185話 ランプの使い方
死都ネクロポリス。
かつてアルテとクレオンが攻略を計画し、俺たちもその作戦に参加した。
そしてクレオンはその奥深くに眠る魔王を手に入れ、アルテはすべてを失った。
その死都ネクロポリスに眠る杖が、アルテたちの治療に必要なのだ。
「でも、ネクロポリスはみんなで攻略できたんじゃないの?」
「最深部は踏破しました。ただ、途中に分かれ道や隠し扉もありますし、すべてを制覇できたわけじゃないんです」
「ふうん。その杖があるのも、そういう場所なの?」
「はい。第四層の分岐点の先に『死の影の谷』と呼ばれている場所があります。そこに杖はあるのですが……」
「危ないってことだよね?」
「そのとおりです。しかも、その特殊な構造から、一度に死の影の谷に踏み入れるのは、二人きりだけなんです」
そう言うと、フィリアが目をきらきらと輝かせた。
「つまり、ソロンと二人っきりってことだね!」
「え、ええと、まあ、そうなりますが、その分、危険もさらに高くなるわけで……」
第四層という浅い場所とはいえ、ネクロポリスの未攻略地帯となれば、どんな危険があるかわからない。
せめてソフィアの聖女の力を借りれれば良いのだけれど、それができないところが悩ましいところだ。
「フィリア様にそんな危険を犯していただくわけにはいきません」
「でも、そうしないとアルテさんもフローラさんも助けられないんでしょう?」
「そのとおりですが、フィリア様には危ない橋をわたってまであの二人を助ける理由はないのではないでしょうか。アルテはフィリア様の命を狙っていたこともあるわけで……」
「でも、ソロンが助けたいんだったら、わたしも手伝うよ。わたしはソロンの弟子だもの」
フィリアはそう言って、屈託なく微笑んだ。
内心では、フィリアもアルテに対して思うところがあるかもしれない。
けれど、俺はフローラにアルテを助けると約束していて、フィリアもそれに協力しようとしてくれている。
「それに、わたしも強くなったもの。中級魔法も教えてもらったし、ルーシィの魔導書のすごい魔法、《王の炎》も使えるし」
まあ、たしかにフィリアは今ではかなりの戦力になる。
俺が前衛、フィリアが後衛で戦えば、ある程度強い敵も倒すことができるだろう。
「まあ、ネクロポリス行きについては、また考えましょう。とりあえず、今日の授業です」
「うん。わたしを遺跡探索に行けるように、いろいろ教えてくれる予定だったものね?」
「そうですね。まずは遺跡での明かりの使い方です。松明やランプとか、そういうのですね」
「地下の遺跡はまっくらだものね、でも、魔法で明るくしちゃダメなの?」
「こないだのネクロポリス攻略みたいな人数がいればともかく、基本的には冒険者パーティは人手不足ですから。魔法を使うなら、照明以外に使いたいところですからね」
「なるほどね」
「そこで、そういう照明のための道具の使い方を覚えてほしいんです。ランプは意外な使いみちがありますし」
「意外な使いみち?」
「何だと思います?」
俺が微笑みかけると、フィリアは首をかしげた。
「何のこと?」
「攻撃の道具になるんですよ。ランプの油壷を投げつけるのは、ミイラのようなアンデッド類にはかなり有効なんです。炎魔法より速くて確実。魔力も使わない攻撃方法です」
「そっか。魔法だけが火を起こす方法じゃないものね」
「それでは早速、このランプの点火をやってみましょうか」
俺はフィリアの目の前に、真鍮製のランプを置いた。
そして、俺はフィリアにその使い方を教え始め、フィリアは熱心に聞いていた。
戦争に行かなければならないかもしれないソフィア。
隣国に亡命したルーシィ先生。
病んだアルテとフローラ。
そして、クレオンが手にしているという魔王。
問題は山積みだけれど。
俺はフィリアの家庭教師だ。
今だけは、フィリアを教えることに集中しても許されるだろう。
フィリアが青い瞳で俺を見上げ、そして柔らかく微笑んだ。






