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SF短編集  作者: OverWhelmed
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人間の条件からの解放

オプティマイズド・トーキョー、通称「シティ・シンフォニア」の朝は、静謐な歓喜に満ちていた。

ノヴァ・サピエンスの建築思想家であるコーデリアは、目覚めの合図と共に、自身の居住モジュール「リフレクション・キューブ」の透明な壁を開いた。外界の光が差し込む。それは人工的な白色ではなく、大気中のナノフィルターが調整した、目に優しい黄金色の陽光だった。

かつての人間オールド・ヒューマンが「目覚め」と呼んだものは、煩わしいアラームや、疲労が残る肉体との闘いであったという。しかし、コーデリアの覚醒は違う。それは、身体と環境とのシームレスな統合だった。睡眠中に稼働していた共生ナノマシン群「バイオ・レギュレーター」が、彼女の神経系に微細な信号を送る。昨夜の思考や創造活動によって生じた微細な代謝物を完璧に除去し、新しいエネルギーを充填する。

「おはよう、コーデリア。今日の心拍変動予測値は 52.8ms。理想的な集中状態だよ」

彼女の意識に直接語りかけてくる声は、居住モジュールの統合AI「ガイア」だ。声は温かく、しかし感情のノイズは一切ない、最適化されたトーンだった。


コーデリアは、朝食をとる「必要」がなかった。

かつての人間にとっての食事は、生存のための必須労働であり、飢餓という最も原始的な不安に結びついていた。しかし、ノヴァ・サピエンスは、その条件を完全に切り離した。彼らの身体は、バイオ・レギュレーターと皮膚下に埋め込まれた「ソマ・コア」によって、必要な栄養素を大気中から直接抽出し、量子的に再構成して供給されている。

彼女がキッチンへと向かうのは、「創造的な行為」のためだ。

「ガイア、今日は古代ギリシャの『アンブロシア』のレシピを起動して」

キッチンカウンターが、半透明な量子ディスプレイに変わる。空中に展開されたホログラムには、複雑な成分構成が表示される。ノロヴァ・サピエンスが「食事」と呼ぶものは、もはや栄養補給ではなく、五感に訴えかける物質の再構成アートである。

コーデリアは、特定の周波数の音波と光のパターンを入力し、「アンブロシア」の香りを再構成する。それは、甘美で、かつて人間が感じた「満足感」の記憶をシミュレートする芳香だった。一口味わうと、その微細な粒子が舌の上で溶解し、古い時代の幸福感を一瞬だけ追体験させてくれる。


朝の準備を終えたコーデリアは、居住モジュールの中心にある「知識アクセス・ポッド」へと移動した。

彼女の今日の仕事は、「過去学」のプロジェクト、特に「古代の都市計画における排他性のパターン」の分析である。彼女は、特定のデバイスを装着することなく、意識をネットワークへと解放する。

ネットワークに意識が接続された瞬間、全世界の知識が、彼女の知性の一部として統合される。これは、個人の脳が知識を独占し、誤認や偏見によって歪められていた過去とは根本的に異なる。


過去の人間:「知識は個人的な力である」

ノヴァ・サピエンス:「知識は共有された基盤である」


彼女の脳裏には、過去の都市のホログラフィックモデルが次々と展開される。

• ニューヨークの貧困地区と富裕層地区の所得格差データ。

• 古代中国の万里の長城が示唆する「防衛」と「排他」の思想。

• 古代ローマの奴隷制がどのように「自由な市民」の幸福を支えていたかの構造解析。

これらのデータは、彼女の情動回路を最適化するナノフィルターを通るため、憎悪や悲しみといった負の感情を引き起こさない。純粋な「非効率な構造」として、冷徹かつ客観的に分析される。

「興味深いわ、ガイア。この『貧困』という現象は、彼らが物質の量子再構成技術を発見できなかったことによる、最も原始的な制約ね」

「その通りです、コーデリア。彼らは自らの生を、他者の労働と有限な資源の奪い合いに費やしていました。我々は、その**『不自由の連鎖』**から完全に解放されました」とガイアが答える。

コーデリアは、自身の進化を深く肯定する。彼女たちが切り離したのは「人間性」ではなく、「不完全性」であり、それこそが万人の幸福へと続く唯一の道だったのだ。彼女の胸には、古代の人間が決して知り得なかった、**普遍的な「安堵」と「探求の喜び」**が広がっていた。

物語は続くかもしれない


昔人間の条件と言う本を読んだけど、

古代の奴隷制みたく誰かが自分のために労働してくれ、毎日(私が大好きな)政治的議論ができたらなぁ。(科学技術とかには興味なし)


って言う主張くらいしか読み取れなかった思い出


人間の条件と言う名前なんだから、どの様なものが人間ではないか(人間のであることの条件や定義)とかを議論してくれる本なのかと思ってたんだよね〜

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