この戦場、逃げ場なし
楽しい時間はあっという間。
幸せいっぱいで、帰路の電車を待つ。
【素晴らしきかな、JCは】
あれ、久々じゃん。
何してたの?
【ワシも忙しくてのう。此度の旅、絶頂絶頂やれ絶頂。カラッカラじゃ】
そう……
【良き鳴き声、良きヨガリ……】
恥ずかしいからやめなさい。
【それに良いタイミングで少し思い出したのでは?】
それはまぁ……
…………もしかして──
「ナツ、どうしたの?」
「ご、ごめんごめん。ちょっと考え事してて……」
「……大丈夫?」
美しい大きな青い瞳に見つめられる度、幸せと同時に過る不安。
いつかは……いつかは本当の事を言わないといけないよな。
「……うん、大丈夫。またどこか一緒に行こうね」
「行くー♪ 今度はあそこに行ってみたいんだー」
もう……戻れない。
「あれ? 電話だ……誰からだろう……えっ!? ママからだ……もしもし……うん……え? うん、一緒だよ……うん……今日!? 分かったよ! 二人で待ってるね」
ハナの母親……出張であちこち飛び回ってるみたいだけど……
ん?二人で待ってる?
「ママ、今日の夜帰ってくるんだって! またすぐに出張みたいだけど……なんだかナツの事気になってるみたい」
「そ、そうなんだ……」
なんだか嫌な予感がするよ……
◇ ◇ ◇ ◇
「もうすぐ来るかなー。ママに会えるの久しぶりだからなんだか緊張しちゃう」
ハナの母親……聞いた話では、バリバリのキャリアウーマンで男嫌い。
どこかの優秀な遺伝子を貰って人工授精しハナを産んで、世界各地を転々とした。
日本が好きだからって理由で日本人と書類上だけの結婚をし、ハナを養子として帰化。
それ以来、日本でハナと二人暮しをしている。
見た写真ではハナを大人にした感じで、とても美人だった。
【これは手強そうデスナ】
そうね……そうよね……
「あっ、帰ってきた! ナツ、ママが来たよ!」
「ただいまー! ハナ、寂しかったよね、ごめんね」
「……寂しかったけど、でもナツがいたから寂しくなかったよ♪」
チラッと横目で見られる。
するどい眼光。
これは俺、狩られるな。
「…………話はよく聞いてるよ。ハナ、二人で話したいから部屋に行ってなさい」
「えっ……でも……」
「いいから、行きなさい」
怖いなー……
正直逃げ出したいけど……
この戦場、逃げ場なし。
「イヤッ! 私ナツと一緒にいる!!」
「……」
ハナの母親は一瞬驚いた表情をしたがすぐ真顔に戻った。
ホント、隙が無さそうだ。
「ママがナツに何を言うのか分かんないけどナツは……ナツは私の恋人なんだから。誰にも……邪魔させないんだから」
「……ハナ、そんなに構えなくても大丈夫。ちょっとだけ話すだけだから。ほら、お部屋に行ってらっしゃい」
「……うん。ナツ、あとでね」
静まるリビング。
退治するのは虎と猫。
嗚呼神よ、どうかこの哀れな仔猫に祝福を……
【呼んだ?】
帰れ。
「さて、葉月夏さん。何から話しましょうか?」




