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乙女戦線


 物凄い威圧感。

 正直泣いちゃいそう。


「さっきから口を開かないけど……緊張してる?」

「めっ、滅茶苦茶してます」

「へぇ……そんな声なんだ」


 全てを見透かされるような瞳。

 百戦錬磨の戦闘機に、竹槍で挑む。


「さて……あなたは何を隠してるのかな?」


 ヤバい……この人にはいったい何が見えているんだろう……


「ヤバいって思った? 特技みたいなものだから……私に嘘付けるとは思わないでね」


 嘘とか……

 俺だって……訳わかんないし…………

 言えるなら……ハナに全部話したいよ……


【複雑に考えるでない。お主は誰だ?】  


 …………葉月夏だよ。


【お主は誰の、何なんだ?】


 …………偶に真面目になるよね。


【基本お主の味方だからな。ホレ、頑張れ】


「……私はハナの恋人、葉月夏です」


 嘘なんて付かない。

 俺は……私は、葉月夏。

 俺はハナが好きで……ハナは私が好き。

 自分でも訳わかんないけど……でも、これが今の自分だから。


「……ふふっ、そんなに怖い顔しないで? ハナから全部聞いてるから」

「…………えっ?」 

「隠してるっていうか……何となく、あなたは偽ってるのかなって感じたの。あ、答えなくていいからね」


 この人……凄い……


「でもさっきの目つき……あれはいいよ。ハナの事を渡さないっていう強い意志があった」


 人に言われると恥ずかしくて……どこにも隠れられない分だけ、顔が熱くなっていく。


【照れてるナッチもカワエエよ。もっと照れてれるナッチ見たーい、ハイ!! 飲んで飲んで飲んで呑んで呑んで呑んで飲んで呑んで飲んで、飲んで!!!】


 ちょっと黙っててくれない?


「でもね、それでいいんじゃないかな。人っていうのはどこか演じて、どこか偽って生きてるんだし。ハナの事、好きなんでしょ? アナタもあの子も、お互いどこか演じてるはず。それは好かれたいから、好きでいて欲しいから。そうやって……二人だけの世界を作っていく。その世界の主役はあなた達。そこで演じて……ホンモノになるの。これって何か分かる?」

「…………愛?」

「ふふっ♪ さっきハナが私に逆らったでしょ? あれ、初めての反抗なの。アナタが……ハナを変えた。あの子はアナタとの世界に夢中。ねぇ、ハナとの生活、ちょっと聞かせてよ。アナタの口から聞いてみたい」

 

 飾る必要も無いから、ハナと出会って感じてきたことを素直に伝える。


「そしたらハナが──」

  

 話しているうちに思い返して……思わず笑ったり、恥ずかしくて顔が熱くなったり。


「なんですけど、ハナと一緒に──」


 まだ出会ってから日は浅いけど……これは決して、物差しで測れるものでは無い。


「ハナは──」


 かけがえのない大切な日々。

 訳のわからない出来事が続く毎日でも……隣ではいつもハナが笑ってくれていた。


 いつも、私の名前を呼んでくれた。


 その尊さに……自然と涙が出てきてしまう。


「ごめんなさい、なんでだろう……」

「ふふっ、本当に……ハナが好きなんだ。そんなに可愛い顔されたら、何も言えないじゃない?」


 無邪気な顔で微笑むハナママは、ちらりと二階を見上げた。

 階段をドタドタと駆け下りる音がする。 


「もう我慢出来ない!!! ナツ……あれ? な、なんで泣いてるの!? ママがナツを泣かせたの!?」

「いやっ、これは……」

「うん、ママが泣かせたの。可愛くて虐めたくなっちゃったから」

「私のナツなんだから……ママだって許さない。ナツ、大丈夫だよ。私が一緒にいるからね」

「あの、ハナ……これは………」

「ふふっ。既にホンモノになっているのかな?」

「ホンモノ……なんの話?」


 ◇  ◇  ◇  ◇


「ママに認めてもらえて良かったね♪」


 ハナのベッドで、寝る前の女子トーク。

 鼻歌を歌いながら足をパタつかせるハナが、とても愛しい。   


 ここは二人だけの世界。

 演じて……いつかホンモノに……


 俺も、いつかはホンモノの女の子になるのかな。

 ……なれるのかな。


【大丈夫、お主はモノホンだ。ホレ、やってみんしゃい】


 ……よし。


「ハナ……私……」


 甘い声と、甘い顔。

 ハナを誘惑してみる。


「ナツ……どうしたの? 甘えたくなっちゃった?」

「うん……ダメ?」


 私なりの、とびきりの可愛い。


「可愛い……食べちゃうぞー! なんちゃって♪」

「いいよ、ハナ。食べて?」


 そう言って胸のボタンを外す。

 こうなったらもう……


「ナツ……もう止められない」


 案外女子になりきれてる気がして。

 恥ずかしい気持ちもあるけど……

 可愛い自分を受け入れつつある。

 

「ハナ──」


 この甘い甘い世界に、どっぷりと浸かる。

 シーツを握りしめている手をハナが解いて、優しく握り直してくれた。

 ハナの甘くて優しい顔を見て、涙が出てきてしまう。


「ご、ごめんねナツ……痛かった? 大丈夫?」

「ううん、これは……幸せで泣いてるだけだから」


 こんな言葉が自然に出てくるとは。

 

 俺こと私、葉月夏。

 順調に乙女になっている。



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