164話 救出作戦開始!
帝都の救世主大聖堂は、帝国教会の本部だ。
青空にそびえ立つ白い塔のような建物で、てっぺんには、金色の豪華な装飾がある。
帝都では皇宮と魔法学校とならぶ目立つ建物で、聖堂としては大陸でも最も高い建物だった。
事前に手に入れた情報では、この建物最上階に、俺の師匠のルーシィが捕らえられている。
俺たちは橋を渡って、その入口の前に立った。
今は早朝で、これからルーシィを魔王の依代とする儀式が行われる。
俺、フィリア、ソフィア、レティシア、クレア、ルシル、そして三人の自由同盟の構成員。
それが今回の救出作戦のメンバーだった。
「不安だね……ソロン」
フィリアが心配そうに大聖堂の建物を見上げる。
作戦は、皇女と聖女の名前を使い、大聖堂の中に入った後は、最上階にある儀式場まで突入というものだった。
そして、奇襲によりガポンを倒し、ルーシィを解放して脱出、という方法だが、計画通りうまく行く作戦なんて、この世にあった試しがない。
「それに……本当だったら、わたしがルーシィの魔導書を使えるはずだったのに」
「フィリア様がいてくださるだけで、魔力が補給されて俺の能力は上がります。それだけでも、フィリア様は十分に俺の力になってくれていますよ」
「でも……」
「安心して俺に任せてください。必ずフィリア様を守って、ルーシィ先生を助け、ガポンを倒します」
「うん……」
フィリアはやっぱり浮かない顔をしていた。
魔導書が結局、使えるようになっていないせいだ。
ルーシィから話を聞くことができれば、もしかしたら何が障害になっているのかもしれないけれど。
「ねえ、ソロンくん……こんなに普通に建物に入って大丈夫なのかな?」
ソフィアが俺を振り返り、その金色の髪がふわりと揺れた。
ソフィアはソフィアで不安そうだった。
俺たちは今のところ「反逆者」だ。
レティシアたちは普段とは少し違う格好をしていて、顔をフードで隠している。
といっても、堂々と正面から大聖堂に入るのが不安というのはわかる。
「だけど、こそこそしている方が怪しまれるからね」
「ソロンくんはいつも落ち着いているよね。何も怖いものなんてないみたい」
「俺はいつも怖いものだらけだよ。ただ、怖がっても状況が変わらないから」
俺の言葉にソフィアはきょとんとした。
しばらく間をおいて、翡翠色の瞳で俺を見つめて微笑んだ。
「そっか。そうだよね。……わたし、聖女だから、この大聖堂には何度か来たことがあるの」
「そうだったね。頼りにしているよ、ソフィア」
ソフィアは嬉しそうにうなずいた。
一方、そんな俺たちを見て、クレアがからかうように口をはさんだ。
「わたしは怖いものなしですよ。だって、ソロンさんが一緒にいてくれるんですから。ソフィアさんは違うんですか?」
「わ、わたしもソロンくんのこと、信頼しているよ?」
「そうですか。そうですよね」
ふふっとクレアは笑った。
ソフィアとクレアは幼い頃は仲の良い友達だった。
同じ学校に通い、同じパーティで戦うことはできなかったけど、今の二人は共に戦う仲間なわけで、不思議な感覚だった。
そんなことを話していたら、聖堂正面の大きな門に到着し、門番の修道士にフィリアは名前を告げた。
「わたしは皇女フィリア。こちらは、わたしの従者の聖女ソフィア。知っているでしょう
?」
フィリアの胸元には双頭の鷲の銀色のブローチがつけられている。
それは帝室の象徴で、フィリアのことを知らなくても、ひと目で皇族とわかる。
さらにソフィアといえば、教会の選んだ七人の聖女の一人で、修道士にとっては遥かに格上の存在だった。
修道士は慌てた様子で俺たちを通した。
ここまでは順調だ。
後は大聖堂の最上階にいるはずのルーシィを助けに行けばいい。
俺たちは大聖堂の中に入った。
荘厳な赤い絨毯の敷き詰められた広間に出迎えられる。
上方は吹き抜けになっていて、多くのガラスの窓から差し込む朝日が、ステンドグラスを照らしていた。
神秘的な雰囲気だった。
俺たちがらせん階段を登り始めた。
一つ気になることがある。
俺は小声でレティシアに話しかけた。
「どうしてレティシアさんはルーシィ先生を助けようとするんです?」
