夜の習慣と初依頼
皆様のお陰で500アクセス達成出来ました。
本日2本目なので前話を読んでいない人は注意してください。
歓迎会を楽しんだ後、片づけをしようとしたがアンさんに止められてしまった。体調不良で皿でも割られたら困ると笑っていた。もちろんそれが本心でないことはみんながわかっていた。やはりアンさんは素晴らしい人だ。
また、クローゼットに入っている服は自由に使ってよいとのことだった。私の今着ているサイクルジャージは独特なので冒険者をするなら冒険者らしい格好の方が良いらしい。
食堂を出て、着替えを持ってお風呂場へ向かう。この世界ではそこまで普及していないが、この屋敷にはお風呂があるらしい。もっとも、お風呂に入ることは少なく濡れた布で体を拭いたり、水浴びをする場所となっているそうだ。
瓶から水を桶にうつし濡らした布で体を拭いていく。とても気持ちがいいが、やはりお風呂に入りたいな。今度アンさんに相談してみよう。
さっぱりして部屋に戻り、すぐにベッドに飛び込んで眠りたいところだが情報の整理と明日の予定の確認を行う。社会人になってから始めた習慣だが、これをすることでかなり仕事の効率が上がった。
<状況>
・ジンさん達に保護される *命の恩人
・ジンさんに借金 銀貨5枚と大銅貨1枚
・冒険者になる
・使用人になる
ほぼ、ジンさん達関係だな。恩をどうやって返していくか考えなくては。
<アイテムボックスについて>
・手に触れることで収納可能
・中に何か入っていても収納可能 *クローゼットとか
・収納した物の重さは感じない
そういえば収納した時は気がつかなかったがクローゼットの中に物が入っていても収納できたよな。気になったのでクローゼットから一枚服を取り出し、クローゼットの上に置いた状態でクローゼットを収納してみる。
クローゼットは収納されたが、服は収納されずにボスッと床に落ちた。
接触していることではなく中に入っていることが一緒に収納できる条件のようだ。
明日、倉庫を片付けるときに役に立ちそうだ。
<マップについて>
・半径300メートル程度を認識可能
・地域名が表示できる
・魔物は赤い点で表示 *選択すると種族名が分かる
・人間は白い点で表示
マップについてはこんな感じか。魔物が表示される機能があったおかげで助かったようなものだしな。旅にはとても有効そうだ。
あとはフォレストウルフ以外の魔物も表示されるのかは要検証だな。
まあ、知識についてはヘルプ機能的なものだから今回のまとめはいいか。
<今後の予定>
・明日、朝5時にギルドにて依頼を受ける予定
・アンさんに修行してもらう
・倉庫掃除の続きをする
・お風呂についてアンさんに相談する
とりあえずこんなところかな。忘れていることもあるだろうから思い出した時に整理しておこう。
もう、限界だ。ベッドに倒れこむように横になるとすぐに深い眠りに落ちた。
まだ日が昇っていないが目が覚めた。電気がないため部屋の中は暗いが、ぼんやりと見える。腕時計を見ると時刻は4時10分。昨日ギルドにあった時計と合わせておいたので合っているはずだ。
腕時計は珍しいもののようなのでアイテムボックスに収納しておき、着替えて食堂へ行く。私の席にパンとジャムが用意してあり、「食べていきなさい。」と一言メモが置いてあった。アンさんに感謝しながら朝食を食べ、仕事に向かうことにした。
ギルドに着くとさすがにこの時間には冒険者はおらず、窓口に3人の男性職員がいるだけであった。
「おはようございます。昨日キナさんにこの時間に来ると仕事があると教えてもらったのですが?」
「あぁ、君が引き継ぎに書いてあった新人君だね、助かるよ。」
眼鏡をかけた細身でちょっと気弱そうな男性が喜びの表情を浮かべる。
「仕事内容は聞いているかい?」
「いえ、マジックバックを持っているならできる仕事としか。」
「そうなのかい。簡単に言うとギルドで買い取りした肉とかの素材を食堂や宿に配達する仕事なんだ。」
詳しく聞いてみると魔物の中には肉などがおいしいものもおり、冒険者から買い取ったそれらを食堂や宿に売却することでギルドの利益にしているらしい。
ただし、時間帯が朝早いことやマジックバックを持っているような中堅以上の冒険者はそんな依頼を受けないため人気がない。
受ける人がいない場合はギルドの職員が配達することになるので、最近はずっと配達していたそうだ。
「この仕事の基本報酬は大銅貨5枚だね。」
「基本報酬?他にも報酬があるんですか?」
