ヒナの決意
森の道のならしは木を倒した翌日1日かけて、ルージュに乗りながら何度も往復しながら土魔法を使って終了した。即席ではあるが馬車なども十分に通れる強度もあり、凹凸のない道になったと自負している。
その翌日からはヒナと一緒に迷宮を探索することになった。とりあえずは10階層までの地図を作成して今後の探索による危険を減らすためだ。
1階層から9階層までは洞窟型のマップで、出てくる魔物もフォレストウルフにミルオウル、グリーンラビットなどのそこまで強くない魔物だったので苦も無く3日で9階層まで到達した。途中で宝箱を2つ見つけたが両方ともマナポーションだったときは笑った。まあ使えない道具が出るよりはよっぽどいい。
「じゃあ行こうか、ヒナ、ルージュ。」
「りょーかーい。」
「わかったニャ。」
ルージュは人化しての初実戦だ。装備は本当はレオノールのしっぽ部分を使って作るつもりだったのだがとても加工できないと言われてしまったので里で売っていた中で一番いい装備を買った。ワニのような魔物の皮で作った軽装備に魔法布で作られたローブを着けている。手に持っているのは隠し部屋の杖だ。この杖を使うと魔法が使いやすいらしい。
見たことのあるような素晴らしい彫刻の入った扉に手を触れる。彫刻の内容は大きなオオカミとその群れと戦う人の姿だったのでたぶんそういうことだろう。扉がゴゴゴゴっという音と共に開いていく。
「アオオオーン!!」
「「「アオオオーン!!」」」
崖の上に立つひときわ大きなオオカミが遠吠えをあげ、それに共鳴するかのように下にいるフォレストウルフが声をあげる。盛り上がっているところ悪いけど隙だらけだよね。
ダートを崖の上のオオカミに向かって全力で投擲する。シュンと言う音と共に飛んでいったダートはそのオオカミの口を下から貫きそのまま脳を破壊した。
ドサッ。
おそらくリーダーだったオオカミが倒れる。先ほどまで騒いでいたフォレストウルフたちがピタッと静かになり、呆然とした表情でこちらを見ている。
「あーあ。」
「ずるいニャ。タイチ。」
「いや、だってあれだけ隙だらけなら攻撃するでしょ。」
「じゃあもうタイチは休んでいるといいニャ。」
「そうそう、あとは僕たちが倒すよ。」
「了解。」
その後はまさしく蹂躙と言う言葉でしか表現が出来ない状況だった。ヒナが首をはね、ルージュが土魔法で貫き、逃げようとするフォレストウルフさえついでに倒していく。私はヒナたちが倒したフォレストウルフたちを回収する役目だ。数分後、動いているのは私たちしかいなくなった。
「歯ごたえが無いニャ。」
「そうだねー。」
「まあ強さ的には初級迷宮の11階層くらいとあんまり変わりないしな。」
11階層に降りたがそこも洞窟型だった。付近に魔物はおらず面倒だったので調査はしないことにして帰った。レオノールに魔石を取った後の肉をあげたら喉を鳴らして喜んでいた。そういえばレオノールとの意思疎通方法としては大きな文字盤を木で作ってそれを使って話すことにした。レオノールは文字も読めるのでとても頭がいい。
「じゃあねー、レオノール。」
「ばいばーい、ルージュ。」
いつの間にかルージュとレオノールは仲良くなっていた。いつも一緒にいたはずなのにいつ仲良くなったんだろう。不思議だ。
猫人族の里でやるべきことも終わり、そろそろ旅に出ようかと考えている。そうするとヒナとの旅も終わりになる。寂しいがそれも仕方がないことだ。生きていればまた会うこともあるだろう。
なんとなく今後のことをぼんやりと考えながら縁側に座っていると誰かが歩いてくる音がする。この足音は、
「ヒナかな?」
「正解ニャ。」
浴衣姿でリラックスしているヒナがいた。こちらに近寄ってくると私の隣にスッと座る。
「タイチはもうすぐ旅立つのかニャ?」
「うーんそうだね。ここも十分に観光したしそろそろ行こうかなって考えてる。」
「そうかニャ。」
ヒナが月を見上げる。つられて見上げると上弦の月に朧雲がかかってまるで1枚の絵のように美しい。
「ユーリ・トンプソン。」
「えっ?」
「失踪した貴族の名前ニャ。」
