ミアさんの情報
翌日、3,4階層の探索をさらっと終えてギルドへ戻ってきた。今日は昨日のように入口で待たされるようなこともなく、露天商も出ていなかった。入る周期が決まっているのか?
現在の時刻は午後3時。中途半端な時間なのであまり冒険者は多くない。わざわざ5階層へ行かずこんな時間に戻ってきたのはミアさんに事情を聞くためだ。朝にギルドに寄ってこのくらいの時間なら大丈夫だと確認はしてある。
「ただいまニャ。ミアおばさん。」
「おかえり、ヒナ。」
「お時間を取らせてしまってすみません。」
窓口にいたミアさんに声をかける。やはりメルリスのギルドといえばミアさんだ。なんというか安心感がある。
「いいんだよ。それよりも悪いね。朝もヒナの代わりに来てくれたんだろ。」
「いえ、朝早くヒナを起こす苦労に比べればなんてことはないです。」
「ひどい言いようニャ。」
一緒に寝るようになる前からうすうす気づいていたが、ヒナは朝が弱い。起きるのだが半覚醒状態が長いという感じだ。そのため無理やり起こそうとするとその場で着替えようとしたりするのでこちらとしては心臓に悪い。いつか悪い狼に襲われるぞ。
「ははっ、仲がいいねえ。とりあえず部屋をとってあるからついておいで。」
ミアさんについていき以前モンスターハウスの罠にかかった冒険者達の報告をした部屋へと入る。そこまで昔というわけではないんだが懐かしいな。濃い日々を過ごしているからかな。
「それで、何が聞きたいんだい?」
「あっ、その前にこれお土産です。」
アイテムボックスからテンタクルで仕入れた鰹節と猫人族の里で仕入れたマタタビ酒を渡す。
「ああ、ありがとうね。私のとっておきは前にヒナに飲まれたから欲しかったんだよ。」
「何してるの、ヒナ。」
「違うニャ。ちゃんとしたギブアンドテイクの関係ニャ。」
私がじろっと見ると、ヒナは慌てて首を横にプルプル振った。事情を聞いてみると毒に侵されたメリルを助けるために初級迷宮の19階層にあるギルドの宿に行く依頼を受ける代わりにミアさん秘蔵のマタタビ酒を要求していたらしい。
そんなこと言っていたかな?あっ、なんかとっておきがどうのこうの言っていたような気もするな。メリルの治療ですっかり忘れていたが。
「今回聞きたいのは私たちが旅立ってから何か変わったことがなかったかということです。」
「まあ、具体的に言うと昨日中級迷宮で変な冒険者集団に会ったニャ。」
「ああ、あれかい。」
ミアさんの顔がちょっと厳しくなる。
「そうだねえ、事の始まりはあんた達が旅立ってから10日後くらいかね。初級迷宮をクリアする冒険者が増えたんだよ。それも今までの実績からすると良くて20階層止まりだった冒険者達がね。」
「それは前からいる冒険者だけでしたか?」
「いや、どうもよその街から来た4級の冒険者達が先導したようなんだよ。ギルドとしては実力に見合わない者に中級迷宮に入って欲しくは無いんだが踏破の証明の指輪を持っていたからね。拒否するわけにもいかなくてね。」
やはりそうか。初級迷宮を踏破する手助けをすることと報酬を約束することで捜索に協力させているようだ。中級迷宮も低階層なら魔物は強くない。その割に採取できる素材も多いし、人も少ないから競合もしない。稼ぐにはもってこいなのだ。
「あとそいつらとは別だが2組のテンタクルから来た5級冒険者パーティが中級迷宮に潜っているね。その子らはもう初級迷宮は踏破していたからすぐに中級に入り始めたんだけど短い期間に同じ街から5級以上のパーティが来るなんて珍しいからね、気にはなっているよ。」
「そうかニャ。」
「まあ最後はあんた達が戻ってきたってことだね。中級迷宮に何かあるんだね。」
まあ状況が不自然すぎるしその結論に至るのは普通だよな。ミアさんはとても有能だし。
「そうですね。私たちも多分その冒険者たちも同じ依頼を受けているはずです。まあミアさんが調べればすぐにわかると思いますが。依頼内容は契約上話せません。」
「中級迷宮に何かあるってことは確定かい。他の子達に被害は及ばないだろうね。」
ミアさんの目が真剣みを帯びる。ミアさんにとってこの街で成長してきた冒険者は子供のようなものなのかも知れない。
「おそらく無いとしか言えません。少なくとも私たちにそのつもりはないですが、他の関係者がどう考えるかはわかりません。」
「そうかい。」
そう言ったきりミアさんが考え込む。数分の沈黙の後再び話し始めた。
「前みたいに魔物が急激に増えるとかではないんだね。」
「はい。」
「じゃあ仕方がないね。冒険者同士のいざこざにギルドは介入しないからね。」
「まあそういうことニャ。」
ここで下手にギルドに動かれてもまずいことになりそうだしな。下手なことをすればそれこそ1年前くらいの事件が再現されるかも知れない。どうやって起こしたのかはいまだにわかっていないのだから。
「あともう1つ。迷宮の入口でギルド証のチェックをしているんですがあれは入った人と出た人の管理をしているんですか?」
「まあ、ある意味管理といえば管理なんだが。あくまであれは盗賊などの犯罪者を迷宮に入れないためのチェックであって誰が入っているかなんて管理はしていないよ。迷宮には大勢の冒険者が入るんだ。いちいちチェックなんてしていられないからね。」
「そうですか。いろいろ教えてもらってありがとうございました。」
「ミアおばさん。ありがとうニャ。」
「別にいいよ。あんた達も気をつけなよ。」
ミアさんにお礼を言いギルドを出る。私たちのいなかった2ヶ月の間にだいぶ変化があったようだ。それも悪い方向に。
報酬が出るのは発見した1組だけだ。ということはもし見つけた場合、奪い取ろうとその冒険者たちが襲ってくることも想定しなくてはいけない。4級と5級、つまりヒナと同等の戦闘能力がある冒険者たちだ。経験も十分だろう。本当に厄介だ。
「とりあえずは接触しない方向で行って、どうしてもその必要が出たら普通に迷宮を探索している冒険者を装うしかないね。」
「まあ、それが無難だニャ。」
(危なそうだしね。)
宿までの露天で焼串を買ってほおばりながら進む。もちろん後で食べるルージュの分もアイテムボックスに収納済みだ。2か月前と同じ露天の同じ店主が作ったものだ。噛むと中から肉汁がジュワッと出てきてとても美味しい。塩だけしか味付けがしていないはずなんだがやはり焼き加減で変わるんだろう。
通りは2か月前と変わっていないように見える。だが中級迷宮には暗雲が立ち込めて来ているようだ。そしてその暗雲は時間とともに濃くなっていく。
「早く見つけないと。」
「そうだニャ。」
私のつぶやきにヒナが返した。
屋台で串焼きを見ると食べてみたくなります。
そういえば昔に比べて屋台の種類も豊富になってきましたよね。ケバブとかありますし。
読んでくださってありがとうございます。
冬の童話祭に参加しました。「冬の女王と旅人の話」です。
全く方向性は違いますが良ければ見て下さい。




