両親
夜、なかなか寝付けずにいた。
寝苦しいわけではないのに。
なんとなく夜風に当たろうと思いベランダに出る。ハナを起こさないよう、静かに。
今夜も熱帯夜らしいけど、風があって気持ちいい。街の灯りを眺め、只々更けていく。
両親か……
なんとなく胸が締め付けられるな。
…………あれ?この匂い……
風に乗ってきたこの匂いは──
「フジさん……?」
「気づかれてしまいましたか」
相変わらずどこからともなく現れる。
ここ二階だよね?
「どうしてここに?」
「夕方の件もありますから、念の為数日は見張りをします」
「そっか……大変だね。なんだかごめんなさい」
「謝らないで下さい、使命ですから」
見つめていると目を逸らすフジさん。
夏ちゃんとの関係性は分からないけれど、何処となく照れている様子だ。
……ついでに聞いてみるか。
「フジさん、私の両親ってどんな人だったの?」
「その……なんと言えば……」
言葉に詰まり、察する空気。
……まぁそうだよな、子供相手なんだし。
「私の事を心配してくれてるんですよね?」
「……はい」
「いつかは知らなきゃいけない事ですし……何かがあったのは事実で、私はそれを背負って生きていかなければいけないから」
「…………お嬢様が何故こんなにも苦しまなければいけないのか……救って差し上げたいのですが、私には……もし、神などというフザケた存在がいるのなら私は真っ先に殺します」
言われてるよ?
【神も八百万いるから……(;´Д`)】
「そうやって私の事を想ってくれているだけで嬉しいですよ?」
「お嬢様……」
「……右も左も分からなくなってしまった私だけど、誰かに想われてるから……この世界で私は一人じゃないって思えるんです。ハナ、ハナママ、おじいちゃん、組のみんな、フジさん。ね? それだけ私、幸せです」
夜風に乗せるように、フジさんの口が開く。
「…………蒼一様はお嬢様のお父様であり、組長の一人息子でした。皆から慕われており、私の事を弟のように可愛がってくれました。義理と人情で出来たような方で……組の者は家族同然、何があっても疑わない。それが信条でした。お母様の若葉様は……誰にでも優しく、いつも明るく振る舞われて、蒼一様の半歩後ろを常に歩いてらっしゃいました。お嬢様の笑顔は……若葉様にそっくりですよ」
「へー……写真とかないの?」
「……こちらを」
胸の内ポケットから写真を取り出す。
常に持ち歩いているって事は、それだけ慕っていたんだろう。
「これが……父さんと母さん……」
胸が……苦しい……
頭が痛い……
とてつもない速さで、頭の中がチカチカとし始める。
目が回り、立っていられない。
「お嬢様── 」
フジさんが何か言ってるけど、うまく聴き取れなかった。
視界が徐々に切り替わっていく。
ただの推測だけど……
なんとなく、夏ちゃんはこの人生を諦めたんじゃないかと思う。
一度は投げ出した人生。
辛いのは当たり前。
それでも……決めたんだ。
全部背負うって。
全部ひっくるめて、幸せになろうって。
自分勝手かもしれないけど……
好きな人がいるから。
添い遂げるって決めたから。
目の前に映し出された光景。
拳銃で撃ち抜かれた男女二人。
震えながら、拳銃を握りしめている夏ちゃんがそこにいた。