「そうだね。基本的には注文された素材を配達するだけだが、他の素材を持って行ってそれを余分に売ることができたらその分報酬が上乗せされるんだ。まあ、滅多にないけれどね。」
一通り説明を受け、倉庫に行き配達するものと配達する場所のリストをもらう。リストと見合わせながら素材をマジックバックに見せかけながらアイテムボックスに収納していく。配達箇所は12か所。素材はほとんどが魔物の肉だった。
それぞれの店の簡単な地図をもらい、相棒のルージュにまたがり出発する。もらった地図と「マップ」があれば道に迷うことはないだろう。
暗闇の中、ライトをつけ心臓に負荷をかけない程度にゆっくり走る。毎朝の習慣だったLSDTだ。ロング・スロウ・ディスタンス・トレーニングの略で心肺機能の向上を目的としたトレーニングだ。
負荷が少ないため筋肉をあまりつけずに運動することができ、ダイエットにも向いている。というか自転車でダイエットして痩せないって言っている人は大概トレーニング方法が間違っていると思う。
しばらく走り、昨日通った南門近くの宿に着いた。
「おはようございます。冒険者ギルドからの依頼で肉を届けに来ました。」
「おう、ありがとよ。今日はいつもの兄ちゃんじゃないんだな。」
「はい、これからは私が配達することになると思います。これからよろしくお願いいたします。」
「わかったぜ。ここは宿屋だが一階の食堂はだれでも利用できるから今度食べに来てくれや。」
「はい、ぜひ寄らせていただきます。」
「あっ、あと、いつもの兄ちゃんにもっと飯食えって伝えといてくれ。」
「ははっ、了解です。」
実は冒険者じゃないのかっていうくらい筋肉むきむきの宿の男性とそんなやり取りをしながら受領証にサインをもらう。お金は月に1回まとめて支払うシステムなのでこの場でお金を預かる必要は無い。
その後、ルージュに乗って走り回り、1時間半ほどですべての店を回りきった。訪問したもののまだ開いていない店やもっと早く来てほしいという店もあったので、明日以降はルートを見直す必要がありそうだ。
走っていると少しずつ赤く、明るくなっていく街並み、そして防壁から少しずつ太陽が昇っていく光景に心を奪われた。そして、あぁ、異世界に来たんだなと改めて実感した。
太陽が昇ると朝の早い人々が起きだして、朝食の準備をする音が聞こえる。いろいろな匂いを楽しみながらギルドへの道を進んだ。
ギルドに到着し、中に入ると数人の冒険者が掲示板を見たり、朝食を食べていた。
受付に先ほどの職員がまだ残っていたので報告に向かう。
「配達終了しました。受取証はこちらです。」
「お帰りなさい。思ったよりも早かったね。注文外の素材は売れたかい?」
「いえ、売れませんでした。」
「それじゃあ、持って行った素材を倉庫に返せば依頼は終了だね。」
「はい、それでは返してきますね。」
倉庫にいた職員に持って行った素材と持って帰ってきた素材に差がないか確認してもらい受付に戻る。
「はい、報酬の大銅貨5枚だ。どうだい、明日からもやってくれるかい?」
「ぜひお願いします。」
「良かったよ。これからよろしくお願いするよ、タイチ君。」
「はい。あっ、南門の宿屋の男性がもっとご飯を食べろって言っていましたよ。」
「ははっ、親父さんだね。わかった。また食べに行くとしよう。」
報告を終え足早にギルドから出る。もう少し時間がたつと掲示板に新しい依頼書が貼り出されるためギルドが冒険者でいっぱいになるらしい。
依頼を受けるつもりがないなら早めに出た方がいいよと親切に助言してくれたのだ。
これがこの世界で仕事をして初めて稼いだお金だよな、と大銅貨を握りしめ感慨にふけっていると出勤途中のキナさんが歩いてきた。
「おはようニャ、タイチ。」
「おはようございます。キナさん。」
「配達の依頼受けたのかニャ?」
「はい、すごく私向きの依頼でした。紹介していただいてありがとうございます。」
「別にいいニャ。冒険者に合う仕事を見つくろうのもギルド職員の使命ニャ。」
「それでも、ありがとうございます。お仕事がんばってください。」
「照れるニャ。タイチも充実した1日を過ごすといいニャ。」
ちょっと顔を赤くしたキナさんが、機嫌よさげに尻尾をふりふりしながらギルドへ入っていく。
さあ、私もキナさんに言われたように充実した1日にするため行動を開始しよう。
読んでくださってありがとうございます。
これからも頑張っていきます。
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