説得の方法
過度な暴力と思われるかもしれない表現があります。
嫌いな人は後書きにあらすじを書きますので飛ばしてください。
よろしくお願いします。
「てめぇは!!がっ・・・。」
腹這いの男が私の顔を見た途端、わめいて暴れだそうとしたがヒナが鞘で背中を突いて黙らせる。どこかで会ったような気もするがいまいち思い出せない。
「やっぱり私じゃなかったニャ。」
「いや、なんか見たことはあるんだけどどこでだったかな?」
(あれだよ、メリルの時の10階層で休憩してた冒険者。)
「あの迷惑冒険者か。まさかあのくらいのことで攻撃を仕掛けてきたのか?」
「あの後使っていた剣は折れるわ、ボブゴブリンに挟撃されるわ散々だったんだ。全部てめえとあの男のせいだ!!」
「何の話ニャ?」
ヒナに事情を説明していく。途中で男がわめこうとしたがヒナが踏んだ足に体重をかけて黙らせていた。
「八つ当たりもいいところニャ。」
「私もそう思うけど、こういう場合はどうする?盗賊じゃないから殺したらこっちが犯罪者だよね。」
「まあ、一般的には・・・。」
「ふざけんじゃねえ!!」
ぐったりしているように見えた男がいきなりナイフを投げてきた。腕の力だけで投げたナイフだから遅く、しかも投げる前に声を出すなんて避けてくださいと言っているようなものだ。体をひねってかわす。だがそれが悪かった。
(痛っ。)
カンッと言う音とともにルージュの前輪のスポークにナイフが当たる。慌てて見に行くと若干スポークが曲がっている。走るのに支障は無いがそのまま放置すればいずれ歪みが発生するから取り換えが必要だ。
「ははっ、ざまあみやがれ。」
男が笑う。自分の感情がスッと冷めていくのを感じる。
「ねぇヒナ。こういう場合は一般的にはどうするんだっけ?」
自分でも信じられないくらい冷たく低い声が出る。
「えっ、あぁ。ギルドは冒険者同士の喧嘩には一切手を出さないニャ。だから相手に手を出させないようにどうにかして説得するしかないニャ。」
「ふうん、説得すればいいんだね・・・。」
「あの、タイチ・・・?」
「じゃあちょっと説得してくるよ。ヒナはそっちの女の冒険者の説得を頼むね。」
「わかったニャ。」
ヒナに任せればあっちはどうにかなるだろう。男たちの足を持って引きずりながら、しばらく歩いた先にある部屋へ運んでいく。ナイフを投げた男がわめいていたが腹に蹴りを入れ黙らせる。男が何か液体を口から出していた。汚い奴だ。
部屋に3人を集め、とりあえず気絶している男にしびれ薬を塗ったダートをふとももに投げつけ起こすとともにしびれさせて動けなくする。
さあ、説得の時間だ。
「やあ、全員目が覚めたようだね。今から君たちを説得しようと思う。」
「ふざけるなよ。いつか襲って殺してやるからな、夜道に気を付けるんだな。」
「うー、うー。」
3人の目に恐れはない。ただ怒りだけがこもっている。自分たちの状況を理不尽に感じているんだろう。立場が分かっていないな。
「だれがしゃべっていいって言ったかな?」
ダートをしびれていない剣士の男の両手に対して投げる。面倒くさい。もうこいつの呼び方はクズでいいな。
「ギャアァー、痛い、痛い。何しやがる!!」
「だからしゃべっていいって言ってないでしょ。」
クズの両足にダートを投げる。
「グアァー!!」
「うるさいな、ちょっとは静かに出来ないのか?」
たった4本ダートが刺さっただけじゃないか。しかも威力を落として先端が刺さるくらいしかしていないのに大げさな。大きな血管も避けているから出血もそれほどじゃないのに。
「私の要望は3つ。私の前に2度と現れない、私と私の知り合いを襲わない、3日以内にこの街を出て行く。簡単だろ。」
「ふざけんな。そんなこと聞く・・・」
「ねぇ、聞こえなかったのかな。だ・れ・がしゃべっていいって言った?」
クズの右耳にダートを投げる。良かったね、ピアスがしやすくなったよ。
「アァー!!」
あれっ、耳って神経が通っていないんじゃなかったっけ。それは俗説だったかな。今度医学書で確認しないとな。
「君たち2人はしびれていて話せないと思うから、このクズに聞くけどいいよね。」
その2人の目には多少の恐怖が見て取れたが、特に反応は無かった。まあしびれているから仕方がないか。
「で、どうかな。はい、しゃべっていいよ。」
「なんで俺達がそんなことを聞かなくちゃいけないんだよ。会いたくないならお前が出て行きな。まあ追いかけて今日の分まで後悔させてやる。」
