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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第二章:メルリスの街にて
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裏切り

 矢は二の腕を少しえぐり、そのまま飛んでいった。さっきまで心臓があった位置だ。ぞっとする。あと少し反応が遅ければ死んでいた。


「ちっ、外したか。」

「あなたも仲間だったということですか、ニゴさん。」


 そこには矢を構え、今も私を狙っているニゴがいた。


「あぁ、助けてもらったのに悪いね。これが俺の仕事なんだ。」

「ずいぶんと立派な仕事ですね。」

「まあな。」


 不意に頭がふらっとして片膝をつく。


「ようやく効いてきたみたいだな。タイチ君、毒薬を使うのが自分だけだとは思わない方がいい。アドバイスだ。」

「そうですか。」

「特に俺達みたいな盗賊はよく使うよ。まあ今後生かす場面は無いだろうけどね。」


 ニゴが私を無視してヒナを狙う。まずいな、まだヒナは戦闘中だ。ヒナなら気づくような気もするが万が一もある。しかしどうする、手がしびれているからダートは使えないしルージュは今、シティサイクルなので土魔法は使えない。下手に声をかければ逆に隙を生んでしまうかもしれない。取れる手段は他にないか。


「ぐぉぉ!!」


 気合を入れて立ち上がり、手を上にあげる。ニゴが振り返った。


「じゃあね、ニゴさん。」

「なっ。」


 私はアイテムボックスから土の塊をニゴがつぶれるように取り出し、そのままニゴを圧殺した。


「お疲れニャ。タイチ。」

「ああ、本当に疲れたよ。」

「やっぱりニゴは盗賊の仲間だったかニャ。」

「気づいてた?」

「かもしれないくらいニャ。盗賊に襲われた割に盗賊の話をするときにはあまり怒っていなかったニャ。仲間の冒険者の話をするときはとても怒っていたニャ。」


 肩の傷をクリーンとヒールで治す。毒と言っていたが今はほとんど影響はない。たぶん毒耐性のおかげだろう。ヒナは予想通り傷一つなかった。


「そっちはどう?」

「一応全員の利き手を折って気絶させたから大丈夫ニャ。」

「こっちは3人痺れさせて倒れてるよ。効果がいつまで続くかわからないから早めに拘束しよう。」


 転がっている盗賊を後ろ手にしてアイテムボックスから取り出したシフトワイヤーできつく縛っていく。さすがにこれを外す力はこいつらにはないだろう。DPがもったいないが他にロープ代わりになりそうなものが無かった。イーリスから持ってきていたロープは今部屋で洗濯物を干すのに使っているしな。今度追加で買っておこう。


「こいつらが動けるようになるまで一時休憩かニャ。」

「そうだね。」


 いくらこの世界に来て筋力が上がっているとはいえ6人を抱えて外に出るようなことは無理だ。だからヒナも足を折らずに手を折ったのだろう。


「それで、これはどうやったニャ。」


 高さ2メートル縦横5メートルほどの土の塊を見ながらヒナが聞く。


「全力で土魔法使っただけだよ。」

「やっぱり職業詐欺だニャ。」


 アイテムボックスのことはヒナにも言っていないし、言うつもりもない。今回はちょっと危うい状況ではあるのだがなんとか誤魔化せたようだ。


「タイチは人を殺したのは初めてかニャ。」

「どうしてそう思う?」

「不安、怒り、悲しみ、いろいろな感情が混ざっているニャ。」

「そっか、わかるんだったね。そうだよ、自分の手で人を殺したのは初めてだ。」

「そうかニャ。」


 覚悟は出来ているつもりだった。自分の手で直接殺したわけではないから感触が残っているということも無い。でもなんだろう、この後味の悪さは。少し前まで話していた相手を殺したという事実。それを認めたくないのだろうか。殺されかけたと言うのに。

 土の塊の下から流れる赤い血を見ながら考える。

 その時、頭をポンポンっと叩かれた。


「考えすぎても仕方がないニャ。殺されそうになったから殺した、それだけニャ。」

「そうかな。」

「たぶんそうニャ。今日は付き合ってあげるから飲むといいニャ。」

「ありがとう。」

「まあ、タイチのおごりだけどニャ。」

「なんだよ、それ。」

「あの臭い匂いのお詫びが残ってるニャ。」

「そういえばそうだった。」


 ヒナと話している間にいくぶんか気分も持ち直してきた。まだ整理できない部分もあるがこれから時間をかけて考えて行こう。





「お前ら、わかっていると思うがお前らの価値は大銀貨1枚だけニャ。それがあるから生かしてもらっていることを自覚するニャ。逃げたり、反撃しようとするなら面倒だから即座に殺すニャ。わかったニャ?」


 盗賊たちが即座にうなずく。口には布を巻いて、さるぐつわしているので話すことは出来ない。6人全員がなんとか動けるようになったので移動を開始することになった。結局痺れ薬はダートに塗った量だけで1時間以上効果を発揮した。怖いよ、ロンソさん。


「じゃあ、行くニャ。」


 ヒナに盗賊たちの監視を任せ、私は先導して周囲の警戒とゴブリンの排除を行う。マップがあるので最短経路もわかるし、魔物の位置もわかるので排除は簡単だった。3時間ほどかけて地上へ戻ったときにはもう空は暗かった。

 防壁のところにいる兵士に盗賊6人を引き渡した。ワイヤーはどうするか迷ったが一応回収しておいた。ルージュには使わないつもりだがまた他の利用方法があるかもしれない。

 盗賊たちは奥へ連れて行かれ、しばらくして兵士が戻ってきた。ちゃんと盗賊だと確認が取れたらしい。ギルド証を見せ、後日大銀貨3枚ずつがギルドを通して支払われることを伝えられた。


 ギルドで買取をしてもらい、そのままギルドの酒場で食事と酒を飲むことにした。宿に帰れば夕食があるが外で食べたい気分だった。


「今日1日お疲れだったニャ。カンパーイニャ。」

「かんぱーい。」


 注文したエールをあおる。苦みの強い癖のある味だ。そしてぬるい。そういえばこの世界に来て初めてお酒を飲んだな。礼儀としてここは一気に飲み干す。


「おぉ、タイチは意外といける口かニャ?」

「まあ普段は飲まないけどね。」


 ルージュに乗るために前の世界でも普段は全く飲んでいなかった。飲み会ではよく運転手をさせられたものだ。


「ヒナもいけるみたいだね。」

「まあ、人並みには飲めるニャ。」


 鶏のから揚げのような料理をつまみながら、追加で注文したエールを飲み始める。ヒナととりとめのないことを話しながら夜は更けていった。

 付き合ってくれたヒナには感謝しかない。

 ただ、支払いが銀貨3枚もしたことだけは追記しておく。

自転車豆知識

<シフトワイヤー>

ギアを変えるための変速機につながるワイヤー。大丈夫だと思って放置しておくといつの間にか切れて急に変速できなくなるので注意。ブレーキワイヤーと違い危険性は少ない。この話のようには使わないで下さい。


お酒はあまり得意ではありません。

酒を飲んで自転車に乗って用水路に落ち、骨を折った知り合いがいます。

自転車でも飲酒運転は駄目ですね。

読んでくださってありがとうございます。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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