魔術式
記念投稿で本日二話目です。
ご注意ください。
ブックマーク、評価ありがとうございます。
「えっと、とりあえず鉄の魔剣ってなんですか?」
「タイチさんは魔剣と言うものを知っていますか?」
「たしか剣に魔法を付与して戦う事の出来るものでしたよね。」
「そのとおりです。そしてその剣はミスリルなどの希少な金属で作られています。なぜだかわかりますか?」
「耐久性の問題などですか?やはり魔法をまとうとなるとそれなりに必要なのではと思うのですが。」
「それもありますが一番の問題は魔力の伝導性なのです!!」
あぁ、だんだんとネロさんがあのモードに入っていく。身振り手振りが大きくなってきた。
「魔法を発動させるためには魔術式をその剣に刻み、その流れに沿って魔力を流して発動させる必要があるのです。確かにミスリルなどの伝導性の高い金属であれば作成可能でしょう。しかしその分値段も高くなってしまいます。魔物に対抗するためには安価な魔剣が必要なのです!!」
「そうなんですね。」
「そこで私は考えました。鉄の魔剣が作れないかと。必要なのは魔術式の通りに魔力を流すことです。と言う事はその魔術式以外の部分については希少なミスリルなどを使わなくても大丈夫なはずなのです!!」
「ええっと。」
「私は何度も挑戦しました。この都市にいるドワーフ達に鉄剣に溝を彫ってもらいそこにミスリルを流すことで鉄の魔剣が作れないかと。しかし、失敗の連続でした。ミスリルの魔剣では問題ないくらいの魔術式の乱れだけで発動しなかったり、発動しても溝を彫ったことで鉄剣自体がもろくなってしまい実戦に使えなかったり。」
「・・・。」
「なんども同じ注文をする私を嫌ってこの街のドワーフ達は協力してくれなくなってしまいました。それからは私一人で研究を続けてきたのです。しかしこの・・・」
「話が長いうえに難しいニャ。」
ヒナの鉄拳が再度、ネロさんの頭に落ちる。
「はっ、すみません。結論としてはタイチさんの彫刻技術を利用すれば鉄の魔剣を作れるのではないかと思うのです。」
「そうなんですか。しかし一つ問題が。」
「なんですか?」
「私は彫ることは出来ますがそこに魔力を流しやすいようにするなんてことは出来ませんよ。」
「やはりそうですよね。そんなにはうまくいきませんか・・・。どこかに研究の好きなドワーフでもいませんかね?」
研究好きのドワーフか。いるな、約一名。ただ武器づくりには興味が無いって言っていたからどうだろうな。そうだな、バイシクルに魔術式を組み込めば面白い機能とかつけられるんじゃない?って言えば協力してくれそうだな。
「知り合いに協力してくれそうな腕利きのドワーフがいます。」
「おお、どなたですか?」
「ワクコじゃなくて、ワクコーリアルというドワーフです。今はイーリスにいますからすぐには連絡がつけられませんが手紙で協力依頼をしてみましょう。」
「もしかしてバイシクルやホビーホースの開発者のワクコーリアルですか?」
「知っているんですか?」
「知っているも何も超有名人ですよ。最近のホビーホースブームの火付け役、運搬の歴史を変える人物とも言われています。」
ワクコ、すごいことになってるぞ。なんかそのうちどこかの貴族からお抱えのお誘いが来るんじゃっていうレベルだぞ。
「まあそのワクコーリアルです。ちょっと変わっていますが研究好きですし、うってつけの人物だと思います。」
「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。」
「そして協力するにあたっていくつか条件が。」
「協力していただけるならできうる限りのことをさせていただきます。」
「まずは魔術式についてですね。興味がありますので教えていただければと思います。もう1つはもし魔剣の製造方法が確立できた場合にそれを使用する許可をいただきたい。もちろん自分たちで使う分だけで他には販売はしません。どうでしょうか?」
「はい、構いません。それと別に販売しても大丈夫です。」
「いいんですか!?」
「はい、別にお金に困っているわけではありませんし、私は自分の研究が達成できれば他は割とどうでもいいのです。魔術式に関してもタイチさんに勉強してもらえればその分精度があがるでしょうから私にとっても都合いいですからね。」
多少は交渉しないといけないかと思っていたが大丈夫なのか。典型的な研究者だな。しかも研究しか考えていない研究者だ。
最近は大学なども世知辛くなって来て、企業と連携するなどお金にもなる研究をすることが多くなってきている。予算は限られているから仕方がないし時代の流れと言えるだろう。ただそのため、研究したいから研究するという学びの本分を忘れてしまうような研究者もいるのだ。
それに比べるとネロさんは私にとって、とても好ましく感じる。それにしてもお金がどこから出てくるのか少し疑問だが。
「それではさっそく私の部屋で魔術式の基礎をお教えしましょう。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「話はついたニャ。じゃあ私は部屋に戻って寝るニャ。あんまりうるさくするんじゃないニャ。」
「わかってるよ、おやすみヒナ。」
「おやすみニャ。」
ヒナが一足先に階段を上り自分の部屋に帰っていく。寝不足のヒナのためには講義は静かに行ってもらおう。
ネロの部屋に入ると壁一面の本に圧倒される。地震でも来たら崩れてそのまま押しつぶされそうだ。そのすべてが魔術式関係か魔剣や魔道具の本であった。そして床には失敗作と思われる鉄の剣がごろごろしており、開いたままの本などが置きっぱなしになっている。机の上も本や何かが書かれた書類が山積しており、ベッドにも本や書類が散らばっている。はっきり言って足の踏み場が無い。
「それではタイチさん、まず魔術式の基礎となる・・・」
「いやいやいや、ちょっと待ってください。これ足の踏み場もないじゃないですか。せめて片づけてから人を招きましょうよ。」
「これは私の研究をするのに最適化した結果なのです。ほらここに座ると必要なものは取れますし、少し動けば剣の細工も出来ます。すばらしいでしょう?」
「どれだけ効率的かはわかりませんがちょっとここで勉強は難しいですね。」
「仕方がありませんね。初心者用の本は・・・。あぁここにありますね。これをもって食堂へ行きましょう。」
ネロさんは仕方がないなぁと言った感じで、本棚から本を数冊引き抜いて部屋の外まで戻ってきた。私か?私がおかしいのか?違うだろ!!
