154話 あざとい(?)ルーシィ
「ルーシィ先生、無事で良かったです」
牢の中のルーシィは、拘束されていたが怪我はなさそうだった。
魔王の依代とされるという役割がある以上、軍としても手荒には扱えないだろう。
ルーシィは頬を赤くして、目を伏せていた。
「本当に……来てくれたんだ」
「ルーシィ先生は俺のたった一人の師匠だから。助けに行かないなんて、選択肢、最初からありませんよ」
「……ありがとう。先にその子を助けてあげて」
俺はルーシィにうなずき、そして身を屈めてクレアを助け起こした。
ひどい怪我だ。
軍服はぼろぼろで、鞭で打たれていたのか、肌のいたるところに傷があった。
「あ……ソロンさん」
クレアは虚ろな瞳で、俺を見つめた。
話すのも精一杯という様子で、それでもクレアはにやりと笑った。
「わたしを助けに来てくれたわけじゃないっていうのが……残念ですね」
「クレアのことも助けに来たんだよ」
「それは……ちょっと嬉しいですね。たとえルーシィ教授のおまけでも」
命にこそ別状はなさそうだったけれど、かなり辛そうだ。
可能な限り早くクレアを回復させたいが、ここでは魔法は使えない。
この牢では魔力が無効化されている。
俺は簡単な手当てをして、布でクレアの肌を拭き、血や汚れのあとを綺麗にした。
その途中で、クレアの左手の指の何本かが、不自然に曲がっていることに気づいた。
「これ……」
「あはは。折られちゃいました」
クレアはなんてことなさそうに笑っていたが、ひどいことをするものだと思う。
改めて、俺はガポンに対する憤りを感じた。
「クレアが拷問を受けていた理由って……俺をかばってくれていたんだよね。ごめん」
俺は自由同盟の会合に参加していて、ルーシィの反乱計画を知っていた。
だけど、そのことが軍に知られば、俺まで処罰されてしまう。
だからクレアは拷問を受けても、そのことを黙ってくれたのだ。
「気にしなくていいですよ。わたしがソロンさんのことを助けたいと思ってそうしたんですから。それに、もともとガポン神父の所属する官房第三部と、わたしの軍情報局は仲が悪いんです。でも……」
「でも?」
「どうせなら、『ごめん』じゃなくて『ありがとう』と言ってほしいです」
「そっか。そうだよね。ありがとう、クレア」
「はい。小さい頃のわたしは……ソロンさんの力になって、一緒に戦うのが夢でした。わたしには魔力がなくて、冒険者としてソロンさんと一緒にはいられませんでしたけど、でも、いまはこうしてソロンさんの役に立てています。それが嬉しいんです」
そして、クレアは立ち上がった。
体中ぼろぼろのはずなのに、その動作に緩慢なところはなかった。
さすが軍人というべきか、クレアは魔法は使えないけれど、強靭な精神力を持っているみたいだった。
「さて、ソロンさん、脱出の計画はあるんですか?」
「もちろん」
俺はいくつかの軍服を見せた。
気絶させた警備兵から奪ったものだ。
「これに着替えれば、俺もルーシィ先生も帝国兵に見えるはず。後は堂々と歩いて陸海軍省から出ればいい」
「もし通行の際に怪しまれたら……」
「そのときは生粋の軍人のクレアになんとかしてもらおうかな」
俺は冗談めかして言ったが、実際にもしそういう事態が起こったらクレアの力を借りることになるだろう。
クレアはくすっと笑ってうなずいた。
「そうですね。こうなったら、わたしもルーシィ教授の脱出に協力するほかありません。ここから出てしまえば、後は軍情報局のお偉方がなんとかしてくれるでしょうし」
「頼りにしているよ」
俺とクレアはこつんと互いの拳をぶつけ、笑いあった。
昔みたいに、というわけにはいかないけれど、今は協力関係だ。
クレアはルーシィをくるりと振り向いた。
なぜかルーシィは不機嫌そうに俺たちを見つめていた。
「あれ? もしかして妬いているんですか? ルーシィ教授?」
「そんなことない!」
とルーシィが真っ赤な顔で言い返す。
俺はルーシィに近寄って、その拘束を解いた。
「さて、先生もこの軍服に着替えてください」
「こ、ここで? ソロンもいるのに?」
「後ろを向いてますから大丈夫ですよ」
「そういう問題? それに、これって女性の兵士から奪ってきたのよね?」
「あー、まあ、そうですね」
女性用の軍服を手に入れるなら、当然、女性から奪わないといけない。
まだ少女ぐらいの警備兵を気絶させて、下着姿にしてしまうというのはけっこう抵抗感と罪悪感があったが、非常事態なので仕方ない。
「ソロンの変態……。でも、わかったわ。着替えればいいのね」
そういうと、ルーシィは自らの真紅のローブに手をかけはじめた。
俺は慌てて後ろを向き、自分をもアレマニアの軍服を脱いで、帝国の軍服に着替える。
じーっとクレアが俺を見つめていた。
「あのー、クレアさん? 見られていると、着替えにくいというか……」
「お気になさらず。ソロンさんも大人になりましたね」
くすくすとクレアは笑い、それからどこか痛むのか、急に辛そうな顔になった
たしかに、かつてクレオンの実家の公爵家で交流していた頃は、クレアは幼い少女で、俺も少年だった。
でも、今は違う。
やがて俺は着替え終わった。
それから少し時間をおいて、ルーシィも着替え終わったようだった。
「ええと……ソロン。もうこっちを見ても平気。一応、だけど」
俺が壁際のルーシィを見ると、たしかにルーシィは軍服に着替えていた。
いつもはゆったりとした真紅のローブを着ているから、機能的な軍服をまとっていると、なんだか新鮮だ。
軍服は淡い青色の上着に、濃紺色のスカートだから、色合いも異なる。
ただ、ルーシィはとても恥ずかしそうにしていた。
「丈が合わないみたいなの」
「……みたいですね」
女性としては長身のルーシィに対し、この服の元の持ち主はやや小柄だった。
だから、ルーシィが着ると、スカートの裾もかなり短いし、胸から腰回りの形までくっきりと浮き出てしまう。
「あんまり見ないでほしいな、ソロン」
「す、すみません」
俺は慌てて視線をそらした。
ふうん、とクレアはジト目で俺たちを見ていた。
「あざといですね、ルーシィ教授」
「わざとじゃないから! ……恥ずかしい」
「そうやってソロンさんをたぶらかすんですか?」
「たぶらかしてないってば!」
言い合うルーシィとクレアを見て、俺は不思議な気持ちになった。
かつてのクレアはルーシィを憎悪していたみたいだけれど、今はむしろ仲が良いようにすら見える。
牢のなかでなにかあったのだろうか?
ともかく、俺たちは急いで牢を出た。
特に見咎められることもなく、俺たちは地下牢の通路を出て、陸海軍省の一階の広間に来た。
さすが帝国軍の本拠地だけあって、その広間は大理石でできた豪華なもので、天井にはシャンデリアが輝いていた。
「意外と簡単に脱出できそうね」
ルーシィの言うとおり、俺たちはかなり順調に進んでいた。
このまま陸海軍省から逃げ出せれば、後はルーシィを外国に亡命させるだけ。
そのはずだった。
だが――。
「やはり君は反逆者だったな、ソロン。残念だ、非常に残念だよ」
広間の入り口に一人の老人が立っていた。
十字架を胸にかけたその男は、秘密警察のガポン神父だった
【後書き】
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