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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第一章:イーリスの街にて
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バイシクル

 魔法を習得してから1か月、ついにワクコが切れた。


「あぁー、もうやってらんないわよ!!私はジテンシャを作りたいのであってお金儲けしたいんじゃないわよ!!」

「でもまだ注文が入ってきてるでしょ?」

「そうなのよ!!なんなの貴族って!!流行りのものを持っていないと馬鹿にされる風習でもあるわけ!?」


 まあ、そういう事なんだろうな。流行っている珍しいものを持っていないということがステータスに関わるのだろう。もしくは珍しいもの好きが多いのか。


「もう、我慢の限界よ!!私はもう作らないわ。これからは弟子に作らせるから私はジテンシャの研究するわよ。」

「あれっ、ワクコ弟子をとったの?」

「制作で人手が欲しかったから若いドワーフを雇ったのよ。工房に二人いるわよ。」


 それは知らなかったな。だいたい屋敷にワクコが来ていたから、工房には最初の1回しか行ってないしな。


「でも大丈夫なのか?貴族相手だと下手なものは出せないぞ。」

「大丈夫よ。技術は教え込んであるからあとはセンスを磨くだけよ。」


 ワクコ自身がこう言っているのだから大丈夫だろう。


「それで、前にタイチが言っていた滑車の連結部分の話よ。」

「あぁ、チェーンの話ね。」

「それよ!!結局どうするつもりなの。」

「そうだね、ベルトドライブにしてはどうかと考えているんだ。」

「なによ、そのベルトドライブって?」


 ワクコにベルトドライブについて説明していく。ベルトドライブとはチェーンの代わりに歯つきのベルトを使用する機構だ。日本では高校生などにおなじみのちょっと高めの自転車に使われている。

 メリットとしてはメンテナンスが楽なこと、雨ざらしに強いことが挙げられる。デメリットとしては変速機がつけづらいことやチェーンのように簡単に交換できないことが挙げられる。

 この世界の環境を考えた場合、メンテナンスが要らないというメリットが大きい。この世界には自転車屋などないのだから修理すること自体が難しいからだ。


「とりあえずそのベルトドライブにする理由はわかったわ。作り方とか材料にあてはあるの?」

「それなんだよなー。」


 ベルトドライブの場合、生半可な素材では力に耐えられずベルトが切れてしまう。日本の場合は鉄よりも強度のあるアラミド繊維などを使用して補強しているのでその恐れは少ないが。


「ワクコは鉄よりも強くて柔軟性はあるが伸縮性はない素材って何か思い当たる?あと劣化しないとより良い。」

「何よ、その夢の素材。鉄より強いかはわからないけれど魔物の皮なら可能性はあると思うわ。」


 そうか、この世界にはこの世界にしかない物質があるんだから該当するものがあるかもしれないのか。


「あとは急に力が加わったときに歯飛びすることを防ぐ装置が必要だな。」

「それは何となく思いついたから大丈夫。」


 本当にドワーフはすごいな。いや、ワクコがすごいのか。物づくりに関しては本当に素晴らしい才能を発揮するな。


「とりあえず打ち合わせはこんなものね。じゃあ、早速作ってくるわ。明日待ってなさいよ!!」


 言うが早いかワクコは屋敷から飛び出していった。いやいくら何でも一日で試作品を作ることなんてできないだろう。まあ、おいおい連絡してくるだろう。



「待たせたわね、出来たわよ。」


 翌日、ギルドの依頼を終え朝食を食べた後屋敷へ戻ると、ワクコが試作品を持って待っていた。いくら何でも早すぎないか?


「本当に今日持ってきたんだね。」

「昨日、言ったじゃない。私は出来もしないことを言ったりしないわよ!!まあ、本当は大体の部分は昨日の段階で出来ていたんだけどね。」

「びっくりしたー。夜通し作業したのかと思ったよ。」

「夜通し作業したわよ。」

「マジですか?」

「マジよ。ベルト部分の素材を検証したりとかやることはたくさんあったからね。一部の作っていた部分も作り直したし。」


 確かにちょっと目の下にクマが出来ているな。本当にドワーフは作ることが好きなんだな。いや、この場合はワクコか。


 あらためて試作品の自転車を見る。

 素材は鉄で、表面にはさび止めの加工がされている。

 変速機は最初はつけなくてもいいと以前相談していたので普通に一速しかないいわゆるシングルスピードというやつだ。

 私の自転車をもとにしているのでフレームはひし形構造をしており、チェーン部分はベルトドライブになっている。

 タイヤ部分はゴムではないようだが何を使っているんだ?


