溝口ハナ②
私、溝口ハナ。
昨日は十五歳の誕生日だった。
大好きな人にお祝いされて、一緒に過ごせて、とっても幸せ。
そんな大好きな人が今日、十五歳になった。
誕生日が次の日だなんて……なんだか見えない糸を感じる。
大好きなナツと私のママ、三人で街にお出掛け。夕飯は昨日行けなかったレストランを予約してあるんだって。
ふふっ、楽しみ楽しみ♪
昨日はナツが急に倒れ込んじゃって……
元気そうだけど、心配。
でもその後…………
「ハナ……どうしたの?」
「ふふっ、ちょっと夜の事思い出してた」
「夜って……」
日が変わってナツのお祝いをして……スマホにはママからの連絡が表示件数を超えるくらい来てたから、逃げちゃおうって近くのホテルまで笑いながら走った。
その……そういうホテルなんだっていうのは入ってから知ったんだけど……思い出すだけで、幸せが溢れ出ちゃう。
ナツも思い出してるみたいで、襟足を摘んで照れている。
ママがいなかったらきっとこの場で抱きしめてた。
「二人とも仲良しだね。朝帰りなんてちょっと大胆だけど」
「ハナママ、私が悪いんです。私が急に倒れちゃったから……」
「ナツは悪くないよ! 私も悪くないし!」
「……二人とも、これから一緒にいるにあたって覚えておいて欲しい事があるの。みんながみんな、二人の事を祝福するとは限らない。嫌な思いもすると思う。あなた達も悩む事が出てくる。それでも──」
「それくらい分かってる。それでも、私はナツと一緒にいる。死ぬまで一緒なんだもん。私の全てを捧げられる人が出来たの。茨の道だって、綺麗な花は咲いてるんだから」
「……よし。じゃあママから二人にお願い。何があっても、手を取り合って。何があっても、二人一緒にいる事。よく話し合う事。夏ちゃん、この子は私に似て頑固だから一度言ったら曲げないと思う。あなたに覚悟はある? 責任とれる?」
不意に聞かれて、ナツは少し驚いていた。
でも目はママを真っ直ぐ見てる。
ナツは照れている時以外、目を逸らさないで聞いてくれる。
尊敬できる、ナツの素敵なところの一つ。
「私は……ハナと一緒に……」
ナツは言葉に詰まり、目に涙を浮かべていた。
どうしたのかな……大丈夫かな……
「ごめんなさい……責任は取れません……」
涙を流しながら、ナツは手を繋いでくれた。
その姿に、心を揺さぶられる。
「私がこれからハナといる事で……ハナにとって普遍的に訪れることを奪ってしまいます。いくらハナが幸せだからといって……どれだけハナを幸せにしても、それは責任を取る事だなんて言えません。それでもハナは隣で笑ってくれるから……私は死ぬまで……ハナに後悔させない。ハナより長生きをして、最後まで笑わせたい。自分勝手でごめんなさい、好きなんです。ハナが……好きなんです」
ナツの真っ直ぐな瞳と、真っ直ぐな言葉はいつも私の胸に突き刺さる。
その言葉に、私も涙が出ちゃう。
ママも目に涙を浮かばせている。
ママのこんな顔……初めて見た。
「うん。とっても…………いい答えだと思う。責任、なんてイジワルな事言っちゃってごめんね。人は他人の責任なんて取れない。そんなに簡単なものじゃない。夏ちゃんの気持ちは私にもハナにも伝わったよ。その気持ちを大切に育てて……いつまでも笑顔でいてね。辛気臭い話はお終い! 夕飯に行くよー!!」
私、幸せだ。
ママにもナツにも愛されている。
ナツ、どんな事があっても私がナツを幸せにするよ。
私に恋してくれた事、絶対に後悔させないんだから。
「ナツ、誕生日おめでとー!!」
相変わらず照れると襟足を摘むナツ。
可愛くて、愛しい私の恋人。
「あははっ、ありがと」
今日が一回目。
これから何十回もこうしてお祝いをする。
生まれてきてくれて、ありがとう。
好きになってくれて、ありがとう。
「ハナ、私幸せだよ。いつもありがとう」
「……ふふっ、もっともーっと幸せにしてあげる♪」




