アオハル
新幹線で食べるお菓子ってなんでこんなに美味しいんだろう。
隣にハナがいれば完璧なのにな。
車窓から流れる景色を見つつ、お菓子を突きつつ。気がつくと、隣の女子生徒二人がこちらをチラチラと見ていた。
「あの……何か?」
「えっ!? えっと……その……葉月さんの服可愛いなって話してたの」
「これはハナが……一組の溝口さんが選んでくれて……」
すると、前後の女子達が身を乗り出して食い付いてきた。
何時ものよそよそしい感じはどこへやら。
「葉月さんって溝口さんといつも一緒にいるよね? どういう関係?」
嘘をついても……意味ないよね。
「恋人だよ」
やっぱりそうかといった反応で、キャーキャーとピンクな声が響く。
「女子同士ってどんな感じ?」
「どっちから告ったの?」
「もうしたの?」
「えーっと……あはは……」
なんて照れ笑い。
つい顔が熱くなってしまう。
「可愛いー」
「葉月さん美人だよね」
「メイクしないの?」
もうついていけない……
でも俺は女の子なんだからついてかないと。
「メイクとかよく分かんなくて……化粧水とかクリームとかは溝口さんが全部塗ってくれるから……」
「いーなー、その愛されてる感」
「葉月さんがネコなんだ」
「溝口さんの所行かないの?」
「私呼んでこよっか」
なんか一人変な事言ってるような気が。
ハナの話をしていると、必然的に会いたくなる。ホント……ハナが好きで好きで堪らない。
「ナツ、遊びに来たよ♪」
「ハナ! 今ちょうどハナの事考えてた」
「ふふっ♪ テレパシーだ」
なんていつも通りの会話だけど、ギャラリーがいるのを忘れてた。
おかげでピンクな声が広がっていく。
「二人ともこっち座りなよ。ほら、アンタ達はどきな!」
そう言って二人席に座っていた男子学生をどこかへと追いやる女子生徒。なんだか自分達が受けいれられている気がして嬉しかった。
「あ、ありがと」
「ふふっ、ごゆっくりー♪」
席に座ると見えないようにハナが手を繋いできた。
まぁ、見られてるんだけどね。
「ハナに会いたかった。やっぱり少しでも離れると……寂しいね」
「私も。だからこっちの車両に来ちゃった。でも新幹線って早いね……もうすぐ着いちゃう」
「……せっかくだし写真撮ろっか?」
「うん!」
尋ねるよりも前に、女子軍団はスマホをスタンバイしていた。
「ほら二人ともくっついてー」
「イイねイイねぇ♪」
「KissKiss」
苦笑いしているとハナがほっぺにキスをしてきた。
自覚してる事なんだけど、ハナにキスされると自分が女の顔になるのが分かる。
「もう、ハナ……」
「嫌だった?」
「ううん、好きだよ」
こうなっちゃうと周りの事なんか見えなくなる。それは私達二人だけの世界。
二人で見つめ合っていると、駅到着のアナウンスが聞こえた。
「イヤ! ナツと一緒にいる!」
「ハナ……でも班ごとでタクシー乗らなきゃだし」
駄々るハナとの間に割って入ってきたのは……うちのクラスの白川さん。
「ねぇねぇ、溝口さんの班って誰がいるの?」
「森さんと藤野さんと芳川さんだけど……」
「私その子達と仲良いから代わってあげるよ。葉月さんと一緒にいてあげて」
「いいの!?」
「うん、その代わり夜色々と聞かせてもらうよ〜?」
「ふふっ、話せる範囲なら♪」
クラスメイトとの会話なんて皆無だからどう接したらいいのか分からなくて、取り敢えず頭を下げた。
「白川さん……ごめんね」
「ううん……私こそごめんなさい」
「えっ?」
「その……腫れ物扱いしてたよね。みんな怖がってたの。でも……私達と同じ普通の中学生だもんね。二人のこと、精一杯応援させて欲しいな。だって……二人とも、すっごくステキだから」
この身体になってから、周りの中学生を甘く見ていた。
当たり前だよね、大人が子供の中に混ざるんだから。
でも、誰かを思う気持ちや思われる気持ちに年齢とか立場とかそんなモノ関係なくて……
本当に謝るべきだったのは俺だったと思う。
ハナといられればそれでいい。
理解される必要もないって思ってたけど……
こうして理解され応援して貰えると嬉しいもので、自然と涙が滴り落ちる。
「ちょ、ちょっと……葉月さん?」
「これは嬉しくてだよ。ありがとう、白川さん」
感情の起伏が激しい。
笑ったり泣いたり照れたり。
まるで自分中心に物語が進んでいく感覚。
大人になると、次第に忘れていくモノ。
【これぞアオハルよ( ・`д・´)】
葉月夏、青春の真っ最中。




