136話 真紅のルシル
目の前の少女がルーシィの姪だというのは、一目見てわかった。
真紅の髪と目はルーシィそっくりだし、貴族らしい端然としたたたずまいも、ルーシィとよく似ている。
ただ、ルーシィがすらりとした長身なのに対し、ルシルはかなり小さかった。
フィリアも小柄なほうだけれど、そのフィリアよりも背が低い。
じーっとルシルは俺を見上げた。
「ソロンはこの学校のこと、懐かしい?」
「まあ、つい数年前まではこの学校の生徒だったからね。良い思い出もたくさんあるし」
「ふうん」
ルシルはつまらなさそうに、小さくつぶやいた。
何というか、昔のルーシィの雰囲気を思い出す。
俺がルーシィの弟子になったばかりのころは、ルーシィはいつも冷たい表情をしていて、良くも悪くも尊大な態度だった。
そういう意味では、ルシルは完全に小さなルーシィという感じだ。
「二人は私に会いに来たんでしょう? 魔法剣士のソロンと、皇女フィリア殿下」
俺はぎょっとして周りを見回した。
誰かが今の発言を聞いていたら、フィリアが皇女だとばれて、大騒ぎになりかねない。
けれど、フィリアは慌てる様子もなく、にっこりとほほ笑んだ。
「うん! わたしたちはあなたに会いに来たの。もしかして同い年ぐらいかな?」
「私は十四歳ですが……」
「やっぱり同い年!」
フィリアがぱああっと顔を輝かせる。
もともとフィリアは皇宮で一人ぼっちだったし、同年代の友人がいなかったのだ。
メイドのクラリスはフィリアの友達的存在ではあるけれど、少し年上だった。
だから、フィリアにとって同じ年齢の少女に会えるというのは、嬉しいことなんだろう。
ぴょんぴょんと飛び跳ねるように、フィリアはルシルに近づき、その手を握った。
ルシルはびっくりしたようで、困惑したよう赤色の目を伏せた。
「あの……殿下?」
「フィリア、って呼んでくれていいよ」
にこにことしながら、フィリアがルシルに言う。
小柄な愛らしい少女の二人が並ぶと微笑ましい感じがする。
それにしても、どうしてルシルは俺とフィリアのことを一目見てわかったんだろう?
「ルーシィ先生が言っていたから。もしものことがあったら、ソロンとフィリア殿下の二人がやってくるはずだって」
「ああ、なるほどね」
やっぱりルーシィは万一自分の身になにかあったときのために、ルシルに何かを託していたらしい。
ルシルは学校の尖塔の一つへと歩き始め、そして俺たちを振り返った。
「来て。ルーシィ先生の研究室に案内するから」
「ルーシィ先生の研究室?」
「そう。そこにあなたたちに必要なものがあるから」
俺たちは言われるがまま、ルシルの後を追った。
久しぶりに入る学園の建物は薄暗く、相変わらず埃っぽかった。
フィリアが周りをきょろきょろしながら、階段を登っていく。
ぐるぐるとした螺旋階段で、小さな丸窓からしか光は差し込んでいない。
やがて部屋の前につくと、ルシルは研究室の扉を開け放った。
山積みの本が置かれた部屋の中央には、高価そうな茶色の椅子が置かれていた。
だけど、その所有者はいまや部屋には不在だった。
ルーシィは国家反逆者として捕らわれ、魔法学校の教授の職も解かれるだろう。
「たぶん、この部屋もすぐに差し押さえられるだろうな」
俺がつぶやくと、ルシルはうなずいた。
「そうだと思う。だから、必要なものを持って行ったほうがいいよ」
そして、ルシルは一冊の真っ赤な表紙の本を指さした。
厚い皮で装丁された本は、背表紙に金色の文字が刻まれていた。
ただ、その文字は帝国標準語ではない。
俺はわりとほかの国の言語にも通じているほうだけれど、こんな文字は見たことがない。
古代文字かなにかだろうか?
フィリアもその本を上からのぞき込み、不思議そうに首をかしげる。
「なにこれ?」
「魔導書。あなたたちに必要なもの。これは……ルーシィ先生の完成させた偉大な魔法なの」
そういって、ルシルは俺たちをまっすぐに見つめた。