さすがに年上に突っ込みを入れることも出来ず再び食堂へ戻ってきた。
「さてタイチさん、魔術式とはなんでしょうか?」
「道具や武器などに刻印して特定の魔法を発動する模様の事ですよね。」
「そうです、この食堂にもあるランプの魔道具がいい例です。あの中にはライトと同じ効果を発揮する魔術式が書かれています。魔石から魔力を補充する仕組みも入っていますけれどね。」
まあそうだよな。ギルドで魔石の買い取りがあると言う事は需要があるってことだもんな。ポーションなどだけで使い切れるわけがないし石油みたいなエネルギー源として使われているんだな。
「魔道具はそうでないものに比べて高いです。それはなぜだかわかりますか?」
「作成に手間がかかるからですか?」
「うーん、半分正解です。確かに手間もかかるし作れる人も限られるのですが、もう1つは私の研究とも関わってくるんですよ。」
研究と言えば鉄の魔剣を作るってことだよな。あぁ、そう言う事か。
「希少な金属を使うから材料費が高くなると言う事ですね。」
「そう、その通りです。あのランプにもミスリルが一部使われています。」
そうなのか、ミスリルっていうとすごく希少なイメージだったが意外と身近にあるんだな。まあ前の世界で言う金みたいな扱いか。あまり知られていないだけで携帯などの精密機器によく使われていたしな。
「まあこのように魔道具などで身近にある魔術式ですがあまり知られていません。知っているのは研究者と魔道具を作る職人くらいですね。」
「それはどうして?」
「簡単に言ってしまえば複雑で理解するのが難しいからです。例えば、そうですね。」
ネロさんはペンのようなものを取り出すと紙に何か模様を描いていく。フリーハンドなのだが直線も曲線も乱れが無い。恐ろしいまでの正確さだ。
しばらくして同じような模様の書かれた2枚の紙が完成した。
「この2枚は同じ魔術式を順番を変えて描いたものです。わかりやすく例えるならこっちは「この紙を対象に発動後2秒後に火がつく。」でこっちが「発動後2秒後にこの紙を対象に火がつく。」と言う感じですね。ちょっと見ていてください。」
ネロさんが魔力を紙に込めると2秒後にそれぞれの紙に火がつく。しかし片方の火はくすぶるくらいしかついていない。もう一方は既に燃え尽きているのに。順番によって効果が変わるなんて化学反応みたいだな。なんかジェネリック医薬品を思い出す。成分は一緒だが作り方次第で効果が変わるんだよな。
いや、そんなことよりもおかしいことがあるぞ。
「こんな風に並び順が変わるだけで効果に違いが出て・・・。」
「いやいやいや、なんですかそのペン。なんで魔術式が発動してるんですか!?」
「私の発明の副産物です。まあそんなことはどうでもいいので説明に戻りますよ。この順番により効果が変わるという複雑性に加え、それぞれの属性の・・・」
その後のネロさんによる突っ込みどころの多い魔術式入門講義は3時間にわたり続いた。食堂が本来の役割に使われ始めなかったらいつまで続いていたのかわからない。
まだまだ魔術式はこの世界では研究段階のようだ。貸してもらった本を読みながら少しずつ勉強して行こう。
「あっ、タイチさん明日から魔術式の彫刻の練習をしますからね。」
うん、頑張ろう。
別にジェネリックが危険と言うわけではありませんので誤解のないようお願いします。
順番や方法などによって効果が変わるのはまぎれもない事実ですが。
読んでくださりありがとうございます。次話は迷宮に戻ります。




