ランクアップの報酬
本日5000PVと1000ユニーク達成記念で二話投稿予定です。
二話目は夜に投稿しますのでよろしくお願いいたします。
今日は朝の配達がない日なのでギルドで薬草採取の依頼を受け、南部の森へ向かった。
(あっ、タイチ、制御が乱れた。狭すぎる、狭すぎる。)
「ごめん、ルージュ。」
魔法を習得してから訓練をどうしようかと考えたときに、庭で行うのは論外だからとりあえず街の外へ出ようと考えた。
街の外へ出るには依頼を受けないと入市料が取られてしまうので、一番簡単な薬草採取を選んでいる。
薬草はそこらの野原に生えているのだが、自転車で走ることと、魔法の訓練が両立できることを思いついてしまった。そう、ルージュがしていたことを自分がすればいいのだ。
というわけで南部の森まで2時間弱かけて走るついでに土魔法で地面を平らにしている。
これが意外と難しかった。ルージュがするとMPはほぼ減らないのに、平らにする範囲が広いとMPが減ってしまうし、狭いとでこぼこのままになってしまう。
こんなことを練習もせず感覚だけで出来てしまうなんてやはりルージュは天才だ。
私は2か月くらいかかってやっと満足のいく制御が出来るようになった。油断するとまだ乱れてしまうが。
実質3時間半ほど往復に時間がかかるので、採取時間は3時間くらいだ。たまにカイのところへ顔を出したりしているのでそういう時はもっと短い。
時間がなく採取が難しいかというとそんなこともない。森に入れば大体すぐに薬草は見つかる。採取が難しいのはアンさんに頼まれている痺れ草や毒草、解毒草などだ。
一体何に使っているのか怖くて聞けないが、私のステータスにいつの間にか「麻痺耐性」や「毒耐性」などの状態異常に対する耐性が増えていることから何に使われたかは明白だろう。
ありがたいけれど、怖いです。アンさん。
ほとんどの採取が終わったので街へ帰り、ギルドで薬草を納品する。
薬草を採取するときに土魔法で根から採取するので状態は最高だ。これをすると1割だけだが報酬がアップする。訓練にもなるし一石二鳥だ。
「あっ、タイチ。今回の依頼で条件を満たしたからランクが9級に上がるニャ。」
「そうなんですか。ありがとうございます。何か変わることはありますか?」
「特にないニャ。それと、ランクアップ記念で中央に入れるけど行きたいかニャ?」
「えっ、入れるんですか。それならもちろん入りたいです。」
中央というのは最初に作られた砦の中のことだ。入れる理由を聞いてみると辺境の場合、いつ魔物の暴走が起こるかもしれないので防衛のためにも砦の構造を知っておいて欲しいというのが建前で、今は高いランクの冒険者と貴族などを結びつかせるために行っているらしい。
だから低ランクの場合は辞退する者も多いらしい。
貴族とは別に知り合わなくてもいいが、この街で唯一見ることが出来なかった場所を見るいい機会だ。これを逃す手はないだろう。
「5日後にまとめて行くから朝の9時にここに集合するニャ。」
キナさんに了解と伝え、屋敷へ帰り、ボロボロにされ、また気絶した。
「うわぁ、これが砦の中か。」
ギルドにいた今回ランクアップした10人とともに砦の中へ向かった。
「チッ、これだからガキは・・・。」
「まあまあ、あなたもそんなころがあったでしょう?」
当然、他の全員が私より年上のランクも上の冒険者たちだった。集合場所からやたらと突っかかってくる人がいたが、まあこんな外見だし、しかもランクも9級だし仕方がないと流していた。
暴走することもなく、止めてくれる冒険者もちょうどいたし。
まあそんな冒険者は無視して砦だ、砦。
外側からだと第2の防壁に阻まれて中が見えなかったんだ。
第二の防壁は直径500メートルくらいで上の部分にところどころ隙間が空いている。非常時はそこから弓矢なり魔法なりで攻撃するのだろう。
中から見ると50メートル間隔くらいで階段が設置されている。ここが最終防衛ラインなので防壁を死守するために、すぐに人員を配置できるようになっているようだ。
砦の内部はほとんどが広場になっており、騎士や兵士の訓練場として使っているようだ。遠くの方で兵士が戦闘訓練をしている。刃を潰しているのだろうがかなり本気に見える。大丈夫なのかと心配になるが、回復魔法やポーションもあるのだから大丈夫なのかもしれない。
建物は石造りの2階建ての構造で、装飾などは全くなく質実剛健と言った感じだ。まさに砦と言ったところだろう。
