第九十話 ガールズトーク
「だから、ここはこうなるんだよ~」
「おぉ! 解けました!!」
シロとミルフィーの料理を堪能した一同はそれぞれ自由時間とし、【向日葵の輪】のララ、ルル、ルカはのんびりと寝転がりシロたちは予定通り勉強会をしていた。
ミルフィーはユキに、エルはフィーリアに勉強を教えていた。ちなみに、ミカは時折フォローする形で皆の様子を窺っている。
ミルフィーの教えは分かりやすく、要所要所をしっかりと押さえどうしてそうなるのかを易しく説明しているのでユキが解けず悩んでいた問題も解けるようになっていた。エルに教えてもらっているフィーリアも苦手な英語を解く手ほどきを受けて分からなかった問題がどんどんと解けるようになっていた。
「……」
「……何かな?」
「……いえ、別に」
(本当に頭いいんだな、ミルフィーのくせに)
ジーと見られていたのに気づいたミルフィーが顔を上げると、珍しいものを見る目をしてシロが見ていた。普段の暴走気味の言動から全く予想できない姿にどこか納得がいかない様子である。
「人が苦労して手に入れたものを既に持っているというのは、どうも納得いかないな」
「……なんのこと? シロ君?」
「いや、なんでもない。さっさと次の問題いけ」
「は~い」
「というか、シロさんの問題量凄いですね」
「結構遅れていますからね、これくらいしないと」
「真面目なんですね」
「そんなたいそうなもんじゃないですよ」
実際、ユキや赤点組の勉強を教えていたためシロの進捗状況は芳しくない。下手したら入学して初めてトップ10を逃すかもしれなかった。それはどうしても避けたい。
「さて、次いきますか……」
「……こことそこ間違ってるよ」
「……なんですか一体、って本当ですか?」
「うん、ここはこの公式じゃなくて、こっちの方を使う。引っ掛けだね」
「そ、そんなこと……本当だし」
「ふふぅ~ん」
数学の問題を解いていたシロの隣から突然現れたミルフィーが間違いを指摘する。シロはそんなバカなと思いつつ、ミルフィーの言う通りの公式を当てはめ解いていく。それで行き着いた答えを確かめると同じ答えが書かれていた。それに驚きの声を上げるとミルフィーが胸を張って、得意げな顔をする。
「くっ……」
「いや、そんな悔しそうな顔しなくても。だってこれ難関大学の赤本でしょ一問間違えたかもだけどそれ以外は当たってるし、十分凄いよ」
「情けは無用です。俺もまだまだということですよ」
歯を食いしばっているシロであるが、今解いているのは某有名大学の赤本であり決してテスト勉強のために解くような問題ではなかった。解けるミルフィーも異常であるが。
だが、そんなことシロには関係なく問題なのは自分が出来ないことが侮っていた相手に出来てしまったという事実である。さすがのシロもこれには少ないプライドにヒビが入ったような感覚になる。
「……ユキ、あとこれくらいしたら終わっていいぞ」
「ほんと!? やったー、実は、皆さんとお喋りしたかったんです!!」
「ちゃんと全部正解してからな。明日もこれくらいやるから気を抜くな」
「イエッサー!」
「フィーリアも自由に終わらせていいからな」
「はい、分かりました」
シロの言葉にビシッ、と敬礼ポーズをとるユキ。ウインクつきで可愛らしいその姿にクラスの男子なら雄たけびを上げていたことだろう。そこはシロなので反応は期待しない。
横目でさらっ、と流したシロはフィーリアにも終了予定を知らせると再び自身の画面に視線を落とした。テスト範囲はあらかた終わらせているので後は応用問題に対する経験値を上げておかないといかない。
西央高校のテストは範囲が広いがそこまで深く掘り下げて問題を出さない傾向がある。そのため、とにかく教科書などの問題を解かせれば50点くらいは取れるはずである。しかし、問題の最後のほうには難易度が高く設定されており、その問題が赤本などに出ていることが多いのでシロはこうして赤本を解いているのである。
「よしっ、気合入れていくぞ!」
「頑張ろう~ユキちゃん~」
「はいっ!」
ユキが両拳をぎゅっ、と握りやる気を見せると横からミルフィーも笑顔でエールを送っていた。
「フィーちゃんも分からないことがあったら遠慮なく聞いてね」
「フィーちゃん? ……いえ、何でもないです」
ユキの隣のほうではエルとフィーリアも同じようなやり取りを行っていた。エルのフィーリアの呼び方が変わっていることにツッコみを入れそうになったが不快ではないので寸前で止めた。
どうやら、彼女たちの仲はシロの知らない所で深まっているようで微笑ましい光景がシロの目の前で広がっていた。
「さて、俺もあと少しやるか」
シロも再び画面に視線を落として、勉強を再開させたのであった。
☆☆☆☆☆☆
それから、およそ一時間後、無事シロが課したノルマをこなしたユキはお待ちかねのガールズトークへと興じていた。
「シロ君もくればよかったのに……」
「そうですね……」
たき火を囲み、円形に座っているユキとフィーリアは残念そうに呟く。そう、この場には【向日葵の輪】とユキ、フィーリアだけ。まさに女子会状態である。
『わざわざいる必要もないだろ』
シロはそれだけ言うと暗闇の中へと行ってしまった。女子ばかりの集まりに男子が一人というのも肩身が狭いものである。
「まぁまぁ、彼はまた今度ということにして、今は女の子だけで楽しもうよ」
「そうだよ~、ユキちゃんとフィーちゃんの事もっと知りたいし~」
