どっちに行く?
「まぁ、青春とはそういうものだし…」
なすびが田丸先生に失恋の辛さを訴えていた。
「新しい人を見つけたらどうだ」
田丸先生なりの精一杯のアドバイスだったが、なすびはショックを受けた。
「いいんだ、もう…三次元の彼女なんて…俺にはレミリアちゃんがいるから…」
しくしくと悲しみに暮れるなすびを田丸先生はなんとか慰めてやりたくてこんなことを言った。
「じゃ、気分変えて射撃部に来ないか。もしかすると気になるあの子のハートを撃てるかも…」
言った瞬間、なすびにドン引きという顔をされたので、田丸先生はやっぱり言うんじゃなかったと後悔した。
***
パン、という銃声がこだました。
「あれ、なすび君。わりと上手だね。引退しても腕は劣ってないんだな。彼女のハートを射止めるのも容易いよ」
なすびは高校2年生になってから射撃部を辞めていた。そして田丸先生は先ほどドン引きされたことをもう一度言うという痛恨のミスをした。
「先生、彼女いるんですか?」
「あれっ、お前は!」
なんとミーシャが居た。彼も射撃部だった。
「え?!あ、いや、その…」
田丸先生のかなりのうろたえぶりに、彼女絶対いるんだなコイツ、となすびとミーシャは思った。
(誰だろ?)
***
キングが彼女に大金を貸したらしい。それも、20万円。
八千代がこのことを知ったのはアンナがキングから貰ったメールを見たからだった。アンナはいいかげん、病院で目撃したことを言えと八千代に助言した。お前は騙されているんだよ、と。
「でも私の言うことなんて信じてくれないよ…あんなけんかしたんだよ」
「そんな弱気でどうするのよ!なすびはちゃんと言ったのに!」
「え、なすび何言ったの?」
突然、アンナが耳まで真っ赤にして口を手で抑えた。
「なんでもない!」
その夜、八千代はキングにメールをした。決心をした。彼に全部言わなきゃ。私のこともあの女のことも、全部真実を彼に伝えてどちらを選ぶのかはっきりしてもらおう。
八千代にしてはいつになく素直なメールだった。
『キングの気持ちとか全く考えずに殴ったり蹴ったり暴言を言ったりしたこととか、キングの付き合っている彼女について本当のことを全部言います。今度の日曜日桜公園に来てください。待ってます』
キングはこのメールを見て頭を抱えた。八千代が鏡花ちゃんについて何を知っていると言うんだ?しかもあいつが本当のことを言うだって?どうせ呼びだしておいて、騙されたねとばかりに殴るんじゃないだろうか?でも、八千代はもしかすると俺に気があるかもしれない…このメールもあながち間違っていないのではないか。なら、信じてもいいのではないか。
「キング!」
にこにこ笑顔の鏡花が立っていた。
「顔色悪いよ。どうしたの?」
「鏡花ちゃん」
「私ね!キングを元気付けるためにいいもの持ってるの!ねえ今度の日曜日、私の家に来ない?」
***
そして日曜日がやってきた。
八千代は桜公園のブランコに乗っていた。ブランコなんか何年ぶりだろうか。
(キング、来るかなぁ)
鏡花は部屋でクッションを抱えて座り込んでいた。
(早く、来ないかなぁ)
キングは出かける準備を済ませて玄関を飛び出した。




