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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第2章 『餓鬼』の騒乱
65/123

10話 リクルーター?

 ■■■


 真理が再び学校に通うようになって数日後。

 真理は少女の姿に慣れた。さすがにトイレや着替えは慣れないが、普段行動する上ではなんの支障もきたさないぐらいになっていた。物語に出てくるような“女の子になってしまった男の子”のように戸惑ったままではいなかった。傍から見ると(と言っても事実を知っているのはアテネと何人かだけなのだが)、真理が女の子になってしまったことを受け入れている様子はどこか違和感を覚えるものだった。今まで男として生活してきた人がいきなり女の子になってたった1週間も経たずに慣れるなんてあり得るのか。

 そんな疑問も、真理の心情を鑑みれば答えが出てくる。早くこの身体に慣れて、早く元に戻る方法を見つけ出したい、という思い。こんなところで躓いていられるか、という自らへの叱咤。絶対に元の姿に戻ってまたアテネとの普段通りの生活に戻ってやるんだ、という決意。

 これらが真理の適応力を高めていた。




 「神内さん、次読んでください」

 「はい。この時代背景として大きく関わってくるのが・・・」


 教室に響く清らかな声。黒板に叩きつけられたチョークの奏でる音。ノートに書き出そうと生徒が持つ筆記用具から聞こえてくるざわめき。様々な音が混ざり合い、一つの音楽となって表れていた。これが“日常”。


 魅羅は表情にこそ出さないけれど、憂鬱だった。これから自分が果たさなければならない目的を考えると嫌になっていった。本来の自分には似合わない行動を強いられることになることが苦痛だった。できるだけ先延ばしにしたいところだが、そうにも言っていられなくなった。もう期限は差し迫っている状況だった。今日中にでもその目的を果たさなければならない。

 魅羅は黒板に書き出されていく文字を書き写す傍ら、教科書を朗読する少女とその隣に座る赤紫色の髪の少女を見て再度ため息をついた。



 

 ■■■


 放課後。アテネと真理が荷物をまとめ帰宅しようとしているところへ、魅羅が声を掛けてきた。


 「ちょっと、いいかしら?」

 「何か用事かしら、鏡袷(かがみあわせ)さん?」

 「ちょっと時間を頂けないかしら、竜崎さん。非常に大変重要な用事があるの」

 「ふーん、真理。どうする?」

 アテネは不審げな視線を魅羅に向けたまま傍らの真理に聞く。


 「じゃあ、私は先に家に帰っているね」

 「わかった、早めに終わらせて帰るね」


 真理はその場を後にして帰って行った。


 「それで、私に何か用?」

 「頼みがあるの、聞いてくれる?」

 魅羅はいきなり手を合わせて懇願してきた。


 「なっ、何かしら。話によるわ、私たちに面倒な話は問答無用でお断りするわ」

 「うーん、面倒って言ったら面倒なんだけど。話だけでも聞いてくれないともっと面倒なことになるよ」

 「・・・!」

 「まず結論だけ先に言わせてもらうね。

 『暴食』の餓鬼を牽制する意味で私たちを手伝って!」

 「はぁあ!?」

 魅羅の口から出た言葉に思わずアテネは叫んでしまった。





 ■■■


 「それで、どういう話かしら」

 アテネは不機嫌そうな表情を浮かべながら問いかけた。


 夕暮れの教室の中で、アテネは教卓の上に腰かけて座り、魅羅は教卓の前の机に寄りかかっていた。


 「まず『暴食』の餓鬼ってわかる?」

 「見たことはないけど知ってるわ」

 「うん。それで、その餓鬼っていうのが最近こっちでいろいろとやっているわけなのよ」

 「いろいろって・・・」

 「私も詳しくは知らないんだけど、世界征服?みたいなことを企んでいるらしいの」

 「ありきたりな悪役ね・・・」

 「それでもって、餓鬼を抑えるために魔法少女の中でも『鬼狩り』の二つ名を持つ竜崎さんにお願いしたいわけなの」

 魅羅はそこで両手を合わせて懇願した。


 「いくつか質問するわ。まず、貴女は何者?なぜそのようなことまで知っている?」

 「うん、そうだよね。改めて自己紹介するね。

 鏡袷(かがみあわせ)魅羅(みら)。能力者であり、『嫉妬』のメッセンジャー兼リクルーターってところです」

 「・・・色々突込みどころあるけど、能力者なのに『七つの大罪』と繋がりがあるのね。見たことないわ」

 「いろいろあるんです。とりあえず私の所属はわかったでしょ」


 「いやというほどね、本当ならばその『七つの大罪』は私が狩るべき存在なんだけれどねぇ」

 「まあまあ、そこはとりあえず今のところは『暴食』だけにしておいてください。いくら竜崎さんが強いといっても全部を相手できるわけではないでしょ?」

 「・・・・・・まぁそうね」

 「何、今の間!私一度レヴィアタン様と対面したことあるけどあの威圧感で私は闘うなんて考えは吹き飛んだわ」

 「やってやれないことはないけど」

 「はぁ、凄いのね魔法少女って」


 「それで、私がなぜこの頼みごとを聞かないと余計に面倒になるというの?」 

 「それは・・・」

 魅羅は言葉をいったん区切った。

 「竜崎さんが真っ先に狙われているからよ、なんだかよくわからない実験のためにね」

 魅羅のセリフにアテネは目を瞑った。


 「後で詳しく聞かせてもらうわ」


 アテネは言葉を紡いだ。

 「変身!」


 その言葉によりアテネの姿は魔法少女のコスチュームへ変わった。

 魅羅はその様子を見て何事かと思い振り返った。



 夕日に照らされる教室の奥に赤い斑点のある白いワンピースを着た一人の少女がいた。

 いつの間にか現れた少女は殺気を放ちながら、両手にそれぞれ持つ二刀を構えなおした。


 「コロス」

 二刀流の少女は教室の机を飛び越えるようにしてアテネへまっしぐらに接近する。


 「吹き飛べ」

 アテネは近くにいた魅羅を抱き込むようにして一気に教室の外へ出る。

 後ろで黒板に刀を突き刺す少女の姿が見えた。


 「逃げるわよ」

 アテネはとっさに動けなかった魅羅を抱えたまま魔法を使い高速で校舎を後にする。

 その様子を見た二刀流の少女は無表情のまま魔法を使い、アテネ達の後を追う。



 ここに『鬼狩り』と『殺戮の少女(キリング・キティ)』の戦いが始まるのだった。





 

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