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二つの心、一つ分


「えっ? な、なんで……」


 痛いほど騒ぐ鼓動。息……してる……夢じゃないよなこれ……

 

 いつもより高い目線。

 手の大きさ、股下の感覚。

 これは……慣れ親しんだ体。

 

 でも……ハナと祭りに来てた筈なのに……

 どうして……


 全て夢だった?いや、そんな事ないだろ。

 ハナの匂い、温もり、優しさ、可愛さ、柔らかさ。

 今だって鮮明に覚えている。

 

 ……ハナに会いたい。


 感じた事のないほどの焦燥感に、堪らず走り出す。

 人々の往来、虫のざわめき、雲の流れ。


 この世界は何も変わらない。 

 あの神社はここにない。


【戻りたかったのだろう? この世界に】


 それは前の話で……

 今は……今は違う。

 

 頼むから……返してくれ…… 


【あの場所で幸せなお主を見てると、あの子が不憫に思えての】


 訳のわかんないことを……


【留めておいたモノを返すついでに、一つ問う。間違った答えを出したなら、お主をこの世界の住人に戻す】


 嫌だ── 


「ふふっ、長いお願いだったね。叶うといいね♪」


 気がつくと神社の前に戻っていた。

 心と身体と……中に流れる何かがグチャグチャに掻き乱れ、正気を保つだけで精一杯だった。


「ハァハァ……」


 息が吸えない。

 どうやって吸えばいいんだっけ。 


「ナツ? 大丈夫!?」

「……………ハナ」

 

 咄嗟にハナの手を握ると、空気と共に大量に流れ込んでくる感情。

 一息吸う度に、涙が止め処なく溢れてくる。

 

 これは俺だけの感情じゃない。

 これは夏ちゃんの……心。


 ──苦しい。辛い。寂しい。苦しい。終わらせたい。分からない。分からない。死にたい。分からない。分からない。殺して。殺して──


 ……ずっとこの身体の中にあったのに……気づいてあげられなくてごめんね。


「ナツ……私、私どうしたらいいのか……」


 ハナは大粒の涙を流しながらも抱きしめてくれた。

 ……多分だけど、私はこうできる、こうしてくれる相手がいなかったのかもしれない。

 この身体に貼り巡る……二つの心ごと、ハナに押し付ける。


「ごめんハナ……全部抱きしめて」

「うん、うん…………私がいるから。大丈夫だよ、ナツ……」 


 耳元でハナの鼓動を感じる度に……左目から出る涙がハナの服を濡らし続けていた。


 ◇  ◇  ◇  ◇


 境内のベンチに寄り添いながら座る。

 離れないように握る手は、離さないように力強く繋がれている。

 

「私ね、多分なんだけど………この世界とは少しだけ違った世界から来たんだ。こんな神社、私の世界には無かった。私は…………その…………」

「……ナツ、例えナツが猫でも犬でも、地球人でも宇宙人でも、男でも女でも……関係ないよ。好きになるって、そういう事だから」


 ハナが肩にもたれかかると響く、花火の打ち上がる音。

 見上げると……空が光り輝いていた。

 美しい筈なのに……何故か左目からまた涙が流れて行く。

 

「さっきなんだけど……私、元の世界に一瞬だけ戻ってたんだ」

「えっ……?」


 ハナの表情が一瞬にして強ばり、繋がる手が痛いほど強く握られる。


「もう戻れないかと思った。ハナに……会えないのかと思った」


 震える声と身体で、ハナは抱きついてきた。


「イヤだよ……私、ナツと離れるのは……ナツ……」

「うん……私も。だから……この手、離さないでね」


 握る手は、互いに強く。   


「絶対に……絶対に離さないから」


 ハナは自分という存在を刻み込むかの様に、私の体を貪る。

 それが嬉しくて、だからこそ怖くて……

 

「ハナ、私……怖かった。寂しかった……」  

「うん、うん……ごめんね、ナツ……何もできなくて……」


 ハナは幾つもの痕を残した。

 確認するのように、何度も、何回も。


「私があなたに残した印だよ。今こうしてここにいるから……ちゃんといるから」

「ハナ……」 


 ◇  ◇  ◇  ◇

 

 浴衣を着直し花火を眺める。

 絡まる指は、三日三晩は離れないだろう。


「ナツのいた世界の花火もこんな感じだった?」

「うーん……こんなに綺麗じゃなかったかな」

「ふんふん、そうなんだ」

「……好きな人と見る花火は初めてだから。ハナといると、周りの景色はいつもより綺麗に見えて……この花火は人生で一番綺麗だよ。だってハナがいるんだもん」

「ふふっ♪ ナツ大好き。ううん……ナツ、愛してるよ」

「私も……愛してる」


 二人だけの世界が、ホンモノに近づいて……

 打ち上がる花火が、舞台を彩る。


 この物語の主役は、間違いなく私達。


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