メルリスへの帰還
というわけで帰ってきましたメルリスの街。予想以上に早い再訪問でした。問題が解決して暇になったら戻ってきてもいいかなと思っていたんだが。とりあえずまずは永遠の木陰亭に顔を出そう。
「タイチ、先に食事にして欲しいニャ。」
「やだ。」
(・・・。)
さあ、さっそく宿に行こう。たった3日間、一般人と同じくらいの食事量に制限しただけだ。普段ヒナたちが食べる量の半分くらいだが別に少なすぎるわけではない。あんまりやりすぎると後が怖いしな。
通い慣れた道を歩き永遠の木陰亭を目指す。ギルドへの報告は明日でもいいだろう。普通の冒険者よりは倍以上早いんだし。
見慣れた木の下の猫の看板の宿の扉を開ける。カランカランうドアベルが鳴り、奥からパタパタと言う足音が聞こえてくる。
「いらっしゃいなのですよ。」
奥からモカちゃんが走ってくる。2ヶ月くらいのはずなのだがちょっと大きくなったような気がする。成長期ってやつか。
「モカ~、ただいまニャ。助けて欲しいニャ~。」
「おかえりなのですよ、ヒナお姉ちゃん!!」
ヒナがモカちゃんに駆け寄りすがりつく。突然のことにちょっと驚いたみたいだがモカちゃんも嬉しそうだ。
「タイチさんもおかえりなのですよ。」
「はい、ただいま。モカちゃん。部屋は空いているかな?」
「今空いているのはタイチさんが前に泊まっていた部屋だけなのですよ。」
「じゃあ宿泊をお願いね。とりあえず1ヶ月で。」
「わかったのですよ。」
「さらっと流さないで欲しいニャ!」
ヒナはモカちゃんにすがりついたままだ。汚されちゃったって感じでモカちゃんを見つめているがモカちゃんも慣れたもので宿泊の手続きを普通にしてくれた。
「モカは変わってしまったニャ。」
大げさに頭を振り嘆くヒナ。どこの舞台女優だ!
「どうせヒナお姉ちゃんがなにかしてタイチさんがお仕置きしたんじゃないのです?」
「正解。」
「違うニャ。よしんばそうであったとしても食事を人質に取るのはやりすぎニャ。」
人質なのか?まあヒナに一番効果のあるお仕置きは食事関係だからな。好きなものを作らないとか。モカちゃんはちょっとため息をつくとヒナを見つめる。
「ダメなのですよ。ヒナお姉ちゃん。恋人でもやっていいことと悪いことがあるのですよ。」
「いや、恋人じゃないけどね。」
「隠さなくてもいいのですよ。ノノちゃんも言っていたのですよ。」
「後でノノにちょっとお仕置きするニャ。」
ヒナと目と目で通じ合う。まだこの宿にいるようだし盛大に絡んでやろう。
「まあそれはそれとして。」
「そうだニャ。」
「「これからまたよろしく」ニャ。」
「はい、永遠の木陰亭にようこそなのですよ。」
私たちは懐かしいそして優しい笑顔で迎えられたのだった。
まあいい加減、罰も十分だと思うしちょうど時間も正午過ぎなので久しぶりにマタリさんの昼食を食べられないか聞いてみたところ朝の残りもあるから大丈夫とのことだったので頂くことにした。もちろんお金は払っています。
マタリさんは温かく私たちを歓迎してくれ、その料理は相変わらず美味しかった。ヒナが3回もおかわりしていたのでなんとなくやりすぎたかなと思わないでもなかった。
「ふぅ、満足ニャ。」
「うん、相変わらずマタリさんの食事は美味しいね。」
「ありがとうございます。」
「お父さんの料理はこの街で一番なのですよ。」
他にお客さんもいないし、どうせなので一緒にご飯を食べることにしたのだが私が彫刻したフォークとスプーンが使われていてちょっと嬉しかった。
「そういえばお土産があるニャ。」
「そうだったね。」
アイテムボックスから凍らせた大量の魚とサンゴのブローチを取り出す。
「テンタクルに行って新鮮な魚が仕入れられましたのでマタリさんに。食事にでも使ってください。で、こっちのブローチはモカちゃんに。」