非常時にはこの砦に避難するのであろうが、今の街の住人すべてを避難できるかと言われれば無理だな。広場も使えば第2防壁の中には入れるだろうが当初想定していたよりも住民が増えたのだろう。
砦の中に入り謁見の間へ案内される。謁見の間と言ってもさほど広くなく、4人ずつ3列になる。膝をつき頭を下げるように事前に言われているためその通りにする。
「冒険者たちよ、頭を上げてくれ。よく依頼をこなしてくれていることに感謝する。今後とも精進して欲しい。」
謁見の間の中央に立っていた騎士が言葉をかけてくる。歴戦の戦士にしか見えないがこの人物がこの辺境都市イーリスの領主、エルラド・イーリスらしい。
年は40くらいだろうか、金髪をなびかせ、肉体は筋肉隆々であり、鎧には戦闘による傷が残っている。礼儀よりも武力を優先しているような感じだ。
この都市に限っては上に立つものとして正しい人選なのかもしれない。
「ささやかながら食事の席を用意してある。希望者はそちらに参加してくれ。砦内を見学したい場合はあとでメイドに案内させるので申し出てくれ。」
そういって、エルラドは部屋から出て行った。普通はこちらが出て行くんじゃないかと思ったが、誰も指摘しないのでここではそれが普通なのだろう。
たぶん食事の席で貴族との縁を作るんだと思うがそんな希望は無いのでメイドさんに砦を案内してもらおう。
「珍しいですね。砦内の案内を希望されるのは私がここに来てから初めてです。」
見た目18歳くらいの女の子のメイドさんが、案内を希望した私を見てそう洩らした。
「そうなんですか、申し遅れました。この度、9級の冒険者になりましたタイチと言います。」
「いえ、こちらこそ失礼を。わたくしはスーと申します。それではご案内いたします、タイチ様。」
「あの、タイチ様はちょっと気が引けるのでやめていただきたいのですが。」
「申し訳ありませんが、主人のお客様に対して他の呼び方は出来かねます。」
「わかりました。案内をお願いします。」
スーさんについて砦内を案内してもらう。とはいっても居住地区などは案内されないので建物の1階と表の広場、後は第2防壁の上くらいだ。
建物内部も装飾などはほとんどなく戦いのための砦としての働きを最優先しているようだ。武器庫も案内してもらったが、4か所に点在しておりほとんどが剣か槍で他の装備は少なかった。
技術を教え込むために武器の種類を限定しているのかもしれないな。
広場に出て訓練風景を眺めながら歩いているのだが、ところどころに罠がある。
やはり対魔物用なのでただの広場ではなさそうだ。
ひっかかって無駄にしてもいけないので罠を回避しながら進んだ。
「あっ、スーさん。そこに罠がありますから右に避けた方がいいですよ。」
「そうなのですか、ありがとうございます。」
スーさんの進行方向に落とし穴があったので注意して避けてもらう。私も続いてしばらくして第2防壁の上へ登った。
隙間からしか見えないが、上から見るイーリスの街は碁盤目状になっており、整然としていてとても綺麗だった。人々が生き生きと生活しているさまが良く見えた。
しばらく見とれた後、砦の案内のお礼をスーさんに伝えて他のメンバーと合流し、とてもいい気分で屋敷へ帰った。
その夜、今まで全く上がらなかった「マップ」のLvが2になっていた。砦内をマッピングできたので、このイーリスの街のすべてのマッピングが終わったからかもしれない。どんなことが出来るかはまた調べてみよう。
―執務室にて―
「どうだ、他国のスパイだと思うか?」
「出身も不明、情報も無し、そして砦内の案内を頼むと状況から見ると黒に見えます。」
「では、お前は黒と判断するのか?」
「いえ、あからさまに怪しすぎます。スパイならもっとわかりにくくするでしょうし、罠についても引っかかるなりして油断を誘うでしょう。私の判断では限りなく白に近いグレイです。」
「わかった。お前の判断を信じよう。」
「一つ追加の情報ですが、彼を保護している者の名はアンです。」
「そうか・・・なら手は出すなよ。」
「出す必要もありません。それに私も命が惜しいですから。」
砦、いいですよね。城の跡などを巡っているとどこにあるのかわからないような場所もあります。
本当に一部分だけ残っていたりとかですね。それを見つけるのも楽しいですが。
読んでいただいてありがとうございます。




