魔板
投稿時間変更に伴い、今までのお礼も兼ねて本日二話目の投稿です。
これからは18時前後に投稿します。よろしくお願いします。
(ねぇ、タイチ。魔術式の実験するんじゃないの?)
ヨルムとの食事の後、宿の自分の部屋に帰ってきてからずっと本を読んでいたのだがとうとうルージュのしびれが切れたようだ。
「うん、実験するよ。むしろそのための読書なんだけどね。」
(最近よく読んでるけどおもしろいの、その本?)
「興味深いって感じかな。」
隠し部屋にあった魔術式に関する本なのだが読んでみたら一般向けの本というよりは研究者向けの専門書に近い。書き方が難解だし何より・・・。
「これ、実はこの国の言葉とちょっと違うんだ。」
(へぇー、昔の本だからかな。というかなんでタイチは読めてるの?)
「たぶん知識のスキルのおかげかな。この世界の言葉がわかるっていう話だったし。」
文字はほとんど同じなのだが変な点やへの字マークが上についていたりする。単語も違うし知識スキルがなかったら読むこともできなかったはずだ。まあ逆にそのスキルがあったから最初に調べた時は違和感に気がつかなかったのだが。
「うーん、結構昔の本でまだ2冊しか読めていないけど、なんとなく今よりも研究が進んでいるような気がするんだよね。」
(具体的には?)
「説明するのも面倒だから一旦キリをつけて他の検証と一緒に実証実験してみようか。」
(りょーかーい。)
庭の小屋で同じ効果の今の魔術式と本の魔術式のプレートを1枚ずつ作り、残りの28枚は同じ魔術式のプレートを作り治療院へ向かった。
「こんにちは、ロンソさん。部屋を貸してもらっていいですか?」
「おう、今日も手伝ってくれるのか?」
「手伝いは明日来ます。今日はちょっと実験をしたくて。」
「わかった。器具を壊さなければ好きに使っていいぞ。」
そう言うとロンソさんは調薬作業に戻ってしまった。許可はおりたので実験を始める。ここで行うのはスライム液の改良作業だ。威力を上げるためには込められる魔力を増やす必要があるのでその媒体であるスライム液をなんとかできないのかというのが今回の実験の趣旨だ。
とりあえず考えられることとしてはスライム液の濃度による差、魔石とスライム液の混合比率による差、スライム液に他の物体を混ぜた時の差くらいかな。他の物体を混ぜた場合はパターンが多すぎるから今は保留だな。おいおい余裕が有る時にゆっくりと研究していこう。
まずはスライム液を濃くした場合の違いだな。スライム液を一定量に分け、それを放置して濃度を濃くしていく。スライム液は蒸発するのかわからないが時間経過で消えてしまうからな。まあ色が濃くなっていっているからたぶん濃度は上がっていっているんだろう。とりあえず10段階にわけてプレートにコーティングしていく。間違えないように固まったら紙に「10%減」などと書いて包んでおいた。
次は混合比の違いだ。いつもなら1匹に対して1個の魔石だったが、それを2個、3個、4個と増やしていきプレートを作っていく。細かい比率に関しては傾向が出てからの研究でいいだろう。10枚のプレートの作成が完了した。しかし、魔石の量を増やす事にスライム液が固まるスピードが早くなるからあまり多くは混ぜられそうにないな。
ロンソさんにお礼を言って街の外へ出る。今回はちゃんと火の魔術式ではなく土の魔術式だが庭がくちゃくちゃになりそうなので宿で実験するのはやめておいた。モカちゃんに怒られるし。
「じゃあまず、濃度の違いからいってみますか。」
(はーい。)
ステータスを見ながら魔力を限界まで込めて10%、15%とそれぞれを地面に投げつける。魔術式に従い土壁ができるが大きさが多少違う。10%と40%なら違いがわかるが、5%程度の違いではあまり変わらない。それぞれの土壁の大きさを測り、込めた魔力の量とともにノートに記録していく。現状では40%を山としたグラフが出来上がっている。まあ朝に狩ったスライムだし、アイテムボックス内でも時間経過するから多少減っているだろうしな。だいたいそのくらいと考えておこう。
(あんまり差がないね。)
「まあそうだけど意味はあるよ。作り方によって込められる魔力の量が変わり、その効果も増大したというのは大きな発見だよ。」
(じゃあ、次は?)
「混合比を変えたものだね。」
先ほどと同様にステータスを見ながら魔力を限界まで込めていく。
「うわっ。」
(どうしたの?)
「いや、こっちはだいぶ変わりそうだ。」
魔石の数が多くなっていくほど魔力を込められる量が多くなっていく。Lvが上がってMPが増えていなかったら間に合わなかったかもしれないな。なんとか全てのプレートに魔力を込めて1枚ずつ投げていく。先程までと違いかなり大きさにばらつきが出た。
(おぉー、すごいね。)
一番大きいものでは普通の時の5倍程度の大きさの土壁が出来た。
「ああ、こっちのほうがかなり違いが出るな。」
込められた魔力量と土壁の大きさをノートに記録する。魔石の数が増えるごとに比例して大きくなっているが、液が固まりやすくなるという問題点もあるからな。このまま濃くしていくと下手をすると混ぜている間に固まってしまうという事態になりかねない。妥協点を見つけなければいけないな。
「よし、とりあえず方向性は確認できた。じゃあ最後に魔術式の違いによる実験だね。」
「おー、待ってました!!」
2枚の札に魔力を込める。ステータスで確認したがちゃんと同じだけ魔力がこもっているはずだ。それぞれを投げつけて結果を見る。
「思ったとおりだ。」
(ほんとだねー。)
出来た2枚の土壁には1.2倍程度の差ができた。やはり昔の本のほうが研究が進んでいるということだ。もちろんこの複雑な魔術式を正確に描けるという前提があってのことだが。
(でもどうしてこんな差ができたの?)
「詳しくはわからない。もっと本を読んでみればわかるのかもしれないけどね。まあ仮説としては魔力を使う効率がいいんだろうね。同じ効果をより少ない魔力で発揮できるから最後の土壁を作るところに使える魔力が多く残っているんだろう。」
(じゃあこれでバンバン威力の大きいプレートを作っていけばいいね。)
「うーん、そうでもないんだよね。状況に応じて小さい威力のほうがいい時もあるから時と場合に応じたプレートを何種類か作る方向性かな。まあ研究も途中だし。」
(そういえば、このプレートこれからなんて呼ぶ?せっかく完成の目処もたったんだからなんか名前を付けようよ。)
「そうだな、特に考えてなかったんだけど。」
(はいはーい。じゃあ僕が名前つけてもいい?)
「別にいいよ。」
(魔板でどう?)
「そのままのネーミングありがとう。」
(いいじゃん、わかりやすくて。)
魔板か・・・。まあわかりやすいな。まあ別にこの技術を広げるつもりもないし別にいいか。
「わかった。魔板にしよう。」
(やったー。)
こうして私の新しい武器が増えた。まだまだ研究中だし検証しなければいけないことも様々あるが30回層のボスに対する戦略が広がったのはありがたい。ルージュとともに上機嫌で街へ戻った。
浮かれすぎて薬草を取るのを忘れ、入市料を取られてしまったが必要経費だ。仕方がない。悔しくなんてないぞ。
電子回路などを簡単に作ろうとするとものすごく複雑になります。
いかにわかりやすい簡素な回路にするかが研究課題ですよね。
読んでくださってありがとうございます。