「うわぁ、ありがとうなのですよ!!」
モカちゃんが嬉しそうにブローチを持ってくるくると踊りだす。うん、買ってきて良かった。まあ選んだのはヒナだが。
「ありがとうございます。今夜は腕によりをかけて作らせてもらいます。」
今から夕食が楽しみだ。美味しく食べるためにちょっと運動でもしてこようかな。まあしなくても美味しいから別にいいか。
「そういえばヒナお姉ちゃん達はどうして戻ったのです?」
ブローチをさっそくつけたモカちゃんが首を傾げながら聞いてくる。モカちゃんの黒髪とサンゴの薄いピンク色がマッチしていていい感じだ。さすがヒナ。
「ああ、それはニャ・・・」
「ただいまー。」
「あっ、あの声はノノちゃんなのですよ。」
言うが早いかモカちゃんは玄関の方へ走っていってしまった。なんとなくらしいなと思ってしまう。マタリさんも苦笑している。
「すまないね、ヒナさん、タイチさん。あの子も最近はちょっと落ち着いてきたんだけどノノちゃんは特別らしくてね。」
「別にいいニャ。」
「まあ、いつも通り元気で安心しました。」
そんなことを3人で話しているとモカちゃんがノノを引っ張ってきた。
「どうしたのよ。私は久しぶりに自室でゆっくりしたいんだけど。」
「いいから来るのですよ。」
「だから理由を・・・。あれっ、タイチにヒナじゃない。テンタクルに行ったんじゃないの?」
ノノの装備が変わっている。使い込まれているようだし迷宮を探索し続けているんだな。
「ああ、ちょっと中級迷宮を探索しようと思って帰ってきた。」
「また急ね。」
「まあそういうこともあるニャ。」
ノノが椅子に腰を下ろし、モカちゃんがお茶を用意してあげている。仲が良さそうで何よりだ。
「ノノも迷宮の探索頑張っているみたいだね。」
「そうね。パーティも組んだし今は13階層を探索中よ。Lvもだいぶ上がったし。そういえば地図ありがとうね。とても役に立っているわ。」
「それは何より。」
ノノの見た目と性格だとパーティを組むのがちょっと難しいかなと思って心配だったのだが、そんな心配は無用だったようだ。パーティのことを話すノノが楽しそうなので信頼できる仲間なのだろう。
「地図はあるけれど頼り過ぎないようにね。一時的な罠もあるし。」
「そこはわかっているわ。」
それなら後は言うことは無い。実力以上のところに行っている様子もないしこのまま堅実に進んでいって欲しいものだ。
「あっそうだ。ノノにもこれをあげよう。」
アイテムボックスからサンゴのブローチを取り出す。モカちゃんと違いこちらは真っ白のものだ。エルフは森に住んでいるらしいし珍しいだろう。
「・・・ありがとう。」
「良かったのですよ。私とお揃いなのですよ。」
ノノはしばらくブローチを見つめた後、ちょっと恥ずかしそうにお礼を言ってくれた。その横でモカちゃんが嬉しそうにブローチを見せている。このコンビは可愛いな。
このサンゴのブローチはペアだったものだ。これはっと思うものがこのブローチしかなかったので片方はどうしようか迷い中だったのだ。主に恋人同士でつけるものらしいが友人でも大丈夫と店主が言っていたので構わないはずだ。このブローチを売っていた店主の私を見るニヤニヤ顔を思い出しちょっとブルーになる。頑張れよ、兄ちゃんって何だよ。
その後予備のベッドを運ぶモカちゃんを手伝ったりしながら夕食までの時間を潰した。夕食はマタリさんが宣言したとおりとても美味しい魚料理が並んだ。私はキノコとのバターソテーが一番好きだった。しかし食事が出来ないルージュがちょっと機嫌が悪くなってしまったので埋め合わせを考えないといけないな。
なんとなく章名詐欺になりそうな予感。
迷宮はさくさく進む予定です、たぶん。
読んでくださってありがとうございます。




