第八十五話 キャンプ準備
「……」
「……」
「……」
シーン……
「……」
「……」
「……」
チャポンッ……
「……なぁ」
「……」
「……」
「あの……」
「……何?」
「……どうしたの?」
「何で、そんなくっついてんだ?」
「落ちたら大変……」
「溺れ死ぬ……」
「いや、落ちないだろ。君たち俺よりレベル高いでしょ。ていうか、泳げるだろ」
シロは両隣で肩を密着させるララとルルに息苦しさを感じていた。只今シロたちは絶賛釣りの真っ最中である。一見して、可愛い女の子たちと釣りをしているというリア充な光景に見えるだろうが、シロとしてはただ幼女と一緒に釣りをしているだけである。
のどかな風景に溶け込む、のどかな時間を満喫できるわけもなく、シロは波もなく時折吹く風によって揺れる水面を凝視しながらため息を吐いた。
ミルフィーたち【向日葵の輪】とキャンプをすることになったシロたち。食材や道具はお互いのものを共有するということに決めたのだが、シロたちの食材を確認したララとルルが一言。
『魚……』
『食べたい……』
「で、釣りをすることになったわけだが」
「中々……」
「釣れない……」
「というか、俺来る必要あったのかな?」
「暇そう……」
「暇つぶし……」
「気づかいサンキューです」
彼女たちが言った通り、テントや調理器具等の道具類は大体苦労せずに設置できるようになっているし、ミルフィーがあからさまにシロを避けているので周りの空気が悪くなる。そうなると、シロもあの場にいるのが忍びなかったのでどこか散歩でもしようかとしているところをララたちが誘ったのである。
ちなみに釣り竿はララ特製だ。
「なぁ、この湖本当に釣れるのか?」
「掲示板じゃ……」
「釣れるらしい……」
「ふ~ん」
ララとルルの言葉に生返事を返すとシロは再び変化のない水面に意識を置いた。
のどかな時間が無駄に過ぎていく。
☆☆☆☆☆☆
「エルちゃん、これこの辺でいい~?」
「そうね、いいんじゃない。あっ、ミルフィー、ちょっとミカと一緒に使えそうな薪拾ってきて」
「えぇ~、めんどくさそう~」
「途中でモンスター狩ってもいいわよ」
「よしっ、ミカちゃんいこう~~!!」
「はーい、エルちゃん行ってきます」
「気を付けてね、あとミルフィーのことよろしくね」
凄まじい手際でテントを立てたエルは意気揚々と森へ入っていくミルフィーとミカを見送る。すると、入れ違うように近くで食材を出していたユキとフィーリアが近寄って来た。ちなみに、ルカは周囲の探索へと出かけた。
「あの、なんだかすみません。全部やらせてしまって」
「いいのいいの、こっちだって食材貰ってる身だから。えぇと、ユキちゃんとフィーリアちゃんだったわよね? 二人ともそんなに畏まらなくていいからゆっくりしてね」
「で、でも、何かお手伝いすることないですか?」
テント張りやかまどの作成、さらになんか日光を遮るような屋根まで、全て任せっきりにするのは心苦しいフィーリアとユキ。二人のその表情にエルは腕を組んで頭を悩ませる。
正直、二人に何かやらせようと考えてももはや必要な作業は全て終わらせてしまったのでやることがないのだ。だが、それを二人に説明しても納得はしないだろう。こういう人達の場合は必要ないと言うよりも何かやらせておいた方がいい。
「そうか、そうね……なら、私とお話でもしましょうか」
「「えっ?」」
「ほら、さっきまでシロ君? だったかな。彼ばかりが話してあなたたちと話をする機会がなかったじゃない。これを機にお互いのことを話しましょう」
ニコッ、と微笑みを浮かべたエルにユキとフィーリアはその大人な対応に惚けてしまった。二人のその様子に首を傾げるエル。正常に戻った二人はエルの提案に従うことにした。
ララとルルが作成したベンチに座る二人。エルもその対面に座ると足を組んで二人の顔を凝視した。
「じゃあ、改めて自己紹介しましょうか。私はギルド【向日葵の輪】のギルドマスターを務めているエルよ。趣味は映画観賞かな、よろしくね」
「えぇと、ユキと言います。趣味は友達と遊ぶことです、よろしくお願いします」
「フィーリアです、趣味……というか、日課はアニメやお芝居などを見ることです。宜しくお願い致します」
互いに自己紹介を終わらせた所でエルは会話を続ける。
「そうね、何から話そうかしら……あっ、聞いておきたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「君たちってパーティメンバーなの? ギルドとかじゃなくて」
「はい、固定パーティですね」
ギルド、それは固定パーティの上位互換のようなものでありゲーム内での団体。