エルが二人を元気づけるように声を放つとミルフィーも間延びした声を出す。ミルフィーの声からこれから行われる話が楽しみであるということが伺えた。
「そうですよね、今は楽しみましょう。丁度シロ君が作ってくれたお菓子もあるし」
「ほんと準備がいいわよね彼。いつの間にポテチなんて用意したのかしら」
「すごいですねシロさんって……」
ルカが皿に盛られているポテチを眺めながら呟く。余った材料で作ったお菓子が意外にも好評のようであるが、どこまでもスペックが高いシロにもはや呆れすら覚えてしまうユキであった。
「まぁまぁ、そんなことより~、お話しようよ~お話~」
エルたちがシロのことを褒めているとその場にミルフィーの間延びした声が木霊した。早くガールズトークをしたいというのがよく分かる声である。
決して、シロのことが話題になりそうだったから無理やり逸らした訳ではない。
早く、ユキとフィーリアについての話をしたかっただけである。決して無理やり逸らした訳ではない。
「そうね、今夜はいっぱいお話しましょう」
「はい、そうですね。私も皆さんのこともっと知りたいです!」
「わ、私も……」
ミルフィー同様、ユキとフィーリアもこれから行われる会話にワクワクしていた。これまでBGO内で同年代の同性と話す機会が少なかったため色んなことを訊きたいと思うと共に、トップギルドと呼ばれている彼女たちの話は参考に出来ることが多いからだろう。
「よしっ、それじゃぁ、どうして二人はこのゲームを始めたのかな?」
開口一番にユキとフィーリアに質問したのはエル。とりあえず、当たり障りのないことを聞いてみた。その質問に先に答えたのはユキだった。
「そうですね、私は進級したお祝いに父からVR機を貰ったことがきっかけですね。BGOは元々友達の話で出てきていたので気になっていたこともありますね」
「へぇ~、そうなんだ。フィーちゃんは?」
「わ、私はユキちゃんに誘ってもらったことが最初でした。転校してきたばかりで馴染めていなかった私がそのおかげでクラスの子たちとも仲良くなれました」
フィーリアの場合、シロがやっているというのも要因の一つだろうがそこは口にすることはない。
あの時、もしユキが誘ってくれなかったらこうしてシロと一緒にいることもなかっただろうし、ストーカーで悩まされていた自分が救われることもなかっただろう。ほんと、ユキには感謝してもしきれなかった。ユキと仲良くなったおかげでクラスの女子ともだいぶ仲が深まったこともある。ユキという友人を持ててフィーリアは幸せであるとわりかし本気で思っていた。
「へぇ、そうなんだ、ちなみに三人はずっと一緒なの?」
「はい、私が始めた頃にシロ君とユキちゃんはいましたよ。シロ君がこのゲームに詳しくて基本的なことは全部レクチャーしてくれました」
「ふぅん、ユキちゃんは? シロ君と長いの?」
「そ、そうですね。私が彼を誘いましたし……」
これくらいなら大丈夫だろうか? と考えながらユキは質問に答える。
ユキのその発言にエルを始め、他の面々も興味深そうに目を光らせた。
「ほう、それは一体なぜかな?」
「ユ、ユキちゃん、私も知りたいです」
「えっ、あ、それは、その~」
全員の好奇な視線に当てられて、ユキは自分が放った言葉を後悔した。
ユキがシロを誘った理由。それを説明するにはシロがシルバーであることを避けては通れない。ユキは、チラッとミルフィーのほうへ目をやった。そこには、一遍の曇りもなく期待した眼差しで見つめてきている同世代の女の子の姿があった。先ほどからシロを嫌っているような素振りからは想像もできないが所詮、ミルフィーも年頃の乙女なのであろう。
(もし、シロ君がシルバーって分かったらどう反応するのかな)
ユキはどこか他人事で、そして最悪な事態を想像してみる。しかし、それはあくまで想像であって仮定の話である、どんなに考えても答えなどに辿り着けるはずもなかった。
「ねぇ、どうしての~ユキちゃん~?」
どこか遠い目をして考えていたユキはミルフィーの間延びした声にハッと我に返る。
いかんいかん、これでは不審がられてしまう。
ユキは咄嗟に当たり障りのない内容で納得させる方針にした。
「えぇと、その……」
だが、いざ口にしてみようと行動してみるも全くいいアイデアが浮かんでこない。こういう時、すらっとでたらめな事を言えるシロが羨ましく思えてくる。
しかし、自分に注がれる視線を受けている中で待たせるわけにもいかない。
(ええぃ、なるようになれ!!)
ユキはとにかくシロの正体がバレないことを重視して口を開いた。
「……前から気になっていたからですかね」
『え?』
「ん?」
ユキの言った言葉に全員目を丸くした。
そして、うまいこと説明を省けたと思ったユキは思わぬ反応に首を傾げる。
【向日葵の輪】のメンバーは次には明らかにニヤつきだし、フィーリアは先ほどから表情が変わらず、呆然としていた。
その反応にユキはもう一度、自分が言った言葉を思い出してみる。そして、今現在、ガールズトークをしている彼女たちの顔を見て自身の言葉が足りなかったことに思い至った。
「ちが、これは違くて!」
「えぇ~、何が違うのかな?」
「そうですよ、一体何が間違いなのか説明してくれませんか?」
慌てて発言を撤回しようとするユキ。だが、エルとミカが口元が緩みながら面白い玩具を見つけたような顔をしている。見ると、他のメンバーも明らかに面白がっている様子でユキを窺っていた。
「ち、違うんです~~!!」
暗い夜空にユキの悲痛の叫びが響いたのであった。




