸ばされ、しかし空を切った。

 次の瞬間、アルテの体が大きく跳ね、そして口からは絶叫が漏れた。


 やがてアルテの体はびくびくと震えるだけになり、その瞳は濁っていた。

 意識も失っている。


「フィリア様、すみませんが大至急ソフィアたちを呼んできてください!」


「うん……!」


 フィリアは大慌てで部屋を出て行った。

 皇女殿下を使い立てするなんて、普通に考えればとんでもないことだが、フィリアは俺の弟子でもある。

 それに、俺はここを離れられない。


 アルテの身になにか良くないことが起こっているのは明らかだ。

 蒼白な顔のライレンレミリアが見守る中、俺はアルテにいくつか回復魔法をかけてみた。


 だが、いろいろ試しても、効いているとは思えない。


「まずいな……」


 アルテの顔からは急速に生気が失われていた。

 魔王復活の犠牲とされた際の後遺症だろう。

 だが、どうすれば良いのか、有効な治療法の見当もつかない。


 ただ一つ、死都に眠る秘宝を除いては。


 やがてフィリアが戻ってきて、ソフィアを連れてきた

 ソフィアはアルテに対し、教会式の治癒の力を使った。

 アルテの顔に浮かんでいた苦しげな表情が消え去り、穏やかな寝顔へと変わる。


「助かったよ、ソフィア。さすが聖女の使う教会式魔術はすごいな」


 やはり聖女ソフィアの回復魔術の力は、魔法剣士のそれとはぜんぜん違う。

 けれど、ソフィアは首を横に振った。


「すぐに死んじゃったりはしないと思うけど……これは応急措置だよ、ソロンくん。かなり危険な状態だと思う」


 たしかにアルテの意識は戻っていない。

 ソフィアによれば、魔王復活の儀式の際に、ずたぼろにされたアルテの魔力回路が暴走しているらしい。


「こんな状態が一週間も続いたら……アルテさんは死んじゃう。それにフローラさんも」


 フローラのほうの容態は落ち着いているが、いつアルテと同じようになるかわからない。

 もともとフローラのほうが重傷だから、同じ問題が生じたら、よりまずい状態になるだろう。


 それきり、俺もソフィアもライレンレミリアも黙り、しばらくのあいだ、場は重い沈黙に包まれた。

 その空気を破ったのはフィリアだった。


「わたしが死都ネクロポリスに行けば、アルテさんたちを助けられる。死都の死の影の谷にある秘宝の杖。それが必要なんだよね」


「そうですが……しかし……」


「わたしは行くよ。ソロンが一緒に行ってくれるなら」


「ですが、危険です。俺とフィリア様の二人しか死の影の谷には入れません。それに、フィリア様にはアルテを助ける理由がありません」


「ソロンがアルテさんたちを助けたいんでしょう? それにね、わたしも皇宮ではずっと無力で、孤独で……今のアルテさんみたいに何の力もなかったの。目の前で苦しんでいる人がいるなら、わたしも助けてあげたいよ」


「フィリア様……」


「誰かの役に立てるって素敵なことだよ。皇宮ではわたしは誰の役にも立てなかったけれど、今は違うの」


 俺は考えた。

 このままアルテを放置すれば、死んでしまう可能性が高い。助けられる方法は、フィリアの言う通り、俺とフィリアの二人でネクロポリスを再訪するしかない。

 しかも、時間の余裕はないから、明日にでも出発することが必要だ。


 死都の最深部に行くわけではないから、秘宝を手に入れるのは非現実的というわけではない。

 だが、フィリアを危険にさらすのは……。


 俺のまとまらない思考は、フィリアの言葉で打ち切られた。


「わたしはソロンの弟子で、ソロンみたいな魔法剣士に……冒険者になりたいの。初めての冒険が人の命を救うためになるなら、素敵だと思わない?」


 フィリアは柔らかく微笑んだ。

 もし俺が止めても、フィリアの意思は固いみたいだった。それに、ここで無理にフィリアを止めて、アルテが死んでしまえば……。フィリアはずっと自分を責めることになるだろう。

 フィリアはかなり成長している。俺とフィリアの力があれば、アルテを助けるための秘宝を手にして、戻ってくることも可能なはずだ。


 俺は決断した。


「わかりました。……死都に行きましょう」


「うん!」


 フィリアはぱっと顔を輝かせた。


冒険者フィリアの出発です。


書籍版の予約も始まっているのでよろしくおねがいします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