メリットはギルドホームが貰えたり、PvPのギルド戦に参加できるなど多岐に渡る。BGOでギルドへの加入は一人一つと定められているので兼任などは出来ない。そうなると、ギルドというのはいわば家族のようなもの。時にぶつかり、時に助け合う、打算など一切なく一緒にいたいと感じられるような仲間が出来るのがギルドである。
ユキたちがまだどこのギルドにも加入していないと知るとエルは安堵のため息を吐いた。これでどこかのギルドへ加入しているとなったらもう【向日葵の輪】に誘えない。
ヘッドハンティングは規約違反ではないのだが、プレイヤー間では忌み嫌われているためあまり前例がないのだ。
「そうか、ふ~ん、なるほどね……」
エルは顎に手を当てて思案顔になる。さて、ここからどうやって勧誘するか。頭をフル回転させエルは考える。急に黙り込んだエルにユキとフィーリアは不安になるがすぐにエルが元に戻ったので杞憂に終わった。
「……ねぇ、君たちはギルド作る予定とかないの?」
「ギルドですか? う~ん、考えたことないなぁ」
「私はそういうのよく分からないので……」
「予定はないのね? あっ、でも彼は考えているかもしれないわね」
「いや、多分それはないと思いますよ」
ユキの言う通り、シロにはギルドを設立する気など微塵もない。《神様》の正体が分かったらその日のうちに姿を消すと何度も明言しているため、シロがギルドを設立させる必要がない。
「そうか、なるほど。ふむふむ……」
「あの……?」
「あっ、ごめんね。ちょっと考え事してて……それでさ、二人とも単刀直入に訊くけど」
「「はい?」」
「……二人ともウチに来る気ない?」
☆☆☆☆☆☆
「凄いことになったな」
「大量……」
「大漁……」
アイテムボックスに入っている魚の量を見てシロが感嘆の声を上げる。時刻は夕暮れを少し過ぎ、空には茜色が濃く染まりつつあった。
「すっかり遅くなったけど、二人とも大丈夫なのか?」
「「何が?」」
「いやほら、狩りとか探索とか行きたかったんじゃないのか?」
「「ノープロブレム」」
「あ、そう……」
サムズアップで自信満々な顔をする二人を見てシロは怪訝な表情を見せる。まぁ、どうでもいいのだが。
「あっ、おかえり三人とも」
「「ただいま」」
「……ども」
ベースキャンプ地へと戻ったシロたちに気づいたエルが声を掛ける。ララとルルは慣れているような気怠そうな声を、シロは遠慮気味に返事をした。
「シロ君おかえり」
「おかえりなさい」
「おう、お前ら今まで何してたんだ?」
「「……」」
シロが二人に訊くと、二人はどこか困ったような表情になり、黙り込んでしまった。その様子にシロは首を傾げるが特に気に留めなかった。
「大漁~」
「大量~」
「おぉ、凄いね。これは今夜は豪勢にいけるね」
アイテムボックスから出された魚を見てエルが嬉しそうに微笑む。確かに時間的に夕食の用意をしないといけないのだが。そこでシロはある疑問を浮かべた。
「ところで、誰か【調理】スキル持ちいるんですか?」
『……』
その沈黙が答えのようで気まずい空気が漂う。どうやら、誰一人として【調理】スキルを持っている人がいないらしい。
「ちなみに、リアル調理スキル持ちはいるんですか?」
「……さぁ?」
「いや、そこに疑問符打たれても」
可愛らしく首を傾げるエルにシロはジト目を向けてしまう。多分この様子だとここからはシロの仕事になる可能性が高くなるだろう。これだけの大人数の料理を作るのはシロ自身としても初めての事なので気合を入れないといけない。
シロが人知れず気合を入れていると森の中から探索に行っていたルカとミカ、ミルフィーが帰ってきた。
「ただいま~」
「ただいま戻りました」
「だだいま」
「おっ、三人ともおかえり」
「おかえり……」
「なさい……」
シロがエルたちの声に反射的にそちらを向くと偶然にもミルフィーと目が合ってしまった。
「……」
「……ぷいっ」
が、すぐにミルフィーがそっぽを向いてしまったのでシロはため息を吐く。確かに好かれているとは思っていなかったがここまで嫌われてしまっているとどう接すればいいか判断に困る。元々同じギルメンだというのが余計に心苦しい。
「さて、全員揃った所で夕飯にしたい所であるけど……」
そこでエルが一呼吸置いてから言葉を続けた。
「この中にリアル調理スキルを持ってる人?」
『……』
静まりかえる空気。
どうやらシロの予想通り、女子八人、男子一人の中で調理スキルを持っているのはシロだけのようだ。その現状をシロは嘆息をつくのを我慢しつつ、手を挙げた。
「「はーい……えっ?」」
挙がった手は何故か二つ。揃った声と共に挙げた本人たちはもう一つの手の持ち主を確かめる。すると、そこには挙げた相手がシロだと分かった瞬間、苦い顔をしているミルフィーの姿があった。




