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SF短編集  作者: OverWhelmed
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転生先は俺用の異世界だった

 目を覚ますと、天井がやけに高かった。

 白い壁。無音の空間。ベッドの傍らには、金髪の青年が微笑んでいた。神のような、いや、神を自称するにはいささか事務的すぎる顔つきだった。


「お目覚めですね、木原真きはらまことさん。あなたは、地球世界での寿命を終えられました」


 唐突な宣告に、木原は眉をひそめた。


「……ああ、死んだのか。ってことは、ここがいわゆる『転生先の準備室』ってやつか?」


「はい。正式名称は転生管理局 第三世界課です。あなたは次に進む世界を選ぶ権利を持っています。なお、神は存在しません。代わりに、我々がいます」


「神の代行者ってわけか」


「便宜上は、そう呼ばれることもありますね」


 青年はデスクに端末を開く。そこには無数の世界がリストアップされていた。剣と魔法の王国、科学文明が滅びかけた荒野、永遠に続く宴の楽園──まるでゲームのワールド選択画面のようだった。


「あなたの魂は、幸福体験の統計分析プログラムの一部として登録されています。つまり、次に生きる世界であなたが『幸福』を感じる瞬間を記録し、それをもとに“幸福の最適条件”を解析するのが我々の目的です」


「幸福を……測る?」


「そうです。あなた方の転生を元にどのような人生が幸福と呼べるのかを、確認しております。新たな世界で世界を救済し、幸福を感じてください。」


 木原は思わず笑った。

「つまり、俺は“幸せかどうか”を調べられるために、この創られた世界に生まれ変わるってわけか。」


「ええ。ただし、あなた自身の感情は本物です。苦しみも喜びも、全部。偽物ではありません」


「転生特典はあるんだろうな?」


「もちろんご用意しております。」


「……だったらそれでいい。俺はこれまで意味なんてないような人生を歩んできた。空虚な人生だった......」


「それぞれの世界には何かしらの問題を設定しております。転生者様がそれらを転生特典で解決してください。それが幸福につながります。」


「俺に生きる目的を与えてくれるってことか。

 あんたのいう幸せを楽しませてもらうよ」


「あなたの性格は既に調べております。我々はあなたにこれら世界を推奨します――」


ーーーーーー


 目を開けると、木原は石畳の上に立っていた。

 剣を佩き、見知らぬ鎧を身にまとっている。空気は澄み、遠くに城がそびえていた。

 転生特典として与えられたのは、魔法理論を解明できる「解析眼」。

 魔力の流れが数式のように見える、不思議な能力だった。


「勇者様!」

 駆け寄るのは銀髪の少女、聖女リリア。彼女は涙ぐみながら言った。

「この国を救ってください。魔王が人々の希望を喰らっています!」


 木原は微笑んだ。

 俺には代行者から与えられた試練がある。それを乗り越えずして何が勇者か。


 日々、戦い、仲間を得、敗北し、再び立ち上がる。

 木原は幾度も「幸福」を感じた。

 焚き火の灯りの中で仲間と笑い合う瞬間、リリアの祈りが夜空を照らす瞬間。

 それらが偽物だとしても、心は確かに震えていた。


 十年後、魔王を討ち、世界は平和を取り戻した。

 だが夜、木原は広場のベンチでひとりつぶやく。


「結局、これが幸福だったのか……?」


 そこへ、空が裂け、白い光が降りた。あの青年――転生管理局の職員が姿を現した。


「おめでとうございます。あなたの幸福指数、過去最高値を記録しました」


「幸福指数、ね。……俺の人生、点数で測れるのか?」


「正確には“感情反応総量”です。ですが、ここから先はもう意味がありません。あなたの魂は目的を果たしました。次の世界へと転生しますか――」


 木原は首を横に振った。


「いや、俺はまだ生きていたい。

 ただ、この世界でリリアと笑っていたいんだ」


「しかし、この世界は実験のために造られた装置です。あなたの幸福は、現実に還元されません」


「それがどうした。幸福ってのは俺が感じるかどうかに意味があるんだ。感じた瞬間にしか存在しないものだ。たとえ偽物でも、その瞬間に笑えたなら、それでいい」


 青年は静かに目を伏せた。


「……あなたのような被験者が増えています。」

「では、この世界を“維持”します。引き続きこの世における生を謳歌してください。」


 光が消え、再び青空が広がった。

 リリアが駆け寄る。


「勇者様、どうしたの?」


「……いや、少し夢を見てた。

 それより、今日も世界を見に行こう。まだ俺にはやるべきことがあるはずだ。」

異世界系が全般的に経験機械の中でどのような体験をすれば幸福と言えるのかについての思考実験と捉えてみたい。

前提として,現実を生きている我々の人生には目的がない。人間は自然発生したものでありその発生に関して根源的な目的は存在しない。目的意識を持って進化が行われたと信じているのは神を心から信ずる狂信者だけである。

その一方で,とある「神」が世界を生み出し,その「神」がその世界をコントロール可能でありそれを望んでいる場合,その「神」によって目的を与えられた生命体はその世界における生の目的があるといえる。

そして,そのような目的のある人生がどのようなものになるかを数多の異世界転生系物語は示す。


その他テーマとしては「持続可能な都市の検討とその実現について」と似ていて、代行者たちはどの様な都市ならば幸福であるかの実験をしている......と捉えるとわかりやすい。



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