160話 徹夜?
ルーシィの大魔法を使えるようになるために、フィリアがしなければならないことは何か。
俺は目の前のフィリアに説明を始めた。
「まずは、今のフィリア様ができることを書き出しましょうか」
「今のわたしができること?」
「はい。俺がこれまで教えてきたことを、フィリア様は着実にできるようになっています。まずは、それを把握して、自分の出発点を把握しましょう。それからルーシィ先生の魔導書を使うという到達点まで、何が必要なのか、把握するんです」
「すごい……。ソロンが先生っぽい」
「……いつもは先生らしくないですか?」
フィリアの言葉に、俺はちょっとがっかりした。
たしかに普段は師匠らしいことはあまりできていないかもしれないけど。
フィリアはふふっと笑った。
「ううん。普段もわたしに優しく教えてくれて素敵だけど、今はもっと先生らしくて格好良いなと思ったの」
「フィリア様……」
「それに、ソロンはいつもわたしのことを守ってくれているし。ね?」
フィリアが嬉しそうに俺を見つめた。
反対に、俺は恥ずかしくなってきて、自分の顔が赤くなるのを感じた。
フィリアの言葉はいつもストレートで、聞いていると照れてしまう。
「あ、ありがとうございます。では、早速、現状を確認していきましょうか」
俺が不在のあいだ、ソフィアとリサが先生役となってフィリアに魔法を教えてくれていたはずだ。
その成果も確認しておきたい。
「二人の先生ぶりはどうでした?」
「リサさんはすっごく教え方上手だったよ。親切で優しいし」
そそっかしい白魔道士リサが、フィリアを教えることについて俺は心配していた。
リサもフィリアも落ち着きがない性格だし、何かトラブルが発生するかもしれないと思っていたのだ。
でも、あまり心配はいらなかったみたいだった。
リサのおかげでフィリアは支援魔法についての習得がけっこう進んでいた。
中級魔法を完全に習得したとは言えないが、基礎的な部分までは抑えられている。
今、リサは屋敷に残って他のみんなを守ってくれている。
その意味でも、後でリサにお礼を言わないといけない。
もっとも、屋敷に無事に戻れたらの話だが。
「ソフィアの教え方はいかがでしたか」
「……うーん」
フィリアは困ったような笑顔を浮かべた。
まあ、半ば予想はしていたことだけれど、たぶん上手くいかなかったんだろう。
ソフィアは天才過ぎて、人に教えるのが得意でない。
フィリアとリサは性格的にも相性が良いみたいだが、逆にフィリアとソフィアの二人には距離感がある。
俺はそれ以上深くは尋ねず、フィリアに紙とインク、羽根ペンを渡した。
フィリアは次々と自分にできる魔法を書き出していった。
まだそれほど多くはないけれど、それでもフィリアに使える魔法だって少ないわけじゃない。
出会った時に教えた炎魔法。
屋敷で初めて練習した浮遊魔法。
そして、ネクロポリス攻略に備えて、覚えた初級の攻撃魔法や防御魔法の数々。そして、基礎的な支援魔法。
書いているうちにフィリアの顔が明るくなっていく。
それが俺の狙いの一つだった。
フィリアに自信を取り戻させ、その上で、練習を始めようという計画だ。
「終わったよ、ソロン」
「ありがとうございます。では……」
俺はあたりを見回した。
屋根裏部屋は物置のような感じで、いろいろなものが置かれていた。
そのなかに小さなガラス瓶があるのを確認する。
「では、再挑戦しましょうか」
フィリアは緊張した面持ちでうなずいた。
こないだ失敗したのは、ガラス瓶を強化する練習だった。
それをもう一度試すわけだ。
フィリアはリンゴの木の杖を取り出すと、こんとガラス瓶に触れさせた。
ガラスの材質を強化するためには、その材質を理解しなければならない。
支援魔法では、支援対象の相手のことを理解し、どの部分の能力を強化するかを明確にしなければならない。
特に、ルーシィの大魔法のような、魔力量の多いものであれば、特にそうだ。
ガラス瓶の強化は、そのための練習だ。
「ガラス瓶が割れないぐらいに強化されているところを、具体的に想像してみてください。自分のイメージに現実を近づける感じです」
「うん」
フィリアはうなずくと、目を閉じてガラス瓶と向き合った。
しばらく経って、フィリアは青い瞳を開いた。
「強化!」
フィリアの言葉と同時に、杖からガラス瓶へと魔法が伝わる。ガラス瓶は赤く輝いた。
そして、しばらくして光るのを止めた。
俺は瓶に指で触れ安全を確かめた。
そして、それを取り上げると、少し離れた床へと落とした。
ガラス瓶は、割れなかった。
「やった……!」
フィリアが嬉しそうに笑って、俺を見つめた。
これで、こないだの失敗は克服できたわけだ。
とはいえ、ここからルーシィの魔導書を使えるようにするまでにはまだまだ覚えなければならないことがたくさんある。
より上級の支援魔法を使えるようになることも必要だが、魔導書の構造自体も理解しなければならない。
解読できたとはいえ、魔導書に書かれた魔術は複雑だった。
俺はそれを一つ一つフィリアに教えていった。
フィリアもいつになく真剣に俺の言葉に耳を傾けてくれている。
フィリアが俺たちの力になろうとしていて、ルーシィの大魔法を使えるようになりたいという本気の現れなのだと思う。
いつのまにか時刻は午前零時を過ぎて、日付が変わった。
「眠くはありませんか、フィリア様」
「眠いけど……平気。ソロンがわたしのために魔法を教えてくれているんだもの」
「でも、無理をしてはいけませんよ」
「ソロンは優しすぎるよ。徹夜で厳しく教えるって言ってたのに、わたしに眠いかなんて聞いちゃダメだよ?」
俺は微笑み、「そうですね」とうなずいた。
「あっ、でも、ソロンが疲れているのなら……」
「俺は大丈夫ですよ。フィリア様のためなら疲れも吹き飛ぶ、と言ったとおりです」
「うん、ありがとう、ソロン」
そして、俺たちはふたたび魔術の訓練に戻った。
魔導書の理解と、上級支援魔法の基礎、必要最低限の魔法理論、というところまでフィリアは順調に理解していった。
もともとフィリアは魔術の才能があるだけではなく、かなり頭がいい。
普段はやや不真面目で集中力に欠けるところはあるけれど、今みたいに本気で取り組めば、上達はあっという間だった。
いよいよルーシィの魔導書を使う準備ができたところまで来たとき、もう深夜三時になっていた。
フィリアのまぶたはかなり重そうで、うつらうつらとしていた。
俺はくすっと笑って、フィリアの頭を撫でた。
「よくできましたね、フィリア様。今日はもうゆっくり休んでください」
「……徹夜で……練習するって……ソロンと約束したもの。だから……」
その言葉を言い終わらないうちに、フィリアはがくっとうなだれた。
どうやら、完全に睡魔に意識を持っていかれてしまったらしい。
眠るフィリアを俺は抱きとめた。
幸い、この部屋には毛布が何枚かあったので、俺はそのうちの一枚をフィリアにかぶせた。
「おやすみなさい、フィリア様」
つぶやくと、俺も急激に眠気に襲われ、そのまま意識を失った。
☆後書き☆
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