突然の発言にヒナを見る。ヒナは空を見上げたまま言葉を続ける。
「トンプソン伯爵家の長男で次期伯爵だった男ニャ。現在22歳。メルリスの初級迷宮にて1年ほど前に失踪。以後行方知れず。トンプソン伯爵家は港湾都市テンタクルに居住。現在ギルドにユーリを捜索する依頼は出ていない、こんなところニャ。」
「・・・。」
それは欲しかった情報。しかしそれと同時に危険を呼ぶ情報。
「私もただ部屋で手紙を書いたりゴロゴロしていただけじゃないニャ。」
「・・・。」
答えられない。ここで答えてしまえばヒナはどうするかわかってしまうから。ただひたすらにその月だけを見つめるヒナを見る。綺麗だと場違いながら思った。
「何かしゃべったらどうニャ?」
「・・・情報感謝する。でもヒナはこれ以上深入りしないほうが良い。」
これは厄介ごとだ。それもとてつもないものだ。ヒナがかかわるメリットなど1つもない。
「タイチ」
ヒナがこちらを向く。その瞳に吸い込まれそうだとなぜか思った。
「私も行くニャ。」
「でも、これ以上関わったらもう抜け出せないかもしれない。ヒナにメリットなんてないんだよ。」
ヒナはまっすぐにこちらを見て目を外さない。
「わかっているニャ。でもタイチの助けたい人は私の恩人でもあるニャ。そしてタイチも私の恩人ニャ。今ここで引いてしまったら私は一生後悔するニャ。そんな人生を送るなんて嫌ニャ。」
「そっか。」
ヒナの目が潤んでいる。今にも泣いてしまいそうだ。なぜこんなにも優しいんだろう。なぜこんなにも不器用なんだろう。なぜ、こんなにも・・・。
「わかったよ。ヒナにはすべてを話す。」
長いお話をしよう。私のアイテムボックスと言う秘密を含めたこれまでの話を。
翌日から数日かけて旅の準備を行い、ヒナと旅に出ることにした。出発当日コザがやってきてまた面倒なことになるかと思ったが「これを持っていくのね。」と食料や各種回復薬の入った袋を渡された。
「これは餞別なのだね。ヒナを大切にして欲しいんだね。」
そう言って去っていった。もっとどうしようもない奴かと思っていたが、ヒナに対する思いだけは嘘ではなかったのかもしれない。
ラージュさんやミーシャさん、レー君や子供たちに見送られて里を出る。結局ヒナの弟君には会うことが出来なかった。また今度来た時にでも会えると期待しよう。
「じゃあ、行こうか。」
(りょーかーい。)
「そうだニャ。」
ヒナを荷台に乗せ走り始める。さあ、次の目的地は港湾都市テンタクル。一度メルリスへ寄ってそれから西を目指す旅路だ。
~ステータス~
名前:タイチ
年齢:16
職業:冒険者
称号:アンの後継者
Lv:39
HP:2328/2328 MP:2691/2696
攻撃力:1484 防御力:1455
魔力:1780 賢さ:1754
素早さ:1691 器用さ:1919
運:205
―スキル―
「アイテムボックス Lv6」「マップ Lv4」「知識 Lv3」「投擲 Lv8」「開錠 Lv7」「罠察知 Lv7」「罠作成 Lv4」「罠解除 Lv5」「魔力操作 Lv6」「杖術 Lv6」「気配察知 Lv5」「採取 Lv6」「毒耐性 Lv4」「睡眠耐性 Lv4」「麻痺耐性 Lv4」「混乱耐性 Lv4」「魅了耐性 Lv4」「石化耐性 Lv3」「恐怖耐性 Lv5」「調薬 Lv3」
―装備―
主武器:ワクコのダート 副武器:アンの杖
頭部:なし 外着:冒険者の服
腕部:謎の腕当て 胴体:謎の胸当て
腰部:謎の帯 足部:謎のすね当て
靴:謎のブーツ その他:謎のゴーグル
ルージュ Lv10
称号:赤竜の友
耐久 380/380 DP:8635/28135
「土魔法 Lv6」「念話 Lv4」「変形」「光魔法 Lv3」「火魔法 Lv1」「分離」
―装備―
主武器:謎の錫杖 副武器:フェザー
頭部:なし 外着:緑魔布のマント
腕部:ドスクロコの腕当て 胴体:ドスクロコの胸当て
腰部:ドスクロコの帯 足部:ドスクロコのすね当て
靴:ドスクロコのブーツ その他:なし
これで猫人族の里編も終了です。
あと閑話を3から4話はさんで新章に入ります。
読んでくださってありがとうございます。




