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本当の世界


 歩道のブロック塀に反射して……カツ、カツ、と響く音。

 呼応するように、遠くからはお囃子が木霊する。


 日も暮れ始める街に、美女二人。

 なんて……自惚れてみる。


「鼻緒がちょっと痛いかも。ナツは平気?」

「うん、付け根をちょっとだけ離すと痛くないよ」

「……わ、ホントだ」


 ハナと寄り添い、手を繋いで歩く路地裏。

 往来する人々も皆、同じ場所へ向かっているのだろう。


「お祭り楽しみだね♪ 私初めてなの」 


 先を見つめるハナの横顔がオレンジ色に染まり出し……声にならない程に、綺麗だった。

 

「どうしたの?」

「えっ? いや、その……あははっ……」


 思わず空笑いして照れ隠し。

 隠れる場所も無く、強く手を握ってしまう。


「……私の事、可愛いって思ってくれてるの?」


 ほんのり赤い頬。ハナが悪戯気に顔を近づけてくる。


「……め、滅茶苦茶可愛いです」

「へへっ♪ ナツのおかげだよ」

「私の?」

「……うん」


 少しだけ照れるようにハナは頷いた。


 少し大きな通りに出ると、賑やかな色と音が鮮明に響き出す。

 金魚が入った袋を持った子供、かき氷を突き合う恋人たち。

 それにしても……こんな祭り、この街にあったか?

 思い返しても……そんな記憶はない。


「あっ、見えたよ! お店がいっぱいだね」


 路上には出店がずらりと並び、その先には小さな山がある。その存在は知ってるんだけど……

 山の麓に見える巨大な鳥居。

 こんな所に、神社なんて無かった。

  

「何食べよっか。ワクワクするね♪」


 疑問は尽きない。

 でも……今は考えるのをやめよう。

 今はハナだけを感じていたいから。


「ね、落書き煎餅でもやろっかな」

「落書きするの? わぁ……ナツ、金魚だ!! 確か映画でもこれ取ってたっけ……」


 可愛らしくチラチラとこちらを見てくる。

 きっとその映画では、恋人に良い所を見せたのだろう。

 …………よし。

 

「いいよ、私がとってあげる」


 腕を捲くって気合を入れる。

 渡されたポイは、よく見ると薄い。

 女子供には厚いポイを渡してくる店もあるから期待してたけど……

 テキ屋で優しい人は少ない。

 ちなみに俺が貰ったのは七号。

 一番薄い奴で、ティッシュみたいなやつだ。


「……ハナ、何匹欲しい?」

「えっ? うーん……二匹♪」


 二匹ならとれるかな……

 生簀を見渡すと、小さめの魚が目についた。

 色がなんとなくハナに似ている。


「ハナ、見てて?」


 一瞬でハナ似の金魚を掬い、容器の中へ。

 ポイはもう破れかけている。


「すごーい!! ナツすごーい♪」


 あー、可愛い。

 ヤバいな……

 顔に出ちゃいそう。


「……」


 それに気がついたのか、後ろから覆いかぶさるようにハナは抱きついてきた。

 吐息が触れる距離。ハナは耳元で囁いた。


「今、私の事考えてるでしょ」


 耳まで赤くなっていく感覚。

 胸の鼓動も、背中越しに感じる鼓動も……痛いほどに強い。


「ふふっ、私も同じだからね」


 言い終わると同時に頬へキスをしてくれて……衝動で落ちたポイは破れた。


 ◇  ◇  ◇  ◇


 袋に入った金魚を見つめて嬉しそうなハナ。


「ごめんね一匹で……」

「ううん、この金魚可愛い♪ ありがと、ナツ」


 ……幸せだな。

 間違いなく、人生で一番に。


「ハナ、せっかくだから御参りしてこうよ」

「うん、する!」


 花火はもう間もなく。

 皆神社自体に興味は無いのか、人は誰もいない。


「こうやってお金を入れて……好きな事をお願いしたり、聞いてもらったり。勿論心の中で」


 ハナは静かに目を閉じ、手を合わせている。

 俺もしないとバチが当たりそう。 


 でも、幸せだから……

 お願い事とか、正直分からない。


 強いて言うなら……

 神様、ハナと出会わせてくれてありがとうございます。

 

 そう心の中で感謝をし、目を開けた。

 

 気がつくと……夏ちゃんとの憩いの場、あの酒屋に俺は立っていた。


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