「ふーん、元気だね。」
アイテムボックスからソフトボールくらいの土の塊を取り出し、クズの股間に当たるように落とす。
「っつ・・・。」
クズは言葉が出ないようで股間を抑えている。投げずに落としただけなんだからつぶれたりしていないはずだ。まあ、当たり所が悪ければ知らないが。
「ねぇ、私の要望を聞いてくれるかな?」
「っつ。こんなことをしてただで済むと思うなよ。あの女もおまえが大切にしているあのバイシクルもぶっ壊してやる。」
「君はある意味すごいね。そして馬鹿だ。」
男にヒールをかけてヒナが折った骨以外の傷をすべて治す。男たちが唖然とした顔をしている。
「今更こんなことをしたって許さねえぞ。」
クズが立ち上がり剣を片手で持ってこちらに向かってくる。そのクズに対して先ほどとまったく同じ順番で同じ場所にダートを投げ、そして土の塊を落とす。
「グアァー!!」
「ねぇ、私の要望を聞いてくれるかな?」
「ふざけ・・・」
ヒールで癒す。ダートを投げ、土の塊を落とす。それをただ繰り返す。途中でMPが切れそうになったのでMPポーションを飲みながら続ける。
クズと男たちの心が折れるまで。私に関わろうと二度と思わないように。
「ねぇ、私の要望を聞いてくれるかな?」
同じ質問を繰り返す。5回も続けたころには男は涙を流ししゃべらなくなった。10回を超えたころには下半身から出ていたシミのもとがもう出なくなった。そして12回目。
「ねぇ、私の要望を聞いてくれるかな?」
「・・・。」
男は私を見るだけだった。その目はうつろで私が手を上げてダートを投げようとする瞬間だけ恐怖するようになっていた。もうこのクズは大丈夫だろう。
しびれている男2人に対して振り返る。
「君たちも聞いてくれるよね?」
しびれているため体は動かせないが、何とか目を動かして同意しているようだ。その目には恐怖の感情が宿っているように感じた。
「あっ、そうだ。君たちがちょっと勘違いしているかもしれないからちょっと待ってね。」
全力でダートを投擲する。2人の顔のすぐ横を通り地面にダートが突き刺さり土製のダートが砕け散る。
「このクズに投げたダートはかなり手加減してるから。わかってるよね。」
男たちの下半身から液体が出ていることを確認し、理解できただろうと判断する。これでこいつらについては大丈夫だろう。
あぁ、MPポーションがもったいなかった。またロンソさんのところへ行かなくては。
でもこれは必要なことだった。私だけならいざ知らず、ヒナやルージュまで危害を加えるようなら私は鬼にも悪魔にもなろう。どちらも私にとっては大切な相棒だ。
「ただいま。」
「お帰りニャ。説得はうまくいったかニャ?」
「あぁ、彼らは3日以内にこの街から出て行くらしいよ。私たちに危害を加えないとも約束したしね。そっちは?」
「まあ、大丈夫ニャ。」
そこにはうつろな目をした女性がいた。怪我が増えている様子は無いのでヒールをかける必要はないだろう。何をしたかはお互いに聞かない方が良さそうだ。
「そこの女。この通路の先の部屋に3人を放置してきた。2人はあと20分くらい動けないし、もう1人の男もまともに動けないはずだ。早く行かないと魔物に殺されるぞ。」
女がハッとした顔をして私を見る。これなら麻痺消し薬を飲ませれば動けるだろう。ならそのまま放置して帰っても大丈夫そうだな。女に自分がしびれ草を食べるときの万が一用に準備した薬を飲ませる。しばらくすれば治るはずだ。
「安心していい。体の怪我は無い。骨折も治しておいた。」
「サービスいいニャ。治療代は取らないのかニャ。」
「まあ自分たちが与えた怪我だしね。」
「じゃあ、帰るニャ。女、わかっているニャ?」
女の顔がその一言だけで恐怖にゆがむ。本当に何をしたのやら。
(ヒナ、タイチ。ありがとう。)
「別にルージュのためだけにしたことじゃないから。まあルージュに傷をつけられて頭にきたことは確かだけど。」
「あの時のタイチは怖かったニャ。」
「えっ、そんなに?」
(僕としては嬉しかったけどね。)
いつもの調子に戻りながら迷宮を脱出した。その冒険者たちがどうなったかはわからないがこの街でその後見かけることは無かった。
(あらすじ)
メリルの時の10階層の冒険者と判明→ルージュに傷がつく→切れる→復讐されないように説得(物理)→説得完了
ブラック部分が出ました。自分の知り合いに被害が出るほど怖いことは無いです。
読んでくださってありがとうございます。




