107話 誰がクレオンを裏切ったか
俺は困惑した。
魔王の子孫は高い魔力量を誇るから、生きた魔力の供給源として利用する者もいる。
けれど、そのためには魔王の子孫に改造手術を施し、非道な扱いをしなければならない。
実際にアルテは魔王の子孫の少女たちを奴隷にして使い潰し、廃人化させてきた。
そして、より強い力を手に入れようとしていた。
だけど、フローラはそんなひどい事には反対だったはずだ。
妹とはいえ、フローラはアルテのやっていることすべてに賛成はしていない。
大図書館で偶然出会ったとき、フローラは確かにそう言っていた。
なのに、実際には姉と同じように魔王の子孫を道具扱いして力を手に入れた。
そして、莫大な魔力を必要とする占星攻撃を一度きりではなく、戦闘中に二度使えるようにしたという。
なら、フローラの言っていたことは全部、嘘だったのか。
俺たちの味方になってくれる可能性なんて、はじめからなかったのかもしれない。
フローラは隣の俺の視線に気づいたのか、寂しそうに微笑んだ。
「私は臆病者なんですよ、ソロン先輩」
フローラは俺にそう言った後、すぐに占星魔術の発動に移った。
今度は魔法陣を破壊するためではなく、敵のサウルそのものを倒すための攻撃だ。
フローラが詠唱をはじめるのと同時に、クレオンが合図して前衛の冒険者たちが一斉にサウルに対して剣撃を繰り出した。
サウルは剣士たちの対応に追われ、フローラを止められなかった。
「墜ちよ!」
フローラの叫びと同時にクレオンが「退け!」と声をかける。
一斉に前衛たちが飛び退った。
間をほとんどおかず、直視することができないほどのまばゆい光を放って、燃え盛る攻撃魔法の塊がサウルに直撃する。
普通の魔族であれば、これで燃え尽きていただろう。
だが、サウルはなお平然とした様子で、その場に立っていた。
「禁忌の力に手を出したところで、なお私を倒すには足りないよ」
けれど、魔王の子孫の力を利用しているのは、フローラだけじゃない。
アルテはもちろんそうだし、もしかしたらクレオンだって魔王の子孫たちを犠牲にしているかもしれない。
アルテがふたたびヤナギの杖を掲げ、七色に光る魔法の束をサウルめがけて放った。
これも魔王の子孫の魔力を利用したものだろう。
いかにサウルといっても、まったく弱らないわけではない。
連続する攻撃で、サウルはかなりの魔力を失っていた。
そこにたたみかけるようにクレオンがサウルへと踏み込んだ。
聖剣が青く輝き、一閃する。
サウルは深く斬られ、その場に倒れ込むと、やがて淡く白光しはじめて跡形もなく消えてなくなった。
残ったのは、彼が握っていた水晶の剣だけだった。
あっけないものだと思う。
二千年前から生きてきたというこの遺跡の番人は、倒された。
第三者から見れば、聖騎士クレオン、賢者アルテ、そして占星術師フローラの三人の偉大な冒険者の力で、偉業が達成されたように見えるかもしれない。
だけど、彼ら彼女らの手は、魔王の子孫の血で汚れている。
「偽者の聖人は倒されました。あたしたちの……勝利です!」
アルテの宣言に、一瞬冒険者たちは静まり返り、そして、わっと歓声が沸き上がる。
ネクロポリス攻略は達成されたのだ。
そのとき、広間の奥の壁が轟音を上げながら、左右に開きはじめた。
古代王国の玉座の間が俺たちの前に姿を現した。
その空間は銀色に輝いていた。
古代王国の玉座の間は壁も床も天井も白金でできているのだという言い伝えを思い出した。
そして、天井まで届くほどの黄金の塊があった。
いや。
それは黄金で覆われた巨人だった。
びくりとも動かないが、それが何者かは明らかだった。
「これがヴェンディダードの七人の魔王。古代王国を滅ぼしたアカ・マナフだ」
クレオンがつぶやく。
それは、たしかに言い伝え通りの魔王の姿をしていた。
魔王はおとぎ話のなかの存在ではなかった。
これこそがクレオンとアルテの真の目的のはずだ。
二人は、隣国との戦争に使うため、そして、さらなる力を手に入れるために、魔王を復活させるつもりなのだ。
そして、この魔王を甦らせるのに必要なのは、フィリアを生贄として差し出すこと。
それだけは阻止しないといけない。
だから、俺と仲間のノタラス、ラスカロス、ナーシャたちにとっては、ここからがクレオンとアルテを敵に回しての真の戦いとなる。
そのはずだった。
フローラがふらふらと歩いているのが目に入る。
そして、フローラはサウルが立っていた位置まで行き、水晶の剣を拾い上げた。
勝利に酔いしれる冒険者たちは、誰もフローラの行動に注目していなかった。
フローラは水晶の剣を持ったまま、クレオンに近づいていった。
クレオンがおや、という顔をして、それから微笑んだ。
「この戦いで勝てたのはフローラのおかげだな。君が一番の功労者だ」
クレオンは握手しようと、フローラに右手を差し出した。
けれど、フローラはそれに応えなかった。
次の瞬間、フローラの手にある水晶剣が、クレオンの胸を深く突き刺していた。






