14話 蠢く闇(1)
■■■
アテネ達がクラスメートである能力者と話をしている頃。時を同じくして。
「首尾はどうだい?」
河野香は尋ねた。
「やはり反応はありました。場所は校長室から、微弱ですが存在を確認しました。おそらく結界を破壊すれば存在が明らかになるかと」
対する一人の男はそう答えた。男の名は新川一。桐陵高校の2年生だ。彼はこの学校に4月に転校してきている。
「ごくろう。大体場所は掴めた。準備も整った。明後日にでも作戦開始とでも行こうかしら。明日は彼女と会うから」
「それでいいと思います、マスター」
「こらこら、学校では私のことは河野先生と呼びなさい。私の名前は河野香なんだから」
「はい、河野先生」
「よろしい、じゃ詳しい内容は後でメールするから」
「わかりました。では、さようなら」
「気をつけて帰るんだよ」
新川の姿が見えなくなったところで河野はふぅと息をついた。
「さぁこれからが楽しみね」
■■■
そして次の日。
何事もなく朝が始まった。
「連絡事項は以上ね。じゃあHRはこれでおしまい。授業頑張ってね」
担任である河野香は教室を出て行った。
この後の一時間目の授業は理科総合だった。先生は河野だ。そう、妖艶な女教師河野香は化学の教科を担当している。
真理はあまり勉強のできない生徒であるが、理数系の教科に関していえばけして悪くなく、むしろ平均より良い結果を叩き出す。
この理科総合の授業もけして嫌いな訳ではないが、この妖艶な女教師のせいであまり集中することができていなかった。
真理も健全なる男子高校生である。女性の身体に興味がないなんて言えば嘘になる。
だからこそ、完璧なプロモーションを持つ河野の授業を集中して聞くなんて出来ないのだった。これは真理一人に限らない。クラスの男子のほとんどがそうだった。(例外もいる。)
「・・・じゃあ今日の授業はここまで。次までには今日やった化学式をぜーんぶ覚えてくること、いいね」
結局また集中できないまま授業が終わった。
■■■
「やはり女性の魅力というのは小学生の頃にピークを迎えてそれからだんだんと落ちていく」
例外がいきなり話し出した。彼の名は安部大輔。変態紳士である。
ここは中庭。アテネ達4人は昼休み、この場所で昼食を取ることになっていた。4人は芝生の上に座ってそれぞれ昼食を食べていた。ちなみにアテネと早苗はマンゴーが練り込まれた蒸しパン、真理と大輔は通常の倍の大きさの焼きそばパンを食べていた。これらは食堂の販売メニューの中の『今週のオススメ』というものを選んだ。
「故に小学生の幼女こそ至高の存在だ。そうは思わないか、真理?」
「いきなり昼休みにそんな話題はやめろ。周りがドン引きだろ」
真理はアテネや早苗が後ずさりしていくのを見て堪らず言った。いくらなんでも真理は特殊な性癖の持ち主ではない。
しかし大輔の口が閉じることはなく、
「今こそ幼女を崇めるべk『べこっ』ぐほっ」
熱弁を奮う大輔に早苗は上段から手刀を振り下ろした。手刀であるはずなのだが、大輔の頭頂部から人から鳴ってはならない音がした。
「全くいつから大輔はこんなになっちゃたんだろ。ただの変態じゃない」
「なんか安部くんの評価が株価大暴落みたいに下がっていくわ」
アテネは呆れたような表情を浮かべていた。
「いてて・・・おいっ早苗。痛いじゃないか」
「大輔が悪いんじゃない。変なことばかり言って!」
「不変の真理を述べただけだ。何も俺は悪くない。全く今から思うと、あの頃の早苗は可愛かったよ。今じゃこんな風になって、幼なじみルートなんて存在しないと思い知らされたぜ」
早苗の顔が少し赤くなった。
「あっあの頃っていつよ?」
「ん?10歳頃かな。まさに俺好みっていうロリータ臭むんむんだったな」
「・・・」
早苗は無言のまま拳を振り下ろした。
ごすっごすっと音を立てる早苗の拳。
「えっ?なんっで?ちょっ早苗さん?止めてくれませんか?痛っいんで。おいっ真理、見てないで助けろよ」
「今のはお前が100%悪い」
「早苗が可哀相だわ、こんな幼なじみで」
結局、大輔がなんとか謝りその場は収まった。
■■■
最後の授業が終わり、放課後。
今日は早苗と大輔の部活がないため、4人で帰ることになった。
「どこか寄ってく?」
早苗が話を切り出した。
「いいのか、委員長がそんなこと言って」
それを受けて大輔はまぜっ返すように言った。
「いいのいいの。そんな規則なんてないし、息抜きにいいかなって」
「それなら行きましょ」
アテネも賛同した。
そんな中で、真理は
「ちょっと俺、寄るところあるから先に行ってくれないか?」と言った。
「別にいいけど早めに来てね」
「わかってる。場所はどこにするんだ?俺はどこでもいいんだが」
「うんとね、どこがいいと思う?」
早苗は残る二人に聞いた。
「さっちゃんに任せるよ。」
「どこでも構わないぜ」
早苗は二人の声を聞き言葉を続けた。
「じゃあおいしい紅茶のお店の『アゲトビレッジ』に行ってるからね」
「わかった。さっさと用事を済ませるよ」
真理は足早に教室を出て行った。
■■■
真理が向かって行った先は、校舎の裏側に位置する、通称“憩いの空き地”。
なぜ真理はそんな場所へ行くのか。それは呼び出されたからだ。 昼休みが終わった後、自分の席に座った真理は机の中に入った手紙に気付いた。その手紙にここへ来るように書かれていた。
真理がその場所へ着くと、待ち構えている人がいた。
それは真理のクラスメートの上山優子だった。
*2012.2.3に修正しました。