「乗ってみてもいい?」

「もちろん、そのための試作品よ。」


 乗る前に持ち上げてみる。やはりかなり重いな。鉄の棒で作っているからか。

 試作品にまたがり、ゆっくりとこぎ出す。やはりペダルがかなり重い。ギア比の関係もあるのだろうが、重量がネックになっていそうだ。

 左右、ブレーキ、ダンシングといろいろな動作をしていく。操作性はそこまで悪くない。お尻を突き上げる振動についても座る部分が柔らかくなっているので多少は軽減されているようだ。ホビーホースの教訓だな。

 次に思いっきりペダルをこいでみる。踏んだ瞬間、若干の柔らかさを感じ、とくにベルトの滑りが起こることもなく加速が始まった。


「かなりいい試作品だね。」

「そりゃあね。何のために毎日ここに来ていたと思ってるのよ。」

「・・・お茶と、愚痴のため?」

「そうだけど!!それもあるけれど!!ちゃんとジテンシャの研究はしていたのよ!!」


 ワクコが顔を真っ赤にして怒っている。やっぱり自分でも自覚があったみたいだ。

 試乗を終え、ワクコと改良点について相談していく。


「うーん、一番のネックは重さだね。かなり重いから漕ぐのをやめるとすぐ止まるし疲れる。これなら歩いた方がいいっていう人も多いんじゃないかな。」

「でも、本体部分の鉄を細くしたりすると強度が弱まるじゃない。」

「そうだね。ところでワクコって吹き矢って作ったことある?」

「鉄製のはあまりないけど何回かはね。ほとんどは木製よ。」

「その吹き矢みたいに中を空洞にすれば重さは軽減できると思う。どれだけの厚さにするかは検証が必要だね。」

「そうね、試してみるわ。」


 自転車自体、地球では鉄砲を作っていた会社が作ってきたという歴史があるからな。中を空洞にする技術が応用できればより軽く、丈夫なものが出来るはずだ。


「次にフレームというか、本体部分の構造だけど、今はひし形になっているけれどこれは変えた方がいいと思う。」

「何でよ、三角形が二つできるひし形なら構造の強度としてはかなりのものになるはずよ。」

「確かに強度は上がるんだけど。ワクコ、スカートの女性が乗ることを考えてみてよ。」

「確かに、まずいわね。」


 やはりワクコは作ることに関しては理解が早い。ひし形フレームは強度が強い利点があるがどうしても足を高く上げなくてはまたぐことが出来ないという欠点がある。スカートでまたがろうとすれば、秘密の場所が見えてしまう可能性があるのだ。


「仕方がないわね、前の方の三角形をへこませて、支柱付近で上にくっつくようにカーブさせるわ。」

「そうだね、一般に普及したいならその必要があると思う。」


 あと気になるのは振動対策か。


「最後は振動の対策だな。」

「一応、ホビーホースの教訓は生かしたわよ。」

「そうだけれど、自転車は長時間乗ることもあるから振動を軽減することはかなり大切なんだ。」

「なにか案はあるの?」

「一応、このルージュにはついていないけれど、コイルばねとダンパーを使えば出来ると思う。」

「何よそれ。」

「コイルばねは棒をらせん状に変形させた金属だよ。元の形に戻ろうとするから衝撃を吸収する。ダンパーはそれを可能にするための部品ってところかな。」

「うーん、いまいちイメージが沸かないわ。」

「それじゃあ、ちょっと待って。」


 コイルばねとダンパーを想像し、土魔法を発動する。


「ええっと、こんな感じでばねと組み合わせるんだ。」

「・・・」

「あれっ、ワクコー、ワクコーリアルさん。おーい、聞こえてる?」

「はっ、あんたそれ何よ?」

「えっ、ただの土魔法。」

「そんな魔法見たことないわよ!!もしかして何でも作れるの?とりあえず構造はわかったわ。ありがとう。」


 ああ、なんか混乱してるな。


「なんでもじゃなくて、あくまで自分が想像できる範囲だから。わからないものは作れないよ。」

「まあ、いいわ。この屋敷の変さはこの数か月でよくわかってるし。とりあえず明日改良した試作品持ってくるからね!!」

「ちゃんと寝なよー。」


 私の忠告もほとんど聞かない感じで試作品とともに去っていった。この勢いなら1か月以内にはある程度の完成品を作れそうな感じだな。

 ワクコがどこまで修正してくるのか明日から楽しみにしよう。


 3週間後、何度かワクコが寝不足で倒れたりしながらもこの世界初の自転車は完成した。商品名はバイシクル。二つの回転部分を表す元の世界の英語だ。

 ワクコはやり切ったとても満足そうな笑顔をしていた。

本当はもっと細かく何話かに分けようかとも思ったのですが、専門用語が出過ぎて読みづらくなりそうなのでカットしました。

また機会があれば紹介できればなと思っています。

読んでいただきありがとうございました。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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