「仲間だから、ではダメかな」
「そうですね。レティシアさんはそういうタイプには見えませんから」
「失礼だな」
レティシアはそうは言ったものの、顔は笑っていた。
俺の言ったことが間違っていない、ということだろう。
ルーシィとレティシアは同じ自由同盟の仲間だが、あくまで共通の目標を持った同志に過ぎず、それほど深い友情があるわけでもなさそうだ。
そして、レティシアは良くも悪くも現実主義者で、目的のためなら仲間を切り捨てるような人間のようだった。
「知っていると思うが、私とルーシィは魔法学校の同級生でね。ただ、別に親しかったわけじゃない。ルーシィはあの頃、すごく冷たく、怖い少女だった。……今では、弟子のおかげでだいぶ変わったようだが」
レティシアはくすっと笑った。
俺がルーシィを変えた。
そうなのだろうか。
「ルーシィは自信家に見えて、自分を信じきれないところがあった。彼女は孤独だったからな。それが他者に対する態度の余裕のなさにつながっていた。だが、君を弟子にして、自分が必要とされているという自信を持つことができた」
「だから、ルーシィ先生が変わった、ということですか?」
「そのとおり。自分を信じることで、人は変われる存在ということさ」
そして、レティシアは意味ありげにフィリアを見つめた。
いずれにせよ、レティシアにはルーシィを助けないで、自分たちだけで外国へ亡命してしまうという手もあった。
そうしないのは、レティシアにルーシィを救う理由があるということだ。
「……帝国は魔王の力を手に入れた。だから、我々はそれに対抗するだけの力を手にする必要がある」
「ルーシィ先生は天才魔術師ですが、一人で魔王の力に対抗するほどの戦闘力はないと思いますよ」
「ルーシィ自身の力ではなく、ルーシィの開発する魔法の力が必要なのさ。例えば、フィリア殿下と君の持つ魔導書だ。それは……単なる支援魔法の魔導書じゃない」
俺が驚いてレティシアを見ると、レティシアも茶色の瞳で俺を見つめ返した。
俺が問いただそうとしたとき、突然、重たい衝撃音がその場に響いた。
門が閉じられたのだ。
それもかなり急かつ厳重に。
何やら、出入りの商人風の男が、俺たちを指差し、わめいていた。
次の瞬間、慌ただしく警備の修道士たちがこちらに向かって走ってくる。
その意味するところは一つ。
「正体がバレたかな」
俺のつぶやきに隣のレティシアがうなずいた。
「反逆者御一行のお通り、というわけだ。……走るぞ!」
俺たちは階段を駆け上がった。
目指すは最上階だ。
階段の上方から、白い服の修道士たちが剣を構えてこちらに向かってくる。
大聖堂を守る聖堂騎士団の団員たちだろう。
だが俺たちの敵じゃない。
俺は宝剣テトラコルドを抜き、一閃させた。
あっさりと騎士団員たちは崩れ落ちる。もちろん峰打ちだ。
ただ数が多い。レティシアやソフィアたちもかなりの数の敵を倒してくれた
が、一人の修道士が俺の側面を襲おうとして進み出た。
俺は剣を振り下ろした直後だったから、そのままでは危なかっただろう。
が、俺に相手の剣は届かなかった。
「わたしの師匠を傷つけるなんて、許さないんだから!」
フィリアがリンゴの木の杖を振りかざし、炎魔法が放たれた。
そして、敵の修道士の白い服を包んだ。
決して強い炎ではなかったけれど、修道士は熱さにひるみ、剣を止めた。
その瞬間に俺は体勢を立て直し、修道士めがけて剣を振るい、倒すことに成功した。
「フィリア様……助かりました」
「わたし、ソロンの役に立てたの?」
「はい。成長しましたね」
フィリアは目を輝かせ、嬉しそうに微笑んだ。
たとえルーシィの魔導書が使えなくても、フィリアはできることを着実に増やしている。
「ソロン……わたしたちに勝利を!」
「はい。必ず目的を果たして、お屋敷に戻って魔法の勉強をしましょう。そのときには、きっとあの魔導書も使えるようになります」
「うん!」
俺はふたたび剣を振るうと、フィリアをかばいながら、階段の次の段へと踏み出した。
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