184話 ふたたび死都へ
ヘスティア聖下は、俺にこの牢獄から救い出してほしいと言う。
俺はヘスティア聖下の言葉を考えた。
ヘスティア聖下はこの大聖堂に囚われている。帝国教会の教義として総大司教・大聖女のヘスティアは、この大聖堂から離れられない。
「私に聖下をここから連れ出すなんてできると思いますか?」
「あら、駆け落ちしてくれればいいじゃない。アレマニアでもシンラでもカロリスタでも逃げればいいわ」
「おそらく国境を超える前に捕まりますよ」
「……そんなことわかってる。もし私が逃げ出せば、帝国政府と教会が必死になって探すもの」
「なら……」
「そういう話じゃないの。私は……一生ここから出られないと思う。でも、『救う』って、言ってほしいの。あなたはソフィアもフィリア殿下もルーシィ教授も救ったのでしょう? なら、私にだって、少しぐらい期待させてくれたっていいじゃない」
「できないことをできるとは、言えないんです」
「あなたは意地悪で、誠実なのね」
ヘスティア聖下はため息をついた。
もし可能なら、俺だってヘスティア聖下を助け出すだろう。ヘスティア聖下はソフィアの友人でもある。
ただ、どうやっても、ヘスティア聖下をここから解放する手段はなさそうに思えた。
「ソフィアがうらやましいな。あなたみたいな人と一緒の学校に通って、仲間として一緒に冒険して、一緒の家に住んで……。私には……そんな幸せは許されていないわ」
「そのソフィアのことですが……帝国五大魔術師に選ばれて、戦争に送られる予定です」
」
「ええ、知っているわ。それを止めるのが、あなたの願い?」
「はい」
「そのことなら、私も独自に動いているから心配しないで。時が来たらあなたにも協力してもらうわ。首相ストラスの思い通りにはならないから」
俺はほっとした。
ソフィアのためなら、ヘスティア聖下は力を貸してくれるだろう。
問題はもう一つの用件の方だ。
「もう一つお願いがあります。ネクロポリスで魔王復活の犠牲になったアルテとフローラの姉妹のことです。こちらもご存知のことと思いますが」
「ああ。可愛そうなことをしたわね」
ヘスティア聖下は目を伏せた。
彼女はネクロポリスでの魔王復活の協力者であり、クレオンとも手を組んでいる可能性が高い。
ヘスティア聖下は純然たる味方ではないのだ。
ただ、ヘスティア聖下は、アルテたちの運命について同情的なように見える。
そして、聖下はつぶやいた。
「あの双子の姉妹を救いたいなら……そのための鍵はフィリア殿下が握っているわ」
☆
「それで、アルテさんたちを助けるのに、どうして遺跡探索が必要なの?」
フィリアが首をかしげた。
俺たちは屋敷に戻ってきて、今は書斎でフィリアに勉強を教える時間だった。
ヘスティア聖下から聞いた方法を、俺はフィリアに伝えていた。
「さる遺跡の隠し扉の中に、封印された杖があります。それがアルテたちを助けるために必要なんです。教会に伝わる大魔法、秘宝の杖、そして膨大な魔力量を持つ魔術師。この三つがそろって、はじめてアルテたちを癒やすことができる。そうヘスティア聖下は仰っていました」
「膨大な魔力量を持つ魔術師ってわたしのこと?」
「そのとおりです。秘宝の杖の封印を解くだけでもすさまじい量の魔力量が求められます。となると、俺やソフィアでは回収できません」
「そこでわたしの出番ってことだね。もしかして、ソロンと一緒に遺跡を冒険できるの?」
「はい」
「やった……!」
フィリアは弾んだ声で、とても嬉しそうだった。
ただ、俺は喜べなかった。
その遺跡の脅威を俺はよく知っていたし、フィリアを危険な目に合わせたくはなかった。
しかし、フィリア自身を連れていかなければ、その杖は使えない。
「……その杖が眠るのは、死都ネクロポリスなんです」
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